見出し画像

ジストニアについての文献紹介

 目崎高広著2011「ジストニアの病態と治療」『臨床神経学』51‐7:465‐470 を紹介します。

 構成は、ジストニアの病態、ジストニアの治療、からなる。

 ジストニアは、中枢性の持続的な筋緊張を特徴とする運動異常症の一症候群。Oppenheimによって1911年に提唱。つまりジストニアは疾患名ではなく、運動異常症の一症候名。ジストニア姿勢とジストニア運動を区別する。特定の随意運動時に出現、あるいはいちじるしく増強する場合を動作性ジストニアとしている。

1.ジストニアの病態
 罹患部位によって、局所性、分節性、全身性、多巣性、片側性に分類。随意運動をおこなう骨格筋にはジストニアが生じうる。発症年齢が低いほど広汎に罹患する傾向。成人発症の場合は大半が局所性。原因の有無によって一次性(原発性)、二次性(続発性)に大別。
 次の特徴が診断の参考になる。
1)定型性
 ジストニアの異常姿勢、運動パターンが患者毎に一定、変転しない。
2)動作特異性
 特定の動作や環境によってジストニアの症候が出現したり増悪したりする現象。書痙や音楽家のジストニアなど。
3)感覚トリック
 特定の感覚刺激によってジストニアが軽快(または増悪)するとき、その行為または現象をさす。
4)オーバーフロー現象
 ある動作の際に、その動作に不必要な筋が不随意に収縮してジストニアを呈する現象。
5)早朝効果
 起床時に症状が軽いという現象。昼寝をしても改善しないことが多いため、睡眠の影響とはいえない。早朝効果は軽症例に多くみられ、重症化すると消失する傾向。
6)フリップフロップ現象
 ジストニアの症候が、何等かのきっかけで急に増悪あるいは軽快する現象。
7)共収縮
 ジストニアの筋緊張異常の本質は共収縮と考えられている。最終的には、拮抗筋の筋緊張変動によって不随意運動が生じる
8)陰性ジストニア
 意図する運動に必要な筋が十分に駆動されない現象。しかしその存在についてはまだコンセンサスがえられていない。ジストニアは筋緊張亢進を特徴とする症候と考えられているので、この現象がジストニアなら、ジストニアの再定義が必要。

2.ジストニアの治療
1)内服治療
 特殊なばあいを除き、有効率が低いこと、副作用が問題になったりすることから、補助的役割にとどまっている。
2)ボツリヌス治療
 局所性ジストニアでは第一選択。
3)バクロフェン髄注療法
 脳脊髄疾患に由来する重度の痙性麻痺が適応症。全身性ジストニアも対象になりうる。
4)外科療法
  罹患範囲の広いジストニアは定位脳手術の適応。一次性ジストニア、薬物の副作用で生じる遅発性ジストニアで効果が高い。その他の二次性ジストニアでは一般に効果が劣るが、有効例も少なくない。
  局所性ジストニアでも、書痙では視床手術の高い効果が報告。
5)鍼治療
 血流改善、鎮痛のみでなく、筋緊張の調節を目的とする。筋緊張の抑制・促通ともに可能であるため、陰性ジストニアにも対処できる。
6)理学療法
 ジストニアに対するリハビリテーションの方法、効果について一定した見解はない。ジストニアでは時間的・空間的感覚弁別能が低下しているので、近年では書痙において、手指の運動・感覚の弁別能を高める訓練が提唱。一般に、罹患部位の筋力訓練はジストニアを悪化させることが多い。、一方、可動域制限を認める場合、明らかな共収縮がなければ、可動域訓練が推奨される。力づくではなく、負担の少ない方法で正常に近づけるのが原則。
7) 心理療法
 大脳基底核と偏桃体との間に密な線維連絡があるため、大脳基底核との関連の深いジストニアは、情動の影響を受けやすく、心身のストレスによって症状の悪化をみとめることが少なくない。情動の影響が顕著な例では、心理療法を考慮する。しかし適応判定や方法についての知見は不十分であり、むしろ心因の関与が少ない例で不必要な心理療法がおこなわれている点が問題。近年、認知行動療法の効果が期待。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?