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今日もじじいの顔が良すぎて尊い・其の陸

 映画の周回と鬼退治の周回に追われてなかなか更新できなかった。相済まぬ。ちなみにここから後は後半の最高潮から終幕までを書くので、其の伍までに比べるとさらにネタバレしてしまう。ご了承の上で読み進めて頂きたい。

 暫し間が空いてしまったが、其の伍からの続きである。万が一このただただ無駄に長いだけの感想を最初から読むような勇気とお暇がおありならば、是非とも今すぐ映画館へ(ry
 応援上映(2/11)も決まったので、行けない私の無念を晴らすためにも是非行ってほしい。

 さて………安土城の場面である。
 ここでのじじいは、信長に豪奢な天守へ案内された時こそ、孫に秘密基地を自慢された祖父さながらに「よく分からんがとにかく凄いんだろうな」というような顔で頷いてやっているものの、廃寺でのような温和な表情は消え失せている。
 最初の信長の問いに答える三日月は、それまでのおとぼけと違って「長谷部か」とツッコミたくなるほど真面目な正論で返している。時の権力者の数多の手を渡ってきたからこその言葉でもあろう。この時は信長に鼻で笑われている。

 天守でじっとあるものを待っている三日月。その表情は寒々しい空に浮かぶ鋭い三日月の如く冷涼としている。この横顔がまたたまらない。老審神者と対峙している時の柔らかい横顔とはそれこそ南国と南極の差ぐらいあるが、これもまたなんと美しい横顔だろうか。

 三日月は「それ」を見つけた途端、表情を変える。理由は直に分かる。「時は来た」とでも言うように一度静かに目を伏せ(この伏せ方も絶望のように冷たい)、身を翻して暇乞いをする。

 ここでじじいは信長に改めてある問いを投げかけられる。しかし答えない。一切を拒むような沈黙が答えであるかのように。
 彼は心得ているのだ。この城の中では彼だけが、この後の正しい歴史を知っており、しかし敢えて答えるまでもない、それが答え。

 その沈黙に「その時」まで常に自信に満ち溢れていた信長が、初めて戸惑い、三日月に救いを求めるような表情をするのが見ものだ。しかし三日月は決して絆されるようなことはない。あくまで突き放すが如く、冷淡に振る舞う。やがてまさに「その時」が来ようと、少しも動じない。

 そして三日月は動揺を隠せない信長に淡々と語り始める。城の外にいる仲間が語るのとオーバーラップしつつ三日月が信長に「正しい歴史」を突き付けるシーンは本当にゾクゾクする。さらに、なぜ三日月がそれを語れるのか、三日月自身に導かれつつ信長が気づく理由は(確かな裏付けは無いとはいえ)現実に残る伝承とリンクしているのだ。この映画のために考えられた全くの荒唐無稽な作り話、ではない。靖子様の凄さを感じる。

 天守の場面では終始冷然と振る舞う三日月だが、しかしほんの僅か、表情を緩める瞬間がある。
「信長公」と呼びかける前の、ほんの一瞬。
 ふっと優しく、審神者や仲間に向けるほどにではないが、やや目を細め、その色が穏やかになる。彼の目の、蒼、というのは不思議な色だと思う。酷く冷たくも、酷く穏やかにもなる色だ。

 しかしその直後、キッパリと引導を渡した時との対比。
 この対比で、やっぱり三日月は信長もちゃんと「慈しむべきもの」と思っていることがわかる。決して信長を陥れようと思っていたわけではなく(無論、仲間を裏切る気もなく)ただ「守りたいもの」として。

 そして「正しい歴史を守る」刀剣男士としては、飽く迄非情に徹さねばならぬ。ここでの三日月の振る舞いを無慈悲に感じるとしたら、正しい歴史を知らないだけだ。
 三日月が信長に背を向ける瞬間の、ぞっとするような美しい表情は、絶対に見逃さないでほしい。見逃した人は見終えたその足でもう一度チケットを買って観たほうがいい。


 さて、ここまでで、私の心は相当な手負いである。おそらく映画を観た皆様もそうであろう。私は過保護でチキン野郎の審神者なので、軽傷程度でもすぐ刀剣男士たちを本丸に帰らせてしまうが、自らが刀剣男士となったらそれこそ勝手に帰還して勝手に手入れ部屋に駆け込んでいる頃合いだろう。

 しかし、三日月宗近の真の恐ろしさは、いよいよここからなのだ。ここから、永遠に自分のターンが回ってこない、ただただやられっぱなしの戦闘となる。

 もうやめて! 私のライフは0よ!

 まずは信長との最後の対峙場面(その前に入る戦闘シーンも美しいが)。
 我儘右府様の無茶振りを、我らが三日月宗近はきっぱり断る。それも二度も。それでも結局受け入れる懐の深さ。正しい歴史を知っている側から見ると、最期の悪足掻きでしかないそれを、憐憫の些か込められた、しかし「哀れ」ではなく、心から愛おしいと思ってでもいるようなその目。
 自分の(仲間にすらあまり語ることのない)過去を交えながらじじいは語る。「歴史」とは何か。
 彼がただの人ならば、信長はそうした話では心を動かされなかったかもしれないと、ふと思う。しかしこの時に、ああ、こいつは本当にあの名刀三日月宗近なのだと思い知ったのではないだろうか。
 ここで信長が漏らす言葉だが、多分観た方は信長公と同じことを呻くだろうと思う。

 そして。戦隊モノのお約束、仲間の窮地に颯爽と現れる、裏切ったと思っていた隊長!!の場面。 勝手に責任を負い、勝手に全ての厄介ごとを引き受けて、お前たちは終わった後のことを頼む、と、ある意味物語で一番美味しいところを持っていく役が、今回はまさにじじいであるのだ。

 筆が乗ってきたところであるが、長くなるので本日はここまで。
 其の漆に続く。


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