見出し画像

1億円調達のCasieが、シリーズA資金調達活動で感じた頼れるシードVCの存在感

皆さんこんにちは。藤原です。今回のスタートアップ取材記事は、Casie(カシエと読む)を取り上げます。彼らは最近シリーズAでデライト・ベンチャーズなどから1億円の資金調達を完了したというニュースが記憶に新しいところ。

Casieはサブスクによる個人宅向け現代アート定額飾り放題ビジネスを展開中です。現時点では日本だけでなく世界でも類を見ないビジネスであり、この新たな市場を切り開こうと絶賛邁進中です。今回、Casie創業者で代表の藤本翔さんにインタビューすることができましたので、ぜひご一読ください。Casieはいいぞ。

この記事の登場人物

株式会社Casie 代表取締役社長CEO 藤本翔氏(本文中に写真あり)
藤原弘之(質問内容を太字で記載)

今回の資金調達の経緯

今回はデライト・ベンチャーズの永原さんの紹介で取材させていただきましたが、Casieさんて京都ですよね?デライト・ベンチャーズさんと出会うきっかけって何だったんですか?
僕らは元々シードラウンドでKVPさんから出資を受けていたんです。KVPさんが年に2度ほどやられている『シリーズAに進むためのピッチ大会』みたいなのがありまして、それに昨年末、2019年12月に出場させていただいたのがきっかけです。

今回はデライト・ベンチャーズさんだけですか?
いえ、ABBALabさんとか個人投資家の方、あとKVPさんにも引き続きフォローオンいただいています。

今回資金調達されてみて感触はどうでした?こんな社会情勢ですが影響は?
3月頃にデライト・ベンチャーズさんは決まってはいたので、それほど大きな影響は受けませんでした。ただ1社だけ、あるメディア系のCVCさんからも出資を受ける予定だったのが、今回の騒ぎの影響で新規投資を凍結されまして、そこからの出資がなくなったというのはあります。

昨今のCVCあるあるですね。多くのCVCさんがその方針を採られているようで、僕の周りでもよくお聞きするお話しですね。
今回のCVCさんも既存の投資先にのみ注力される方針になったようです。

新市場開拓における広告の難しさ

結果的になくなりましたが、そのメディア系のCVCさんから出資を受けようとされた狙いというのはどういうところだったのでしょう?
僕らのビジネスって広告がほとんど機能しないんです。だから広報やPRをめちゃくちゃ頑張ってやらなくてはいけなくて、そこでご一緒できるのではと思っていました。

広告が機能しないというのは具体的にはどういう?
検索ボリュームがそもそも小さすぎるんですよ。『"絵画" "レンタル"』とか『"現代アート" "サブスク"』なんてキーワードで誰も検索しないじゃないですか(笑)

確かに(笑)これから市場開拓していくビジネスですもんね。
この状態で広告を打っても何にもならないし、仮にSEOで1位を取っても何も起こらないんです。FacebookとInstagramで月100万円かけて広告を打ったこともあったんですが、全然当たらなくて。どんな広告施策が響くのか、本当に試行錯誤する日々です。

そんな状況で御社のビジネスを端的に表そうと思ったときに、いつもどのように説明されていますか?
よく言ってるのが『現代アートの定額飾り放題ビジネス』ですね。

現代アートサブスクを始めた理由

アートに関連するスタートアップって、例えばUTEC等から出資を受けているスタートバーンのようにブロックチェーンでアートの出所をトレースしましょう、というCasieとはまた違うアプローチもあったりしますが、藤本さんがこの定額飾り放題ビジネスをやろうと思った理由に興味があります。その辺りいかがでしょう?
実は僕の親父が画家だったんですよ。それがめちゃくちゃ貧乏で、オカンが美容師のパートをやって何とか生計を立てていた、という感じでした。映画とかドラマとかでよく言われているような、典型的な売れない画家です。才能はあったんですが、アートを市場に流通させる手立てを親父は持っていなかったんです。

その場合、既存のプレイヤーって画廊とかなんですか?
そうです。日本の場合、ほとんどのケースで企画画廊というところに所属するんです。それこそ芸人さんが吉本興業に入るのと同じです。所属している企画画廊で個展を開いてもらって、美術評論家に評論文を書いてもらって、ようやく評価が付く。でも、こうやって食べていけるようになるのって、全体の7%くらいしかいないんです。残り93%の方々は、美大卒であっても、自分の作品で生計を立てることができていないのが現状なんです。

