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事例研究 適正な不動産取引に向けて③

このnoteでは、『月刊不動産流通』の過去の記事を紹介しています。

今回は、「事例研究 適正な不動産取引に向けて」
(一財)不動産適正取引推進機構が、実際にあった不動産トラブル事例を紹介しながら、実務上の注意点を解説する人気コーナー。今回は『月刊不動産流通2019年3月号』より、「第三者の違法行為により履行期に不動産の引渡しができなかった売主に対する買主の違約金請求が棄却された事例」を掲載します。

★第三者の違法行為により履行期に不動産の引渡しができなかった売主に対する買主の違約金請求が棄却された事例

 売主に成りすました第三者が売買不動産の所有権移転登記を行なったため、催告期限までに売買不動産の引渡義務を履行できなかった売主に対し、買主が違約解除したとして債務不履行による違約金の支払い等を求めた事案において、引渡しができなかったことについて売主に帰責性はないとして、その請求を棄却した事例(東京地裁 平成28年7月12日判決 ウエストロ
ー・ジャパン)。

1、事案の概要

 平成27年7月10日、買主Xは、売主Y所有の土地建物(本件不動産)について、代金5億9000万円、決済日を同年9月11日、違約解除の場合の違約金を代金の20%とする売買契約を締結し、手付金5900万円を支払った。

 ところが本件不動産は、Yに成りすました第三者Cにより、平成27年8月3日付売買を原因として、Aへの所有権移転登記およびBの根抵当権設定仮登記が経由された。

 CによるAらへの登記手続きは、偽造運転免許証を用いてYの登録印の改印届けを行ない、印鑑証明書の交付を受け、公証人による本人確認情報を得て、本件不動産の権利証を紛失しているとして法務局に申請したものであった。

 同年8月20日にAらの登記に気づいたYは、翌日には不動産処分禁止の仮処分を申し立てるなどの対応をしたが、決済日までに登記名義を回復
することはできなかった。

 Xは同年9月12日到達の書面により、同日後7日以内に本件不動産の所有権移転登記手続および引渡しが可能になったとの連絡がない場合には、本件売買契約を解除し、手付金および約定の違約金を支払うようYに通知した。同年9月18日、YはXに手付金5900万円を返金した。

 Xは、決済日においてYが本件不動産の引渡し義務を履行しなかったとして、Yに対し、売買契約の債務不履行による約定の違約金1億1800万円および遅延損害金の支払いを求める訴訟を提起した。

2、判決の要旨

 裁判所は次の通り判示し、Ⅹの請求を棄却した。

⑴Yの本件登記手続等の不履行は、Aらの違法行為によるものであり、第三者の行為による債務不履行といえる。そして、第三者の行為であって、債務者に予見可能性および結果回避可能性がない場合は、その債務不履行責任を債務者に帰責することはできないと解されるところ、YにAらの登記の予見可能性および結果回避可能性は認められない。

⑵Yは、Aらの登記手続が判明した後、直ちに本件不動産の処分禁止仮処分申立てをしたが、法的手続を通じて、本件売買契約の引渡日ないしXの催告期限までに、本件不動産の移転登記手続を履行するのは不可能であったことが認められる。

⑶Xが、決済日が経過した後に、Yの所有権移転登記手続抹消請求訴訟の結果を待たずして、Yに債務の履行を催告した上で、本件売買契約を解除することも、契約の拘束からの早期離脱として許容されると解されるが、Yが所有権移転登記手続を期限までに行なうことが不可能であった以上、Yの引渡義務の不履行についての善管注意義務違反は、Xの履行催告を満たすことができないという結果には影響が及ばず、よって、本件売買契約の債務不履行について、Yに帰責性を認めることはできないので、Xの違約金の請求は認められない。

⑷なお、本件売買契約は、引渡前の不動産の滅失・損傷について、天災地変その他売主・買主の責に帰さない事由による解除の条項を定めており、第三者の行為により本件売買契約の期限における履行が困難になった本件も同様に取り扱うのが相当と解される。同条項により本契約が解除された場合、売主は、受領済みの金員を無利息で遅滞なく買主に返還することとなっているところ、Yは受領した手付金を既にXに返還している。

 以上により、XのYに対する請求にはいずれも理由がないから棄却する。

3、まとめ

 最近、地面師被害に関する裁判例がよく見られるが、本件は、土地所有者が地面師により売買取引を妨害された珍しい事案である。また、相手方に契約の履行ができない相当の事情がある場合には、売主・買主は協議してその後の対応を決めるのが一般的と思われるが、決済日翌日に一週間以内の履行を要求し、できなければ違約解除とする買主の対応も珍しい。

 しかし、本件判示のとおり、第三者の行為であって、債務者に予見可能性・結果回避可能性がない場合は、債務不履行責任を債務者に帰責することはできないのであって、協議によって、決済日を延長するか、あるいは本件判示でも指摘されているとおり、危険負担条項を類推適用して合意解除とするのが、信義則に則った適切な対応であろうと思われる。

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※(株)不動産流通研究所の著作物です。二次利用、無断転載はご遠慮ください
※事例に関する質問には応じることが出来ません。また、上記は執筆時点での事例の内容・判決です。その後変更している場合がございます

★次回予告

4月26日(火)に「月刊不動産流通2019年4月号」より「まちの履歴書」をお届けする予定です。


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