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9月 ついつい検索してしまうこと

フリーペーパー9月号は”ついつい検索してしまうこと”です。本屋スタッフざきの大学からの友人ナツキとのお喋りの中で出た話題でしたが、検索という個人的な行為だからこそ、それぞれの興味・関心が知れたり、生活が少し見えて面白かったです。それでは9月号もお楽しみください◎


🔍ついつい検索してしまうこと
※検索ツール/検索頻度/分類

- ざき -

①X(旧Twitter)/月数回/気を楽にする
「気圧 眠い」
「生理 眠い」

月に数回引き摺り込まれるような眠気に襲われる。その瞬間はもう自分の意思なんて無くて、ただただ眠ることしか考えられない。なんとか意識を保つだけで仕事に身が入らない日もあれば、電池が切れたように座ったまま寝てしまう時もある。翌日は大抵、中途半端に片付けられた仕事を見てひょ〜参った、と思った後にむっと怒りが湧きそうになる。しかし前の日の自分に怒らず「気圧 眠い」「生理 眠い」などと検索する。すると必ず誰かが気圧や生理で眠そうにしているので、誰でも起こることだから仕方がない、と自分に言い聞かせることができる。人間である以上は身体的なことや外的要因に左右されるのは仕方がないので、いかに自分を責めないかが大切なのである。自分でどうしようも出来ないことに対しては、私は絶対に悪くないと開き直るのが楽に生きるポイントであり、そのマインドで居ると他者にも寛容になれる。私もあなたも何かしらの影響を受けているのだから、居眠りもそれに伴う失敗も許しあって気楽に生きていきましょう〜!


②Google/月数回/喝を入れる
「今 敏 さようなら」

「今 敏 さようなら」はあまりにも悲しい検索ワードだ。今 敏という人は2010年に46歳の若さで亡くなったアニメ監督、漫画家で、彼が最後に残したブログの記事のタイトルが「さようなら」なのだ。読むと毎回泣いてしまうけど、定期的に検索して読み返している。

私はただ彼の作品が好きという以上に、仕事に感銘を受けていて、自分が折れてしまいそうな時の拠り所としている。2019年に開かれた原画や絵コンテの展示を見に行って、緻密であまりにも美しい絵コンテが発する熱量を前に自分の仕事への姿勢が恥ずかしくなった。ツメの甘さ丸出しの自分の仕事、ひいては生き方までもが情けなく稚拙なものに感じた。私は自分に甘い人間で、特にその時期は気を抜くとあっちにふらり、こっちにふらりと漂うように生きていた。あの日、数枚の紙から仕事とは何かを知ったのだ。このままただぼんやり暮らしていくのは嫌だと思ったし今も思い続けている。思ったところでやっぱりだらけてしまうし、ぼんやり生きるのは最高だ。でも私は十分ぼんやりしたし、今は頑張り時だ。周りを見渡せば圧倒的なセンス、才能、そして信じられないほどの努力をやってのける人が居て、自分の凡庸さに打ちのめされ、無性に悲しくなったり腹立たしくなったり、頑張らなくても生きていけるし!と情けない開き直りをしたくなる。その度にブログを読み、作品を観て、自分なりに頑張った先に見えるものを見てみたいと思う。


③X(旧Twitter)/たまに/安心
「二重 電車 広告」

中学生の頃、ブログや雑誌を読むと「塗って眠るだけで二重に!」という魔法のような液体の広告をよく見かけた。ギャル雑誌を読み漁り二重に絶大な憧れを持っていた奥二重の私は、塗って眠るだけで二重になるという液体の情報の虜になった。何の疑いもなくこの液体を手に入れればギャルに近づける!という純粋(というよりアホ)な希望を持ち、おばあちゃんの肩を揉みに揉み、初回特別価格の1980円を貯めた。そのお金でついに魔法の液体を手に入れた私は、写真よりだいぶ小さな容器を親指と人差し指でギュッと押し、にゅるりと出て来たなんの変哲もない透明な液体を瞼に入念に塗り込んで眠った。翌朝いつもよりうんと早く起きて鏡の前に行くと、カピカピになっただけのいつも通りの奥二が鏡に映っていて、騙されたことを悟った。あまりにもおバカな14歳の夏。

そんな悲しき14歳の夏が過ぎ、自分の中のギャルブームが過ぎても、私の二重への情熱は止むことはなかった。あらゆる媒体が二重であることを美しいとしていて、自分でも気付かぬうちに二重が美しさの絶対条件と疑わなかった。時に切り刻んだ絆創膏を瞼に貼り付け、暇さえあれば指で瞼に線をつけるなど弛まぬ努力を続けたが結局奥二重のまま大人になった。

時が流れ、自分の奥二重に愛着が湧き、あの二重が正義と言わんばかりの押し付けは一体なんだったんだ…と思い始めてだいぶ経ったころ、SNSで電車内の二重整形や脱毛の広告に疑問を呈する声が上がった。整形や脱毛そのものを否定しているのではなく、二重が可愛い!毛があると幻滅される!といったルッキズムを助長することに対する疑問だ。今だに美の基準の押し付けがあることにうんざりするけど、疑問を声に出してくれる人がいることは救われるし、昔の自分がなんだか報われた気がした。あの滑稽な時間も振り返れば面白いけど、それは私が二重になりたいと嘆きつつもどこかである程度容姿に自信を持っていたからで、本当に強迫観念的になってしまう可能性もあったのだ。きっと世間の基準に追い詰められている人は生まれ続けている。だからたまに検索して、声が上がり続けていることに安心したいのかもしれない。


