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今日もじじいの顔が良すぎて尊い・其の伍

 今回もネタバレは最小限に抑えつつ進行する。
 但し話の流れは読めてしまうため、まだ映画未鑑賞の方は要注意。
 相変わらず三日月宗近のことしか書いていない。読み進んで「お前は何を云っているんだ」とミルコ・クロコップ状態に陥ったのなら、是非其の壱から順に読んで欲しい。

 さて………其の肆からの続きだ。

 審神者にはあれだけ凛乎とした背中を見せたくせに、鶯丸にだけほろりと見せる(見せてしまった、というべきか)笑顔が大変ヤバい。手薄な本丸の留守居役を任せているくらいなのだから、古刀同士のよしみ的なところがあるのだろうか。

 正直この場面は大変に意味深で、完全にこの映画の肝のネタバレな上、解釈も各々あろうかと思うので、ここでは深く触れない(ネタバレ編で触れる)。

 予告映像にもあった「目的はひとつ。織田信長公、暗殺」と告げる時の三日月の目は、先の出陣の時とは違い光がなく、酷く冷然としている。その訳は、何度か観ると分かってくる。
 しかし最初の出陣の掛け声といい、この時といい、実に声も良いのである。聞き惚れる。大展覧会では最初の出陣場面を疑似体験できたのがとても良かった。
 大展覧会はこのあと京都と愛知でも開催されるので、是非足を運んで欲しい。

 場面変わって、皆で高台から相手方の様子を伺っている所へ、物見に遣っていた二振りが戻ってくる。
 その時まで射るような目で敵を見据えていたじじいの表情が、二人に気づいた瞬間にふっと緩み、そして優しく微笑む。その剛→柔の凄まじい落差たるや、南米ギアナ高地のエンジェル・フォールも及ばないほどである。私が刀剣男士なら、絶対こいつは敵に回したくないと思うだろう。本丸のよく陽の当たるぽかぽかした縁側から、一転南極のブリザードの中に全裸で放り込まれるようなものだと思ったら耐えられない。

 ただその柔らかい微笑みも、返せば胸の内を悟られないための仮面だ。長谷部に己が疑念を真っ直ぐにぶつけられても(真面目か)、三日月はやはり笑って誤魔化すことしかできない。本当に、この時の三日月の心中如何許りか。
 真摯な長谷部の激昂に、戯けた笑顔のままでいられなかったのは。
 山姥切につい、あんなことを訊いてしまったのは。
 
 疑心を抱かれてると思うのがたまらなかったからではないか。仲間を騙し仰せなければ大事なものが守れなくなると分かっても、それでも疑われるのは辛い。その想いが溢れたのではないだろうか。そんな表情に思える。殊に、長谷部を見送るときの表情がたまらない。
 しんどすぎる。

 その後、他の皆が物見に去って行き、二人だけになった場面。
 それこそじじいが孫を諭すような、然りとて押し付けがましい説教ではなく、まだどうして良いのか己の立つ場を見つけられないでいる彼を導くような穏やかな言葉だ。事情を知らない彼に頼み事をしたのは利用したわけではなく、存在意義を与えてやりたかったからではないだろうかなどと深読みをしてみる。

 ここからが、靖子様が描きたかった前半の最高潮シーンなのではと思うのだが、詳細は伏せる。アレに向けるじじいの全てを包み込むような慈愛の瞳を、劇場で是非確認して「しんどい」と呻いて欲しい。

 最高潮が来たかと思ったら、それからさらにしんどいシーンが続く。あんな尊い目をしておきながら、冷徹に状況を見据えて鯉口を切る。其の時が来たとみるや躊躇いなく刀を抜いて飛び出したじじいに、何故なんだ三日月!? と他の刀剣男士たちと一緒に気を揉まなければならなくなる。三日月は絶対裏切ってなんかいない、と信じていても(これも刀剣男士の心中とリンクするだろう)、それでももしかしたらという疑念を拭えないのがつらい。
 というか「映画刀剣乱舞」は、この映画でじじい沼にドボンしてしまった私のような審神者にはしんどい場面しかないと云って良い。

三日月宗近が銀幕に映るその全ての瞬間がしんどい。


 廃寺でのシーンは、序盤の本能寺の場面と同じく、正しい歴史であるならば終ぞ合間見えることのなかった二人(正確には一人と一振り)が、初めて互いの心中を語り合う。じじいのふりをしてのらくらと追及をかわすじじい。まるで家臣のような振る舞いをするのもほっこりする。しかしもちろん本心を隠していることは、観ている側には分かるが、実は一度目の鑑賞では隠している本心のその裏までは読めない。
 
 ここは何気ない閑話休題場面のようにも見えるのだが、実は結構重要なのではと思っている。何故ならここでじじいは相手の問いに「○〇〇○〇と」とはっきり答えているのだ。この直後の場面で、長谷部と日本号が同じことを訊かれても有耶無耶にしたのとは対を成している。

 その理由についての考察は後でネタバレ記事の中で書こうと思う。

本日はここまで。其の陸に続く。

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