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ガチ恋おじさんが映画『あの頃。』を観に行きました(少しネタバレあり)

 僕が映画『あの頃。』の存在を知ったのは、モーヲタのエキストラを募集している旨のツイートを見かけたのがきっかけでした。どうやら梨華ちゃんの卒業コンサートの場面を撮影するから、モーヲタのエキストラが必要とのことでした。当時(2005年5月)梨華ちゃんの卒業コンサートに参戦した僕としては、エキストラになるのもやぶさかではありませんでしたが、集合時間が東京都内に午前9時とかだったので断念しました。そんな朝早くに起きたくなかったし、起きられる自信もなかったし、そもそもそんなにエキストラになりたくもなかったのです。でも友人の中島さんや知人の山越さんは早起きして行ったようです。中島さんは工藤遥ガチ恋おじさんで、山越さんはももちの旦那です。

 これからある意味決定的なネタバレを言うので、まだ『あの頃。』を観ていない人は気を付けてほしいのですが、僕は映画を観ていて山越さんと何度か目が合って笑いそうになりました。そのとき劇場にいた人たちはおそらく一人残らず、「あ、山越さんだ!」と思ったことでしょう。山越さんはそれくらい有名なヲタクなのです。下手な地上アイドルより有名かもしれません。スクリーンのなかで山越さんはひときわ奇妙なオーラを放っており、僕はエキストラたちが画面に映るたびに山越さんの姿を探してしまいました。山越さんを見つけると僕は、彼の奇妙に純粋な瞳に惹き付けられ、しばし見つめ合いました。中島さんのこともわりと一生懸命探したのだけれど、中島さんを見つけることはついにできませんでした。中島さんは背が高くてガタイが良いし、まるで犯罪者のような面構えをしているので容易に発見できると思っていたのですが。とても残念です。

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 僕は当時(2005年ごろ)、いわゆる「推し被り敵視」をするヲタクでした。刃物で刺し殺しかねないくらいの勢いで推し被りを敵視していました。今ではあまり推し被り敵視をしていませんが、この映画を観たら当時の気持ちがよみがえってしまうのではないかと不安でした。しかし蓋を開けてみると、僕はこの映画に出てくる梨華ヲタに対して、推し被り敵視の気持ちをあまり抱きませんでした。「あの頃から16年経って、自分はヲタクとして成熟したのだなあ」と感慨深く思いました。

 ところで僕にとっての「あの頃。」とはいつだろう、と考えて、最初に頭のなかに浮かんだのは、初めて梨華ちゃんを生で見たときの光景でした。2003年5月4日、さいたまスーパーアリーナでのモーニング娘。のコンサートに一人で参戦したのです。一般販売で購入した僕の席はステージから遥か遠く、梨華ちゃんの姿は豆粒のように小さく見えました。そのときはまさか、のちにこんなにも近い距離で梨華ちゃんと2ショット写真が撮れるとは思いも寄りませんでした。

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 映画館の最寄り駅であるさいたま新都心駅で電車から降りた僕は、郷愁にさそわれて、さいたまスーパーアリーナを眺めに行きました。不安と期待で胸をいっぱいにして、梨華ちゃんのピンク色のうちわを持ち、一人でアリーナ席の後方へと歩いていく20代前半の自分の姿が思い出されました。先ほど「梨華ちゃんは豆粒のように小さく見えました」と書いたけど、それは誇張ではありません。最初、矢口のことを梨華ちゃんだと思って目で追いかけていたほどです。しばらくしてそのことに気付くと、「僕は梨華ちゃんのことが大好きなのに、よりによって矢口と間違えるだなんて! こんなことじゃ梨華ちゃんヲタ失格だ!」と自分を強く責めたものです。

