風花や同窓会の便り来て

　年賀状を書いたのが　４０枚。３分の１は企業から、残りの３文の１は　親戚で　同窓生は後の３文の１とはいかなかった。
送った人のうち１人はメールでもう１人は電話で返事が返ってきて、久しぶりの長話。それも　ええもんやなあ！と　思うようになった。
そして、年賀状が来た人の２人は「来年からのお年賀は失礼いたします」と書かれていた。

　もうそんな年齢になったんやなあ！と考えさせられた。そしてやっぱり、同窓会にも事欠いた。私の同窓会というのは　高校時代の「音楽クラブ」のことを言う。クラブの一員のある友人に年賀状を送ったところメールで返事をくれた。
「新年早々年賀状をありがとうございました。長い間会えないので今年こそ会いたいですね。その節はよろしく！」と書かれていた。
また、かいなあ！　毎回、幹事役がいないのだ。
ほぼ、私がやることになるので、今度から順番にしよう！と言ってたはずなんやけど…。　
　京都の学校の同窓生は勿論京都の在住人が多い。京都に住まなくなって　４０年近くになる私には、京都の町もすっかり様変わりして　どんなところにどんなお店があるのやら、さっぱりわからなくなっていた。
そこで京都に住んでいる人が幹事をやってほしいと言ったのだが、何やかやでやっぱり私がやることになった。　それならこちらまで来てもらおう！　
私は集合場所を京阪枚方市駅にした。

　幹事が決まるまでは「どこへでも行きまっすさかいに…！」と　大見えを切っていた人が　一番心配な人だった。数年前やはり私の近くで夜の同窓会をやった時、集合時間に遅れたのが彼だ。
特急電車に乗ればアッと言う間なのに、来た電車に乗ったところが「普通」だったという。今はもう「普通」は無くなり「準急」になっているが…。　そりゃ～、時間もかかるだろう！　かれの家に電話をすると、奥様が「又ですかあ？　あの人、ようこんなことやりますねん」と嘆いておられた。が、そこへ現れたので「あ～、来やはりましたわ～」と、その時は一件落着した

　そんなことがあって、もう数年が経っている。集合場所まで来るには来たが、「帰って来いひん！」なんてなったら、行ったきりスズメで大変なことになる。そこで、皆さんと相談して、奥様に同伴してもらうことを提案した

　最初渋っていた奥さんも私たちを全く知らないでもなかったので
「お墓詣りの時帰りに寄せてもうたこと何回かあったし、みんな全く知らんこともないやろ？　最初は気まずいかも知れへんけど、最初だけやん。　　これから先どんどんお誘いが少なくなっていくようになるから、誘われるうちが花やと思うて！」と、言うと「私もそんなこと聞いて　出来るだけ参加するようにしてます」とのことで「これで決まった！」
本人曰く「私のことは皆さんに言うてもろてええから、付き添いで奥さんと行きますので　よろしゅうに！」と、話はまとまった。

あ～、こんなして一人減り二人ヘリしていくんやろなあ…。

　私は裏のご夫婦のことを知っていた。穏やかでとてもいいご夫婦だった。
理想を絵に描いたような穏やかなご夫婦だった。
しかし穏やか過ぎた老後の生活に異変が起きた。
ご主人の認知症がはじまったのだ。
　生活は一変した。穏やかな奥様は御髪が真っ白になり、おとなしかった　ご主人の怒声が聞こえ、暴力がはじまったのだ。　まさに　青天の霹靂…！
あれから、何年経ったのかわからないが、明らかに洗濯物はご主人のズボンや下着が多くなり、奥様の御髪は益々白く薄くなっていった。

　私は同級生というだけで、いやクラブが同じだっただけの理由で、お節介だと思ったが、やはり　翌日電話していた。
「いつ頃から物忘れがひどくなった？」
「そやなあ、いや、有名な俳優さんや野球の選手は覚えてるでえ、そやけどなんや、出てきいひん事が多いんやわあ。この間もお彼岸にあんたのお寺に連れて行ってもろたわなあ。その時「奥さんに！」って、お土産を買うてくれたのが、だいぶしてから、この前の朝ごはんに付けられてたのを食べて『これ、おいしいなあ、どこで買うたんえ』って聞いたら、うちの嫁さんが『００さんのおみやげやんかあ』て言うたんで『００さんて、聞いたことないなあ、あんたの友達か？』て聞いたら、嫁さんがイライラしだして『００さんて、あんたの友達やんか！お寺連れてもろた時に　おみやげにもろたやろ！』て言われてはじめて、あ～、あの時のな！　そう言うたら、お礼言うてへんなあって、電話してん」
　私はこの話を聞いていて、すぐ裏のご夫婦のことを思い浮かべた。　　　そして　思わず聞いていた。
「『物忘れ外来』て知ってる？」
「知らん！そんなん、どこにあるん？」
「今通ってるお医者さんに聞いて、紹介してもらい！早いほうがええわ！」