生活しようと思ったらどうすれば?受託で絵を描くとかでしょうか?
受託のマーケットもないので、街でよく見かける似顔絵師で生計を立てるとか、ゲーム会社に入ってゲームのキャラクターを作るとかですね。

なるほど。それで絵画を流通させる仕組みをCasieで作りたいということなんですね。絵を描きたい人の数が多いというのは分かりましたが、買いたい人の数というのは御社の見立てとしてはどうなんでしょうか?
いや、全然少ないと思いますね。世界のアート市場って7兆5千億円くらいあると言われているんですが、それに対して日本って2,000億円〜3,000億円くらいで、すごく小さいんですよ。

それって絵画だけじゃなくて彫刻とかも入ってます?
はい、芸術品なので、美術館の入場料なんかもこの中に入っています。だからアートの市場規模としては海外の先進国に比べたらめちゃくちゃ小さい。そもそも日本人がアートを購入するタッチポイントが全然ないんです。

確かに現代アートを買おうと思ってもどこに行けばよいか分からない(笑)
ついつい日本人って百貨店とか画廊とかに行っちゃうんですけど、そこは資産価値を保証するような売り方しかしていないんですね。お値段数十万円から、みたいな。カジュアルにアートを楽しんでみる、という環境が全くないのが現状なんです。だから僕らは月額1,980円からという価格で、世界で1点モノのアナログ原画をお部屋に飾れて、気分や季節に応じて何回でも交換できる、というサービスを展開しています。今は7,000作品くらい扱っていますが、さらに増えています。

これが今までなかったというのが不思議ですね。
法人向けの絵画レンタルだったら50年前から実は存在しています。日本全国で70社くらいありますね。ただ、個人向けはかなり難しいです。以前は、ある大手企業さんが少しやられていた時期があったようなのですが、ユーザー数が伸びず昨年撤退されています。

藤本翔さん

厳しい市場環境の中でVCから出資を得られた理由

そんな市場環境の中、シードではKVPさんが出資されて、先日のシリーズAではデライト・ベンチャーズさんなどが御社へ出資をされました。どのあたりが評価されてのことだとご自身では思われますか?
これはすごく大事なことだと思うのですが、『アート』を取り扱ってしまったら一般のユーザーは寄ってこないんです。僕らはアート作品をインテリアの文脈にコンテンツを置き換えて届けているので、敷居が非常に低い。何だか難しそうな感じを醸し出したり、高価そうな印象を抱かせたりしたら、実はダメなんです。一般の人が寄りつかなくなります。

芸術品だ!みたいな感じが逆に良くないと。
そうです。インフルエンサー的な人に宣伝してもらうのも、実はあまり効果がないんですよ。個人名を出して恐縮ですけど、例えばローラさんにインスタでCasieの絵が素敵みたいな投稿をしてもらったとしても、一般の人からしたら『ローラの家だから素敵なだけで、自分の家とは関係ない』と逆に思ってしまうので、それは良くないんです。それよりは普通の人がCasieのことをインスタで投稿してくれた方が断然効くんです。

それはすごく面白いですね。そういう点に気付いていたことが投資家からの評価のポイントだったんですかね。
アートを部屋に飾るハードルを如何にして低くするか、このあたりに注力していた点が、おそらく投資家さんから評価いただけたポイントなのではないかと思います。見せ方の工夫だけではなく、価格についても、どこの会社さんよりも低く抑えています。

そんな低価格が実現できるのはなぜですか?
僕らは今7,000作品取り扱っていますが、全て買い付けている訳ではなくて、それらを京都の自社倉庫に保管していて、レンタルされて初めてその売上を作家さんとシェアするようにしているからですね。固定費としては人件費と地代家賃くらいしかかかっていません。

見せ方や価格以外ではどうですか?
作品数については、去年の今頃が1,500作品だったのが、1年で7,000作品まで増えました。来年には30,000作品を目指しています。チャーンレートも実はめちゃくちゃ低いです。今まであった絵が急になくなると、お部屋が一気に寂しくなりますから、あまり解約されないんです。

シードVC『KVP』の存在感

話を少し変えてこれまで苦労した点などについてお聞きしたいのですが、どうでしょうか?例えばシリーズAの資金調達はどうでした?
実は資金調達にはそれほど苦労しなかったんですよ。最近思うんですが、もしかしたらKVPさんがめちゃくちゃ凄いんじゃないかと(笑)

