微笑みと悲壮感

(10年ほど前にやりとりをしていた痩せ姫のブログにあった文章。部分的にささやかな改変もさせてもらってます)

・・・クライアントさんは、色白で目鼻立ちの整った美少女さんでした。入院レベルというほど痩せているわけではありませんでしたが、半袖のブラウスから伸びた二の腕やミニスカートから見える両足の細さには、ハッと目を見張るものがありました。
口元には微笑みを浮かべており、柔らかさと儚さをイメージさせましたが、顔色の異様なまでの白さと目の下に薄らと滲んだ隈からは、彼女の抱く悲壮感が伝わってくるようでした。
彼女もまた私をひとめ見た途端、一瞬動きが止まりました。その後はすぐに自然な態度になって、礼儀正しい対応と丁寧な口調を崩しませんでした。きっと彼女は気づいたんだと思います。私が「摂食障害」だということに。
もちろん、面接場面で私自身のことを話すことはありませんから、彼女の私への気づきに触れることはありませんでしたし、彼女もそれに関して私に触れてくることはありませんでした。
私と会っている間、彼女は非常に愛想の良い態度を貫きました。貼りついたような笑顔と丁寧語は「私はどこも悪くありません」「誰の助けも必要ありません」と、周りからの援助を拒んでいるように感じさせました。
同時に、彼女は誰のことも悪くは言いませんでした。「お父さんもお母さんも皆いい人です」「皆のことが大好きです」と、ニコニコしながら話しました。
その瞬間、私は強く感じました。あぁ….彼女は私だ、と…。
もちろん、容姿は似ても似つかないほど私のほうが劣っていますが、周囲への対応の仕方とか発言内容が、まるでいつもの私とそっくりなのです。なんとなく予想はしていましたが、目の当たりにするとかなりショックでした…。
その後も彼女は本音の部分を見せることなく、どこか人を寄せ付けない空気を貫いたまま面接室を後にしました。彼女が今後、私の前に姿を現すのか、もしくは他の専門家に助けを求めてくれるのか分かりません。・・・

書いた人はカウンセリングのような仕事をしていて、そんななか、自分よりも若い痩せ姫に出会ったわけだ。そして、相手が「気づいた」のも無理はない。この人のほうが入院レベルの痩せ方だったのだから。
この人は僕の小説にもたびたび、鋭くて深い感想を寄せてくれた。この文章もまさしく、痩せ姫としての共感性や観察力、さらには文才のたまものといえる。
それにしても、このクライアントの目に、この人の姿はどう映り、どんな思いを抱かせたのだろう。

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