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極寒の北海道、IoTルアーでお魚のキモチを解き明かす「smartLure」が遂にクラファン開始へ

皆さんこんにちは。藤原です。今回のスタートアップ取材記事は、魚のキモチを解き明かしたいと願うIoTルアーのスタートアップ「smartLure」を取り上げます。過去にはTechCrunchにも取り上げられたことがあるので、ご存じの方もいるかもしれません。

今回、資金調達以外にも事業進捗があったということでオンライン取材をいたしました。実は代表の岡村さんは僕のビジネススクール時代の1年後輩で、起業前には誰もが名前を知っている某大手新聞社でデスクをやっていた人です。そんな人がなぜ札幌で起業したのか、そしてなぜ釣りなのか、ハードウェアスタートアップを志向する方々の参考になりそうなお話もうかがうことができたので、ぜひご一読ください。smartLureは良いぞ。

この記事の登場人物

株式会社スマートルアー 代表取締役 岡村雄樹(バナー写真)
藤原弘之(質問内容を太字で記載)

海外でデータ収集

今日はzoomのオンライン取材ですがよろしくお願いします。
岡村「よろしくお願いします。ご無沙汰しています。」

そうですね。以前ピッチで来社いただいたのは2019年の2月頃だったと思いますので、もう1年経ちます。早いですね。それにしてもこのバナー写真はインパクトありますね。極寒の地で頑張ったのに4ヶ月間で一匹も釣れなかったとか(笑)
岡村「今思えば釣れな過ぎですよね。お魚のキモチが分からない素人だったんです。でも、投資家へのピッチや賞レースのつかみとしてこのエピソードは役立っていますよ(笑)」

確かに一度聞いたら忘れないですね。最近、事業進捗があったとのことですが、確かバンコクでIoTルアーを使ったデータ収集をされていましたよね。
岡村「よくご存じですね。そうなんです。センサー内蔵ルアーでお魚を釣ってデータが取れるようになったのが昨秋の事です。それでデータ取得のために冬に魚がバカスカ釣れる場所でいちばん近いところを探したらバンコクだったんです。本来は養殖のための池なんですが、管理人のオヤジに3,000バーツくらい(注:およそ1万円弱)払うと、1日釣りしててOKっていう(笑)。あと、リゾートみたいな管理釣場がありまして、そっちに入り浸ってました。ご飯おいしいし、ビールあるし、Wi-Fiもホテルより安定してるし。そのままオフィスにしたいくらいでした。」

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楽しそうだ。
岡村「遊んでた訳じゃないよ(笑)。ここでもデータをいっぱい収集できました。知財の方でも特許が5月頃にも取れそうです。引き続きセンサーの開発を進めて、年内にもクラウドファンディングを始めようと思っています。」

事業モデルについて

それはおめでとうございます。クラファンでは、ルアー1個あたりどれくらいを予定しているんですか?
岡村「まだ非公開だけど、X円くらいかな。(著者による自粛)」

そのルアーを買えばスマホのシステムもセットで使えるんですよね?
岡村「初めはアプリについては無料で使えるように計画しています。課金するにしても2年目以降ですね。」

アプリにルアーメーカーの広告入れるとかですか?
岡村「それもあまり考えていないです。というのも、ルアー業界って、というよりこれは釣り具業界全体的に言えることですが、EC化率がめちゃくちゃ低いんですよ。ユーザーは現物を手に取ってから買いたい、という人がほとんどなので。あと販売チャネルとしても、Amazonとうまく付き合っている釣具屋さんも少数派なんですよね。SKUはめちゃくちゃ多いですし在庫管理が大変らしくて、Amazonも困ってるくらいなんで。」

なるほど。ターゲットとなる魚の種類って何ですか?
岡村「ブラックバスです。釣果データ数で勝負が決まるので、世界で一番釣られている魚を選びました。別にルアーで釣れる魚だったら何に使ってもらってもOKなんですが、データ分析などのターゲットはバスですね。ルアーってターゲットの魚種に応じて泳ぐスピードとか潜る深さとか、サイズとか色々と変数があるんです。」

そうなんですね。どんなデータを取るんですか?
岡村「ルアーって、投げられたらまず水中に潜っていって、しばらく泳いで、また浮上して戻ってくる。この一連の動作の中で運が良ければ魚が食いついて釣れたということになります。僕らが取ろうとしているデータは、まず通ってきた水深のトレース。これは陸上から見ていても分からないので貴重なデータです。そして、その間にルアーがどういう動きをしていたかも取れます。規則的に泳いでいた時間、止まっていた時間などですね。お魚がアタックしてきたら、そこでボンと何かにぶつかった動きが検知されるので、ルアーがどういう状態の時にお魚がアタックしてきたかが分かります。そして最後に水温ですね。これらをどう数学的に解析していけるかがキモになっていて、そこはシリコンバレーに住んでいる共同創業者の腕の見せ所です。彼は東大の大学院で数学をやってた釣りバカで、こんなデータ、誰も扱ったことがないので、ウチの共同創業者になってもらいました。」

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(ルアーの構造や動きについてzoom越しに教えてくれる岡村さん)

なるほど、理解できました。クラファンの他に資金調達の予定とかは?
岡村「クラウドファンディングで得た資金はモノの製造に使います。それ以外のマーケティングだったり人を増やしたりといった、所謂投資には使えないので、そこは資金調達が必要になります。クラウドファンディングの成功を条件にしてもらってOKなので、僕らに出資してくれるようなVCやCVCさんを今探しているところです。」