KVPには知り合いも務めていて喜ぶと思うのでもう少し掘り下げさせてください(笑)どういった点が凄いですか?
そもそも彼らの投資先の中でシリーズAに連れていく確率が70%〜80%くらいあるらしいんですが、ハンズオンとか事業のモニタリングとかも徹底的にやってくれますし、次のラウンドに進むための準備も凄いです。例えば「シリーズAではこういう事業会社やCVCを入れたらどうか?」と提案してくれて、その投資家とのアポイントまで取ってくれるんです。

それは手厚い。
スタートアップって、投資家には100社当たって投資してもらえるのは1社あるかないか、みたな話をよく伺うんですけど、僕らは6社当たって、その半分から出資していただけた、という感じなんです。

なるほど。ということは、初めのシードラウンドでKVPから出資を受けるところまでが大変だったということですか?
というより、僕らはKVPさんから出資を受けるときも、めちゃくちゃ口説かれたんです。長野さん(※)から。元々は自己資金とDebtで細々とやっていこうと思っていたんで、出資は断っていたんです。僕自身、IPOに対する意欲はまったくもってゼロだったので。それでも長野さんから「藤本さんの考え方を変える自信がある」って言われまして。

(※)KVPの代表でGPの長野泰和氏。KLab社が2011年12月に設立したKLab Venturesの立ち上げに携わり、取締役に就任。2012年4月に同社の代表取締役社長に就任。17社のベンチャーへの投資を実行する。2015年10月にKVPを設立、同社代表取締役社長に就任。

結果として変わったんですか?
はい。事業をやるからには、いろんな共犯者を巻き込んで、スケール大きくやりたいと思うようになって、事業意欲をまんまと底上げされました。スモールビジネスからスタートアップの世界に連れてきてもらった感じです。

ではシリーズAの資金調達ではそれほど困難もなく?
いえ、やっぱりシードラウンドの時と違った点としては、TAMが読めないと言われることが多かったですね。市場があるかないか分からないと。あと「競合は?」と聞かれても、別に強がったりしてる訳ではなく事実として競合がいなかったり、「海外に先行事例はあるの?」と聞かれても、めちゃくちゃ探しましたけどありませんでした。僕らだけでなく、おそらく投資家さんもValuationを決めるのがかなり難しかったと思います。

いや〜、今回は面白いお話しをありがとうございました。資金調達で既存VCがこんなに力になったということをお聞きできたのは初めてなので、非常に為になりました。
こちらこそ、ありがとうございました!

KVP長野泰和氏のコメント

最後に、Casie取材後に改めてKVP代表の長野さんからもコメントをいただくことができましたのでご紹介いたします。

Casieに出資するにあたってうちから口説き落として出資させてもらったのは本当です笑
藤本さんの話を聞いてすぐにこのビジネスの可能性や社会的意義を感じました。アートの流通は巨大なホワイトスペースであり、新進気鋭のアーチストが生活をしていくプラットフォームになる。それを実現できるのは彼らしかいないと思いました。なので京都に行って当時法人向けにスモールビジネスしていた彼らに対して、絶対に小さくまとまってはいけない会社なんだということを話しました。
その時の未来予想図が徐々に現実になっているのでとても嬉しいです。Casieはまだまだ知る人ぞ知るという存在ですが近い将来誰もが知っている会社になると思っています。

合わせて読みたい変わり種サブスク関連記事

株式会社Casieについて

Casieオフィス風景

2019年1月にWebサービスをローンチしたCasieは、毎日の暮らしに彩りと豊さを届ける現代アートのサブスクリプションサービスです。国内外における新進気鋭アーティストが実際に手がけた原画が自宅に届き、季節や気分に合わせて自由に交換が可能です。

そもそもこのようなサービスは日本にはない中で、Casieはスタートアップとして、本当にこの市場が確かに存在するんだということを真っ正面から証明しにかかっています。

僕も現代アートにはもともと興味があったものの、自宅に飾ろうというマインドまではCasieに出会うまで持っていませんでした。僕と似たような方も多いと思いますが、少しでも興味を持たれた方は下記Webサイトにアクセスしてみてはいかがでしょうか。


サポート代は大好きなスタートアップへの取材費に充てさせていただきます