きたはらふひと

小説を書いています。過去には音楽フェス『廃病院パーティー』『ぐるぐる回る』『廃校フェス…

きたはらふひと

小説を書いています。過去には音楽フェス『廃病院パーティー』『ぐるぐる回る』『廃校フェス』に主催者及びキュレーターとして関わり、音楽ニュースサイトの運営も行ってきました。写真は画家の矢野ミチルさん撮影

最近の記事

Possibility【短編小説】

可能性弾  トリガーを引いた。目前に広がる超空洞に向け可能性弾が撃ち放たれた。宇宙の空白が切り取られ、あらゆる重力がその隙間を瞬時に埋める。殺到した重力により耐捩性の戦艦は1本の紐にまでその姿を変える。だが次の瞬間、空間が戻り私は私の姿を取り戻している。 「およそ100万光年に渡る空間がこの宇宙から姿を消しました」  自己決定型駆逐艦の声が脳に直接響く。その声は脳内に確かに位置を得たのだが、私にその意味が浸透したことを意味しない。夕食の後の団欒時にクマのぬいぐるみがディナ

    • リズム 【短編小説】

      リズム I  二の腕にしっとりと汗が滲む。足取りは軽くも重くもなく、胸が上下しない程度に息が弾んでいる。体の調子はまずまずといったところ。これは良い傾向だった。体調が良すぎると走りすぎてしまい、次の日に不調を抱えることになる。ほどほどに、そこそこに、毎日走れることが今の私には必要だった。  月が灰色の雲に隠れてはまた姿をあらわす。雲の薄いところから漏れだす弱々しい光は私になにも力を与えない。地上では生暖かい空気が私にぶつかって、しばらく体に張り付いてから流れ去る。商店街

      • 遅々として進まない読書

         僕は本を読むのがすごく遅いです。新しく読む作家の本は特に。それには理由があって、文体に体を馴染ませるのに時間がかかるのです。  文体という言葉は難しいのですが、ここで書くのは句読点を打つ癖程度のことだと思ってください。同じような文章でも「泳いでいる。波が顔に打ちつける。痛い。潮水が鼻を刺激する。それこそが僕には安らぎだった」と、「泳いでいる僕を目掛けて波が打ち寄せ、顔にかかった潮水のせいで鼻が痛い。この痛みを感じることこそが僕の安らぎだった」みたいに、作家ごとに、作品ごと

        • 猫の言葉が移ったんゆ

          僕ァ因島(いんのちま)にじきじぎ移住してからいうものがい、毎日のよーに友達と遊んでくらしとるゆうて、越してくる7〜8年くれえ前(めー)は誰ともじぎじぎ会うてなかったんゆ。その間にがい、言葉がじぎじぎ変になってきたんじゃがにゃん。 なんでかゆーたら、猫としか話しよらんかったからじゃがにゃん。猫の言葉がじぎじぎ移ったんゆ。 今は人間社会にえぎ復帰して、だいぶまともに喋っとるがにゃん。酔おた時とかにじぎじぎ言葉が元に戻どーとるようやでぃんな。じぎじぎ、猫ゆーたがにゃん恐ろしいが

        Possibility【短編小説】

          共感は出来ないけど全力で支持したい

           これは画家で友達の矢野ミチルさんから送られてきたLINEのメッセージです。先日アップした記事「逆境に立たない」を読んでもらっての感想です。  この「逆境に立たない」を矢野さん(僕らはチルミーと呼んでいます)に読んでもらったのは、まだnoteを始める前でした。とある作家で画家をやっている別の友達から「エッセイを書いてみない?」と提案されていくつか文章を書いてはいたものの、世に出すふんぎりがついていませんでした(この友達の話はまたの機会に書きたいと思います)。  ふんぎりはつ

          共感は出来ないけど全力で支持したい

          逆境に立たない

           僕は暇が好きです。これを書いている現在、すごく暇です。スケジュール帳やアプリを持たなくてよいくらいには予定がありません。僕はいつだって暇でありたいし、高校を卒業して以来だいたい暇でした。バイトをしていたり、音楽ニュースサイトを運営していたりして暇じゃなかった時期もありましたが、概ね暇だったと言ってよいでしょう。  暇のなにが良いって、友人の遊びの誘いにほいほいと乗れることです。「これから家に遊びにおいでよ」とか「明日飲もうよ」とか「海を見に行こうよ」みたいに誘われても断ら

          逆境に立たない

          廃病院パーティーの話①

           僕には誇れることがあります。それは音楽フェスティバル『廃病院パーティー』を主催開催したことです。  このフェスは、東京は初台の廃病院で2013年〜2019年にかけ4度に亘り開催したもので、地下室や病室、ICUなどをライブ会場にし、病室などでお化け屋敷、落語、授業、現役格闘家やトレーナーによるマッサージ(なぜかプロレスの覆面を被っている)などが同時進行で行われるというもの。  その他にも仮装コンテストやプレゼント交換会、フェス主催者による公開対談を行ったり、コスプレイヤーが

          廃病院パーティーの話①

          空想と小説

           初めて空想をした日のことを今でも憶えています。それは小学校1年生の頃。両親が共働きだった僕は学童保育に入っていました。そこでは月に一度、子どもたちに100円のお小遣いを渡して好きなお店で好きにおやつを買ってよいという日がありました(なんて素晴らしい日!)。そんな「100円おやつ」の日に仲良くしてもらっていた3年生に連れられて、僕は駅前の暗い横丁に初めて足を踏み入れました。  そこは八百屋さんや乾物屋さんなどが数軒あるだけの小さな横丁だったのですが、その中で子供の目に一際輝

          カギカッコ付きの「はじめまして」

          「 はじめまして」 このフレーズは、ブログなどで文章の投稿を始める際の定番の挨拶だと思います。僕はnoteで文書の投稿を始めるにあたり、文頭に「はじめまして」とまず書き、それから簡単な自己紹介を書こうと思いました。実際に書いてみました。でも、なんかしっくりこない。自分でしっくりこない文章を果たして投稿して良いのだろうかと、ちょっと悩んでいます。 そもそも「はじめまして」って、初めて会う人同士の挨拶であるわけですが、その初対面が成功する時としない時があるよなあと思いはじめま

          カギカッコ付きの「はじめまして」