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「ライダーズ・オブ・ジャスティス」・ヨーロッパのアメリカ批判映画

アマプラで観れる「ライダーズ・オブ・ジャスティス」

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デンマークのアメリカ批判映画でした。表面的な皮肉だけでなく、根源的な部分まで踏み込んでいるので取り上げます。出来は非常に良いです。内容関係なく映像美だけで十分見れます。

あらすじ

父はアフガンに派兵されています。

母と娘は家を守っています。

ところが列車事故で母が死にます。

事故に遭遇した数学者、およびその友人の数学者、およびITオタの三人が相談して、急遽帰郷してきた父を訪問します。

「おそらく事故ではない。その列車に同乗していた人物を殺すためのテロだ」

怒った父は、なにしろ元兵隊なので、犯人グループとおぼしき連中を殺してゆきます。ある程度殺したところで、なんと、三人組の間違いだという事実が発覚します。どうしましょう。もう殺しちゃいました。

犯人(とみなされていた)グループは総力を結集して最後の戦いに乗り込んできます。父と三人組たちは、返り討ちにして皆殺しにします。ひどいもんです。

父と娘と三人組はその後、皆で楽しくクリスマスを祝います。ちょっとは良心の呵責感じましょうよ。何人無駄に殺したんですか。喪に服すくらいはしましょうよ。

CIAと米軍

アフガンで活躍しているお父さんは無論米軍の暗喩です。ITを駆使して犯人を突き止める、あるいは突き止めたと思い込む三人組はCIAです。両方悪いのですが、妻が死んで復讐心に燃える単純な夫なんぞ世界中どこでもいますから、この場合考えなければならないのは三人組です。

数学者は企業に雇われて統計をいじくって研究していました。没入しすぎて、「これさえ極めれば神になる」くらいの勢いでした。特に役に立たない研究だったのでクビになり、帰りの列車で事故に遭遇します。

一方で母を失った娘さんは、事故の原因を考えます。自分の自転車が盗まれました。だから車で登校しようとして、でも車が不調でエンジンがかからず、タイミング悪くアフガンのお父さんから帰宅が延びると電話が
あって、お母さんが気落ちしたので町で遊ぶことにして、帰りの列車で事故にあってお母さんは死にました。全部自転車泥棒が悪いんだ。

ところがそれを見た数学者が、その考え方を批判します。
「どんなに賢くても、人間の脳ではその一部も処理できない」
「無数の原因をみつけても君は救われない」

クビになった会社で主張していた、

「事故が起きる前に原因を特定できたら?(俺ならできる)」

に比べれば、数学者さんも大幅に成長していますね。狂気のCIAも少しは改善したのです。すると娘は本音を言います。

「(自転車)泥棒のせいじゃないってわかっている。でも怒りをぶつける相手がいれば楽だから」

ではその自転車はどこにいったのでしょうか。

老人と孫

映画の冒頭は、老人と孫娘が会話しています。娘はアフガン駐留兵の娘とは別の人物です。老人はクリスマスのプレゼントに自転車を贈ろうとします。でも自転車屋には、孫娘の気に入らない、赤い自転車しかありませんでした。

自転車屋にすすめられて、青の自転車を注文します。

しかし自転車屋はワルでして、注文されても問屋に連絡するのではなく、窃盗団に連絡しました。

結果盗まれたのが、例の娘さんの自転車です。

ラストに飛びます。クリスマスが来ました。老人は孫娘を屋外に誘います。

そこには無事到着したクリスマスプレゼント、(盗品なのですが)青の自転車がありました。自転車に楽しそうに乗る孫娘のシーンで映画は終わります。

青の自転車を盗難されたことは、良いことではありません。でも誰かが幸せに使ってくれているのです。そして盗まれた人には、

クリスマスプレゼントとして赤の自転車が送られています。怒りは少し収まるでしょう。というか怒りを収めなければいけません。父と娘の怨念のようなものが、結果として大量殺傷を生み出しました。無益でしたね。

リトルドラマーボーイ

映画のタイトルの「ライダーズ・オブ・ジャスティス」は、父と三人組が攻撃した暴走族というか暴力団の名前です。バイクに乗るか自転車に乗るかの違いだけで、娘も、最初と最後に出てくる孫娘も、ライダーであることに変わりはありません。みんな自分が正義だと思っています。でも殺し合いをする。自分が正義だと思うから殺し合いをする。殺し合いをしないのは、孫娘だけです。本当のジャスティス、正義は彼女だけなのです。再度冒頭シーンを掲載しますが、

「神様次第だ、どうなるかな」とは祖父の言葉です。このシーンで背後に流れている音楽は、ラストで三人組の一人がホルンで吹く曲と同じメロディーです。

この曲です。

ホルンのメロディーはラストの雪の中の自転車シーンまで続きます。

冒頭とラストで同じメロディー、ということはこの曲が作品全体を代表する曲、ということです。この曲はアメリカで作られたクリスマスソングです。

キリスト誕生、東方三博士の来訪がテーマになっています。そういえば本作の三人組もアフガン兵士を「来訪」しますね。

作中勘違いで相手を殺してしまったと悟ったアフガン兵士は苦しみます。

その時に流れる曲も讃美歌です。

つまりこれはキリスト教映画なのです。

どれほど秀才を集めても、人間は人間でしかなく、全てを制御することは出来ない。悪の原因を見つけようと努力しても、自分も似た悪になるだけで救われない。アメリカよ、信仰を取り戻せ。神の前に謙虚であれ。

絶対的な基準というわけではありませんが一般に、作品中の要素をできるだけ多くカバーできていると良い解釈になります。「老人と孫娘」「原因は特定できると信じる数学者」などの要素を包括的に説明できる解釈を目指すべきです。特に冒頭シーンは重要な要素になりますし、末尾で冒頭が回帰した場合にはさらに重要になります。音楽も台詞同様に構成要素になります。本作の組み立て方は、「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」とよく似ています。

CIA

アメリカは随分嫌われる国家になりました。特にCIAですね。本作は直接批判せず、間接的に、婉曲に、しかし抜本的に批判しています。適切な戦略だと思います。

英米のウクライナ戦争への肩入れは、ヨーロッパいじめの側面がどうしてもあります。ドイツもフランスもイタリアもエネルギーで困っています。業を煮やしてマクロンが対中外交始めると、

フランス全土で騒乱が起こる。こういうのって普通にCIA案件なんですね。「そんなこと信じられない」という向きは、こちらの映画をどうぞ。これも出来はすごく良いです。

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しかしCIAも、そんな活動やればやるほど嫌われてゆく。これだけ嫌われると、アメリカの世界支配がかえって無理になります。世界覇権を失うための諜報謀略活動ですね。つまり全部無駄活動なのです。父+三人組の活動みたいなもんです。

というあたりを、読める映画人ならば十分理解できていますから、「ライダーズ・オブ・ジャスティス」のような映画ができる。無論この世から暴力がなくなるとも、理想の世界が作れるとも思っていません。ただ信仰心を、日本風に言えば仏心(ほとけごころ)を取り戻そうよ、と言っています。知識偏重ではもう限界だろうと。アメリカという国の問題点を、同じキリスト教文化圏だからこそ、端的に表現出来ている作品だと思います。






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