『マリクロワ』の謎 アンリ・ボスコ
『マリクロワ』
アンリ・ボスコ 作
天沢退二郎・訳
新森書房 1990年
この謎を秘めた長編を読んでからでも、三十年以上が経過してしまいました。
初読の際にいだいた疑問を、書いておくことにしました。
もしかすると、ネタバレになるかもしれません。未読の方は、以下を読まないようにお願いします。
***** ネタバレの恐れがあります *****
『マリクロワ』は、ワーグナーの楽劇『パルシファル』に影響を受けた愚かで無垢な若者の物語ではないかということです。
登場人物の対応を考えてみます。
パルシファル:主人公
グルネマンツ:小屋の番人
*
ティトゥレル:公証人
アンフォルタス:オンクル・ラー
*
クリングゾル:老人
クンドリー:少女
みんなが、そこにいます。
聖杯を守る二人の騎士である、犬と羊もいます。
クナッパーツブッシュ指揮のバイロイト管弦楽団のレコードは、二十代からの愛聴盤でした。何度もきいていました。
この楽劇の内容が、物語の背後で起こっていた、説明されていない事件の一部となるのでしょう。
つまり、もうひとつの聖杯探求の物語だと感じたのです。天沢退二郎氏の「訳者後記」には、まったく言及がなされていません。ネタバレになることへの配慮があったのでしょうか。
しかし、作品の力は、これぐらいの情報を明かしても、いささかも減じないでしょう。むしろ物語の迷宮に迷い、先へ進むことができなくなった読者への、ともしびとならないでしょうか。
ボスコの「土地」のリアリティには、魔法の力があります。たとえば、風。174から185頁へと、本文の10頁以上を使って描写される吹きすさぶ風。
「ひゅうひゅうと鳴る世界が、幅も高さも奥行きも、いよいよ非現実の広がりを見せていくにつれて、ぼくの魂のまわりにひとつの大いなる空(くう)の宙宇が形成された。風は星間をひたし流れる天の物質(マチエール)となり、風の星座が北天からぼくらの方へ降(くだ)ってきた。無限の世界を通って、大いなる「北風」に押し流される青い吐息の雨のように星々が次々に流れ、大いなる星座のかたちは万有の星の下にきらめき、長々と燃えあがる電光で空を切り裂きながらゆっくりと沈んで行くその様(さま)はぼくの目を奪った……」180~181頁
お読みになった方の率直な感想を、ききたいと思いました。備忘のためのメモとして、公開しておきます。
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