大手新聞社からのキャリアチェンジ

ところで岡村さんって元○○新聞(誰もが知る某大手新聞社で界隈では葉巻を吸っている人が有名)のデスクだったじゃないですか。僕のイメージからすると『スタートアップ起業』からはかなり距離があるキャリアな気がするんですが、そもそもなんで起業しようと思ったのか興味があります。しかも札幌で。まず、新聞社は新卒で?
岡村「はい。95年に大卒で就職しました。仙台でおまわりさんに取材したり(笑)、しばらく記者をやっていました。30歳の頃に、2002年頃だったと思いますが、インターネット部門に移って、当時急成長していたYahoo! Japanにニュースを売ったりして、それなりに楽しくやっていました。ただ、藤原さんもそうだと思いますがビジネススクールでMBAの勉強をし始めてからマインドが少しずつ変わり始めたというか。」

そう言えば在学中からスマホケースを売ったり、色々やられていましたね。確か今はインキュベイトファンドから出資を受けてミナカラというオンライン薬局のスタートアップを経営されている喜納さんとも同級生ですよね。
岡村「よく覚えていますね。そうなんです。喜納さんとは別のチームだったんですが、仲間とビジネスの立ち上げチックなことをやったりしていました。それ以外にも転職活動をやったり、色々うじうじと考えていましたが、やはり自分の道は自分で切り開いていく必要があると思って、2016年に村田製作所さんがやられているIoTセンサーを使ったビジネスアイデアコンテストに応募し、そこで50万円もらえたのが、この事業を立ち上げるきっかけになりました。その年の10月にまた別の『nomaps』という札幌のイベントでスタートアップピッチ大会があって、会社を早退して出場したら優勝しちゃったんです。」

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確かこのときに地元紙に「スマートルアー」と出て、所属の新聞社に身バレしたんですよね。「お前、起業しようとしているだろ!?」って(笑)
岡村「そうなんですよ。翌日のお昼ごろにバレました(笑)。それで片手間でやるのをやめて、退職してフルコミットする覚悟を決めました。」

なぜ釣りなのか?という部分についてはどうですか?
岡村「当時は所属新聞社の北海道支社の札幌勤務で、長野から転勤してきてそこでデスクをやっていたのですが、色々とうまくいかないことが多くて、精神的にかなり参っていたんです。それで妻のママ友繋がりでホームパーティーに行ったときに『その辺の川でミミズを付けて釣りをしたらヤマメがたくさん釣れた』という話を聞きました。僕は関東育ちだから、ヤマメなんて激レアな魚だと思っていたので『北海道すげー!』ってなって。すぐに量販店へ安い釣り具セットとミミズを買いにいきました。釣りなんて子どもの頃以来でしたが、実際にやってみたら本当にたくさん釣れて。それ以来ハマりましたね。北海道の大自然の中で釣りをしている間は、たとえ釣れなくてもすごく心が落ち着くんですよ。日頃の新聞社の喧噪からも離れられますし、釣りのおかげで心が壊れなくて済んだと言っても良いくらいです。これはぜひ都会で忙しくしている皆様にもお勧めしたいですね。」

釣りに関連したビジネスプランとしては、初めからこのIoTルアーで?
岡村「いえ、村田製作所さんのコンテストに応募する前は色々考えていましたね。例えば釣り友達のオンラインマッチング事業とか(笑)。でもパッと聞いてお分かりだと思いますが、これはダメだなと。そんな感じで100個くらいアイデアを書いたり消したりした中でたどり着いたのがこれです。」

ハードウェア開発の苦労

コンテストに優勝したのが2016年だったと思いますが、ここまで来るのに結構時間がかかっているのは、どういう原因がいちばん大きいんですか?
岡村「3つあって、1つは基本的にセンサーって水中で動くようなものが世の中にほぼないんですよ。今あるのは潜水艦に搭載されているソナーとか、気象庁が使っているような観測ブイとかくらいなんです。当初、ハードウェアの専門家に色々と聞いて回りましたが、10人中10人から『やめとけ』って言われましたね(笑)。」

それくらい大変。
岡村「大変ですね。魚群探知機とかもありますけど、あれは水の上から超音波を照射するので、水中で動くセンサーではないですよね。使える電源も全然違うし。水中で電子機器を作動させるためのしっかりとしたノウハウは、ほぼ存在しないです。」

なるほど。2つめは?
岡村「ルアーなので、やはり小型化が必須なんです。今お見せしているこのルアーでもかなり大きい部類なんですよ。ブラックバスだと40cm以上の個体がターゲットになりそうです。40cmと言ったら、結構『とったど〜!』てレベルです。ただ、もっと重要なことがあって。」

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何ですか?
岡村「僕もやり始めてから分かったんですが、『なんとか動く1個のモノ』と『普通の人が普通に使えるたくさんのモノ』との間には、ものすごい距離があるんです。あまり細かく言うと機密事項に入っちゃうので言えないですが、そこのギャップを埋めるのにここまで時間がかかってる感じです。」

そうなんですね。いや〜、色々と勉強になりました。今日は釣りのことをまったく知らない僕に対して、丁寧に教えてもらってありがとうございました。クラファンも始まることですし、スマートルアーのこれからの活躍を期待しています!
岡村「こちらこそありがとうございました!」

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smartLureについて

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smartLureはIoTルアーを使ったまったく新しい釣り体験を提供するスタートアップです。代表の岡村さんは極寒の北海道でお魚のキモチをデータを使って解き明かそうと奮闘されています。今年はクラウドファンディングも始まるとのことで、このセンサー入りルアーが世に出てくるのも時間の問題となりました。ひとりのファンとして楽しみに待っていたいと思います。皆様もぜひsmartLureをウォッチしてみてください。


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