何処までもやせたくて(76)十数年分の拒食


「そのNちゃんって子、前も思ったけど、
やっぱり、根が深そうだね」

なみちゃんの異変について、ネットの友達がくれた返事。
図書館のパソコンコーナーで、ドキドキしながら読んだ。

「Nちゃんって、もともと少食で、すごくやせてたんでしょ。
もしかして、それ自体、軽い拒食だったんじゃないかって、
そんな気がするの。
子供の頃から、家族の問題とか、いろいろストレスがあって、
無意識に、自分を小さく、きゃしゃにしようとしてきたんじゃないか、って。
けなげで、控えめで、頑張り屋で、っていう彼女の性格、
ちょっと、過剰に感じるから。
過剰なほどの『いい子』として、生きるための象徴的な意味が、
彼女の食生活や体型にじつは現れてた、そんな風にも思えるんだ。
その反動が、今の過食になって出てきたのかも。
もしそうだとしたら、大変だよ。
十数年分の拒食の反動、ってことだからさ」

最後の一文に、背筋がゾクッ。
ドキドキが恐怖に変わり、体が震える。

もし、その指摘通りなら、なみちゃん、どうなっちゃうんだろ。
それこそ、これから十数年分の過食に苦しめられることになったら・・・

私にできること、何かないかな。

これ以上ひどくならないよう、力になってあげなきゃ。

でも、その気持ちをネットの友達に伝えたら、
「気を悪くするかもしれないけど・・・」
なんだろ、イヤな予感。

「今は少し、距離を置いたほうがいいと思うよ。
彼女の発症には、あなたと出会ったことも少なからず関係してる気がするし、
彼女がもっとやせたら、あなたはもっともっとやせたいって、
思ったりするんじゃない?
いい影響は、おたがい、与えあえないような気がしてならないのよね。
それより、自分のこと、これ以上ひどい状態にしないよう、考えたほうがいいよ。
最近、どんな調子なの?」

落ち込みながら、ここ数日の状況と健康状態、説明してみる。

「うーん、なんて言えばいいんだろ。
うちに比べたら、あなたの親、けっこうマシな気がするし、
いつまでも逃げ切れるもんじゃないから、
勇気を出して会ってみるのも悪くないって、思ったりもするけど。
こればかりは、人それぞれの問題だからね。
ただ、今の状態、かなり危険だよ。
体重とか、体調とか、私が救急車で運ばれて緊急入院したときと、
なんだか、似てる気がするの。
それに・・・たしか、関東に住んでるんだよね?
さっき、ニュースでやってたけど、今、そっちはものすごい荒れ模様なんでしょ。
雨も風も、台風並みとかで、明日の朝ぐらいまで続くみたいだし、
とにかく、気をつけてね」

なみちゃんの家を出たとき、西の空に広がってた黒い雲を思い出す。
やっぱり、天気、崩れちゃったんだ。

でも、折りたたみ傘は持ってるし、大丈夫。
駅まで歩けば、あとは電車で移動して、
どこかの駅ビルで、時間つぶせばいい。

母親は遅くとも、最終の新幹線で帰るだろうから、
図書館が閉まる6時までここにいて、そこから3時間粘れさえすれば。
大丈夫。
なんとか逃げ切れるよ。

でも・・・
図書館を出てみたら。

甘かった。
横風がすごくて、傘がさせる状態じゃない。
仕方なく、ずぶ濡れになるのを覚悟で、歩き出す。

なんとか、50メートルほど歩き、大通りへ。
そして、駅の方向に曲がろうとした瞬間・・・

体がふわっとして、足が地面から離れた。


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