- ナツキ -

①Google,X(旧Twitter)/期間限定/甘さ
「ダイエット 食べていい コンビニごはん」
「ダイエット コンビニ 肉」

ダイエットしたいけれどコンビニご飯で楽して痩せたい...そして肉も我慢せずに食べたい...そんな、自分に中途半端に甘い様子が伺えるワード。コンビニで鶏むね肉、卵、野菜を基本に商品を選ぶ。炭水化物、とくに米とパンはNGだ。甘いものは…和菓子ならまだマシと聞くので豆大福。よし、完璧。好きな音楽を聴きながら歩調に合わせてコンビニの袋を前後に揺らし、夜道を気分よく進む。優柔不断な私はコンビニでたくさんの食べ物の中から夕飯を選び取るのも一苦労。そのうえ季節限定のコンビニスイーツが好きだから、それらを無視するのも大変なことだ。そんな私だが、今日はあまり時間をかけずに、なおかつダイエットに適した食べ物を選び取れた。達成感で満たされる。しかし優柔不断だからこそ、「ダイエット中」という基準のなかで食事の選択肢が狭まるのは、メリットでもある。自由すぎることは時に不便なので、適度な制限もたまには良いかもしれない、などと考えつつ袋から商品を出していたら、なぜだかビールが入っていた。キリンの「秋味」。...!?金曜日はいつも決まってビールを買うので体に染み付いていたのかもしれない。結局のところ私はどこまでも中途半端に自分に甘い。


②Google/たまに/野望
「マンション 東京タワー見える 値段」
「都内 マンション 見晴らしがいい 値段」

東京タワーが見えるホテルに泊まったことがある。部屋を暗くしていても、赤と白みがかった黄色の明かりが部屋を照らしてくれ安心した。何より無敵だと思えた。「東京タワーの見える部屋、住みたいなぁ」と呟いたら「前から言ってるよね」と返事が来て、人に話したことを忘れていたから驚いたし、過去の自分の何気ない一言を覚えてくれている人の存在に胸がぎゅっとなる。そんな思い出も含め、ベタすぎて恥ずかしいけれど上京したときから7年近く東京で暮らした今もずっと好きな明かり。

東京タワーが見えずとも、“高いところ”に住みたい願望がある。街を見下ろしたいのだ。見下ろすことで、“人”を感じて安心したいのかもしれない。田んぼまで徒歩10秒の田舎の一軒家で育ったから、星が瞬く冬空やカエルの声が鳴り響く夏の夕暮れの美しさも知っているけれど、記憶を辿るとそれらは、人気のない田舎道を一人歩く幼い私の心細い気持ちとともにある。

となると、見晴らしが良いマンションに住むのが現実的なラインだろう。団地もいい。家から目黒川に向かう途中、下り坂がある。急勾配のその坂道から見える都会の風景が好きだ。そして何より、街に明かりが灯り始める時間帯にそこに行くのが好きだ。街の明かりを見ていると、どうしたって心がホッとする。それは、毎日変わらずそこにある普遍的な安心感。電気がある限り、せわしない日常のなかでも一息つける瞬間が恒久的に保証されている。

そうやって、自分の中に特定の誰かに求めるのではない安心があることに気づく。心が軽くなったけれど、その分すこしだけ寂しくなった。

③X(旧Twitter)/たまに/同志を探す
「不倫ドラマ 無理」
「不倫ドラマ 苦手」
「不倫ドラマ 見ちゃう」

不倫ドラマが苦手だ。自分がドラマの影響を受けやすい人間なので、不倫ドラマは既婚者の不倫を助長しかねない…などと大袈裟に考えてしまい、それらがたくさん視聴され支持されている現状を疑問に思う。とはいえ、ときどき苦手なトピックと正面から立ち向かいたくなるのが人間というもの。元々ドラマが好きなこともあり、話題作が気になってしまい、今年ひさびさに不倫ドラマを視聴。演出や俳優の演技が良く想像以上に楽しめた。それでもやはり「不倫ドラマを制作しよう」という思想が…無理!なのに気になり観てしまうという矛盾を抱えている(涙)。

さらにSNSを見る限り、周りにはこの作品を楽しんでいる友人が多かったので、自分の頭の硬さに嫌気が差す。モヤモヤ。同志はいないものか?とパブサしてみる。そこまで多くの件数はヒットしなかったが、あ、いるいる。「~」「~」…そう、そうなんだよ!と強く共感し、心が落ち着く。自分のモヤモヤを上手く言語化できなかったり、呟くことに抵抗があるときは第3者の“意見”を検索する。リアルだけじゃなくネット上でも、誰かが自分の代わりに言ってくれるとスッキリするものなのだな…。

·˖✶書いた人✶·˖

ナツキ @ntk_monchy
ざき @tomokomoko_ @fuben_na_honya

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