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 夕日を浴びる巨大なさいたまスーパーアリーナを眺めながら思い出に浸ったあと、さいたま新都心駅の近くにある映画館に入って、チケットを発券しました。僕はおっさんの為おしっこが近いから、駅のトイレでおしっこをしたけれど、映画館のトイレでも念のためおしっこをしました。その結果、最後までおしっこがしたくならなかったので良かったです(じつは、さらに念のため通路沿いの席をとった)。シンエヴァも映画館で観るつもりでいるけど、上映時間が2時間34分とツイッターで知って震え上がりました。『あの頃。』は2時間弱だったから持ったけど、2時間34分は持たない自信しかありません。僕はおむつを履いてシンエヴァを観るべきなのかもしれない。上映時間の17時50分がせまってくると、僕はチケットを持って入場口に行き、係の者にそれを提示しました。「9番へどうぞ」と告げられ、9番シアターに向かいました。

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 9番シアターに入ると、広い客席には人っ子一人いなかったため、「もしかしてこの回の客は僕一人だけなの?」と不安になったけれど、少ししたらポツポツと人が入ってきたので安心しました。「あの人もこの人もみんなハロヲタなんだろうな」と思い、えもいわれぬ連帯感を覚えました。長々と他の映画の広告が流れたあと、映画『あの頃。』が始まりました。主人公役の松坂桃李が仲間のヲタクたちと一緒に狭くきたない部屋に座り、酒を飲みながらハロプロのDVDを観ている場面が出てくると、良くも悪くも忘れがたい思い出を思い出しました。

 僕は昔、「早稲田大学モーニング娘。研究会」に所属しており、僕の部屋にメンバーが集まり、梨華ちゃんの卒業コンサートのDVDなどを観ながら酒を飲んでいました。すると後輩のYくんが唐突に嘔吐したのです。床の上のその茶色い液体は、徐々に広がっていき、梨華ちゃんの卒コンDVDのジャケットに染み込みました。それに気づいた僕は、「よりによって梨華ちゃんの卒コンのDVDに何てことをしてくれたんだ!」と心の中で激怒しました。しかし僕は根っから優しい人間なので、Yくんには「ちょwおまw」と言うだけにとどめました。

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 当時、慶應大学にも「モーニング娘。研究会」が存在し(たぶん今もあると思う)、「早慶モーニング娘。研究会合同飲み会」を、とあるカラオケ店で行ったことがあります。慶應のモー研の人たちはものすごく元気が良くて、今で言うとウェイ系であり、いわゆる陽キャでした。激しいヲタ芸を打てる曲をガンガン入れて踊り狂っていました。早稲田のモー研は大人しい人が多くて、いわゆる陰キャであり、慶應の陽気すぎるノリについていけず、結局は早大モー研だけで別の部屋に移り、座ったまましっとりとカラオケをしました。

 初期の早大モー研はそんな感じでした。そして「あれから十数年経った今はどうなっているのだろう」と思っていたところ、この映画のエンドロールに「早稲田大学モーニング娘。研究会」の名前が出てきたのでびっくりしました。それから誇らしい気持ちにもなりました。後輩たちはがんばっているんだな。僕もまだまだヲタクとしてがんばっていかなければならないな。そう思いました。

 この映画ではモーニング娘。の『恋ING』というバラード曲が要所要所で流れます。そのたびに、カジュアルディナーショーで梨華ちゃんが『恋ING』をソロでしっとりと歌っている様子が脳裏に浮かびました。2014年の8月5日、梨華ちゃんとプロ野球選手との熱愛報道が出ました。その1か月後くらいにカジュアルディナーショーが開催され、そのときに梨華ちゃんは『恋ING』を歌ったのです。それはプロ野球選手の野上氏との恋愛をそのまま歌っているかのようでした。僕は梨華ちゃんの繊細で優しい歌声に魅了されながらも、悲しい気持ちがじわじわと心の中に広がっていくのを感じました。

 この映画を観ているあいだ、その出来事が何度も脳内で再現されたけれど、僕は以前のようにパニック状態に陥ることはありませんでした。ああ、あの頃とは違って精神が強くなったのだな、としみじみ思いました。もしいつか梨華ちゃんに会うことがあったら、梨華ちゃんの目をまっすぐに見て伝えたいです。「僕はもう大丈夫だよ。だから、ぜひまたカジュアルディナーショーで歌ってください。あのモーニング娘。の珠玉のバラード、『恋ING』を」と。

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