そんなこんなで二週間が過ぎたころ、電話がかかってきた。
「行ってきました！」
「どこえ？」
「どこえ？って、あんたが行け！って言うてくれた『物忘れ外来』やがな」
「ああ、それでどうやった？」
「軽い症状らしいわ」
「よかったなあ」
「おおきに！それで、だれに進められてきたんですか？って聞かれたから、云々、言うたら　あんたのこと褒めたはったえ」
「だれが？」
「先生がやな、早う見つけてもろてよかったですなあって。そやけど、高いねん、普通のお医者はんより高いねん」
「保険利かへんのん？」
「利くよ！そやけど、高いねん。こんな高いんやったら　もう行かんでこのままでええと思うねんけど…」
そこで私は裏のご夫婦の話をして
「あんたの奥さんにそんな思いさせとうないやろ？」「うん」
「そんなんやったら、いまのうちに進行を止めなあかんやん！　早い目に行ってお薬をちゃんと飲んで、それで家では『ノートレ』をし！」
「『ノートレ』って何なん？」
「脳を活性化させるんやん、脳に刺激をあたえる物」
「それって、どこで買うのん？」
「本屋さんで！　近くに本屋さんあるか？」「ある、ある、２軒あるわ」
「なほ、そこへ行って『私ちょっと物わすれが激しいなってきたんで、ええ本ありますか？』て聞いたら、教えてくれはるわ。その中で一番好きな物を選んで、それの一番かんたんでやさしい物、薄いほうがええわ。小学一年生のもんでええんやで、出来たら達成感があるやろ？」「ふんふん」「それをやっていくねん」
そこで、私は奥さんに代わってもらった
「色々言うてごめんな！」私は裏のご夫婦の話をして「奥さんにそんな思いさせたくないねん。いろいろ言うようやけど、堪えてね。奥さんには食事で脳に栄養が早くいくようにがんばってもらいたいねん。認知症は脳に刺激を与えるのと同時に栄養　主にたん白質がええらしいわ。思いつく限り言うからメモしてくれへん」「もう、メモってます」
「そうか、ほんなら、言うね。卵、鳥の胸肉（私、モモばっかり買ってましたわ。わたしも！けどモモよりムネ肉の方がタンパク質が多いんやてえ！　へ～知りませんでしたわ。ムネは硬いので柔らかくする方法スマホでしらべてね、そうします）牛乳（あ～、あの人お腹壊しはりますねん、それやったら、コーヒー好きやろその中に入れたらちょっとでも摂れるやん、クリームシチューなんかきらいか～？　それは好きです！　それはええことやわ！　チーズを一杯入れて焼いたらグラタンにもなるしな！）それから…と　豆腐は？（好きです。よかったなあ）チーズ（私は毎朝たべてます。ほな、ついでに一緒にな！）とまあ、こんな感じで「親に成り代わりまして言わせてもらいます」となった。

　翌々日奥様から電話があって、
「主人、薬嫌いやから、飲まへんのです。朝一錠飲んだら『もうええやろって』いいますねん。言うてやってください」「ほな、代わって！」
「お薬、飲まへんのやてね？」
「そうかて、どうもないんやもん、高い薬やとお金ばっかりかかるやろ～」
「なんのお薬飲んでんのん？」
「え～と～、」　出てこなかった。
「まあええわ、けど、何のために高いお金払うて　高い薬代払うてんのん？　進行遅らせる為やんか？　わかってる？」
「わかってる」と神妙に答える。（きっと、この人はお金が心配なんやなあ）と思ったので奥さんと代わってもらった。
「お薬、どんな薬　飲んではるの？」
「え～と、亜鉛とビタミン類」
「そんなんやったら、深刻な状態やないから『亜鉛』と『ビタミン剤』なら
ドラッグストアに行ったら売ってるし」
「ドラッグストアって？」
「薬でも生理用品でも食品まで、安う売ってる大きいお店！」
「あ～、あります、あります。そこで、売ってるんですか？」
「安くで売ってるから！病院の薬が無くなったらそれを買って飲ませてあげたらええんと違う？　お陰で早期発見やから…　後は脳に栄養と刺激やな」

「ありがとうがざいます。いろんなこと教えてもろて…　主人に厳しい言うてやってくださいね。わたしらでは聞かへんのですわ」といわれた。

ついで、と言ったら叱られるかも知れんけど　一級上の先輩も、確か同級生と結婚したはるって聞いてたので　ハタッと思いついて電話をしてみた。
「▲さんがちょっと危ないんで、奥様が一緒に来られます。先輩の奥様も　先輩と同級生と聞いていましたけど…」
「ああ、同級生やけど地域が違ごうて隣の学校やねん。けど、中学校は一緒やから全く知らんでもないんやけどなあ。私も危ないから！言うて家内に付いて来てもらおうかな？」と先輩はおおらかに笑った。