怒りと虚しさで震えた「マリウポリの20日間」#映画感想
今年のGW。
例年よりも長く最大10日間の休みの人もいるのではないだろうか。
ニュースではいつもの通り、円安下での海外旅行に行く空港でのインタビューや混雑する東京駅の様子が流れている。
私はとある理由で出勤のため、社会人になって初めて、帰省や旅行をしない長期休みとなりそうだ。
とはいえ、いくつか楽しみが欲しいので、映画でも見に行くかと近所の映画館で放映中の映画を検索した。
時間も丁度よかったため、選んだのが、この映画だ。
正直なところ、他記事にもあるように、幼少期の原爆ドームや沖縄祈念館、知覧祈念館のように、トラウマになるかもしれないとも思ったが、幸いGW期間中は多く出勤するため、1人で考えてしまうこともないかと見ることを決めた。
前段が長くなったが、必ず、見るべき映像である。断言する。※以下ネタバレ含む。
AP通信の記者がロシアがマウリポリに侵攻開始してからの20日間を現地で取材したものである。
記者自身のコメントはもちろん、そこでの人々の生活、人間、空気、そして日を追うごとの変化をまとめている。
初日。
市内にはバスが走り、人々は買い物や談笑をして、少年はサッカーをしている。
私自身がヨーロッパで見たような教会と可愛らしい小さな一軒家が並ぶ、美しい片田舎の風景が続く。
「戦争は爆撃ではなく、静寂から始まる」映像中のこの言葉は、まるで映画の導入部のような、これが現実だと俄かに感じることができない不気味な感想を抱いた。
それから3日も経たないうちに、サッカーをしていた少年がドローン攻撃で亡くなり、4歳にも満たないような少女が亡くなる。
日に日に病院に運ばれる人数が増える。
そして、廊下で悲しみに打ちひしがれる人々が増える。
私よりも若い少年が迷彩服を着て、けが人を運び、家族を失った子供を励ます。
勿論、男性は兵士として街からは消え、女性・子供・お年寄りで互いに励ます。
混沌とした街で、自分を家族を守るために、街の商店から物品を盗む人が現れる。みんな生きるために必死になる。
映画では、「戦争はX線のようなもので、善人は善い行いをして、悪人は悪いことをする」と表現される。
両者の思いも理解できるようで、安全な日本にいる私には到底想定できることのない大きな不安を抱えているのだろう。
だから、この様子に対して、現地にいない我々がとても判断できないし、するべきではないと思った。
後半は更に状況が悪化し、街で唯一機能していた、消防署や産婦人科を含む病院を攻撃された。
もちろん、病院には臨月の妊婦も、出産したばかりで体力のない女性も、生まれたばかりの赤ちゃんも、恐怖の中、必死に戦う助産師も、いる。
そして、一番怖いのは、この映像を文字通り攻撃を避けながら命がけで電波の届く場所へ移動し、外部へ送信した記者とこの映像に対して、
「これはウクライナ側の自作自演だ、フェイクニュースだ」と発言した人々がいることだ。
確かに情報を取捨選択することは必要なリテラシーだが、それ以前に
「どうにかしなければならない」この思いに駆られることはないのか。
映画中で何度も記者が
「どうせ、この映像を全世界に配信したところで、何も変わらない」
と言っていた。
この記者はクリミア併合や、今までも何度も行動してきたのだ。
病院を攻撃されたが、他の病院に逃げ、出産するシーンがあった。
妊婦は攻撃で、片足を失ったが、懸命に出産し、そして助産師も必死に励まし、母親の腹から出てきた赤ちゃんの背中をたたき、げっぷを出させて、産声があがった。
このシーンで私は涙が止まらなかった。
嗚咽するくらい泣いた。
どんなに、どんなに攻撃しても、人の誕生は阻止できない。
そして、この赤ちゃんが初めて触れる世界があまりにも悲惨で、悲しくて、恐怖に包まれている現実が悲しくなった。
この赤ちゃんはウクライナだけでなく、今やガザをはじめて、世界中でうまれている。
映像に写る人々の表情は怒りと悲しみに満ちていた。
映像をただ、見ているだけの私でも最初から投げ場のない、怒りで震えていた。
今までの人生で映像を見て、怒りで震えることなんて、無かった。
マウリポリの警察官が「この現実を世界に発信してくれ。そして世界中の人はこの現実を知るべきだ」とメッセージを話した。
題名にもある通り、この映画は20日間を写したドキュメンタリーだ。
開始してから、ずっと「早く20日を迎えてくれ」そう思いながら見た。
しかし、現実は今でも、2年間も続いている。
街と市民はこの恐怖のもとで。
最終的に危険があると判断した記者は赤十字の人道回廊から脱出するわけだが、避難せずに街を守り続けた医者、兵士、市民、はどうなったかは分からない。
映像に出ていた猫と共に非難したおばあちゃん、サッカーをしていた少年、生まれたばかりの赤ちゃんも。
映像に出てくる女性はジェルネイルをした女性もいた。
ということは本当に、本当に、平穏な日常で急に始まったことを感じさせて、怖くなった。
途中から、怒りと悲しみと吐き気でしんどかった。
絶対に見なければならない映像であるが、それだけマウリポリで起きている現実は過酷で悲惨ということだ。
終演後、暫く席から立つことができなかった。
1人で見に来たのだが、いたたまれなく、隣にいた外国人に話した。
前提として、映画観には40代以上とみられる男性4.5人、同じ20代とみられる人は3人ほど。そして隣の席の外国人しかいなかった。
200人ほど入る部屋にも関わらず。
外国人はスイスから1か月一人旅に来ている。
旅行先でも映画を見に来ているのに、日本人はあまりにも少なくて、悲しくなった。
もちろんGWだから、旅行や遊びにいくこともあるだろうが、どうしても悲しくなり、noteを書くことにした。
この映像は生々しいし、残酷なシーンもある。
正直、私もところどころ目を閉じてしまった。それくらい過酷で、悲惨だ。
けれども、必ず見なければならないと思う。
フィクションではなく、ノンフィクションで、今も起きていることだから。
私に影響力がないことも、そもそもフォロワーも少ないので、微力であることは自覚しているが、それでもしなければならないと思い、書いた。
下記のリンクから映画館を探して、見に行ってください。
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