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ep.0

4年大事に使っていたヘアアイロンが壊れた。一生隣に居られると思っていた恋人と別れた。大事にしていたものから順番に崩れていく。スイッチを押しても全く動く気配のないヘアアイロンは冷たかったし、次会った時にちゃんと目を見て話し合って状況を改善しようと思っていた恋人の瞳に“好きな人”として私が映ることはもう無かった。突然失ってしまったという事実を、どう受け入れるべきなのか、私は分からない。ただその事実は確かにここに残っている。私の元に残り続けるから、私はいつかそれを受け入れなければいけない。今日は無理でも明日、明後日、明明後日。目の前に置かれたものを無視することはできない。目の前に置かれたそれを、人は“運命”なんて名前で呼んだりする。運命なんか、ないと思っていた。出会いはただの偶然。自分の力量次第で、未来なんていくらでも変えられると思っていたし、私も人も変えられると思っていた。傲慢だったのかもしれない。逆らえなかった。無理やり繋ぎとめた糸は、呆気なく切れてしまった。私が変われば、成長すれば、考え方を大人にシフトさせれば、全て上手くいくと信じていた。私の方が歳は子供だから、少し背伸びをして追いつきたかった。追いつこうと日々を必死に生きていたら、気づけば追い越してしまっていた。追い越していることに気づかなかった。追い越してしまったことに気づいた時にはもう、全部壊れていた。私はただ、目の前に提示された事実を抱えなければいけなくなった。抱えきれなくて、涙はずっと止まらなかったし、ショックで泣きながら笑い転げたし、限界を超えるまで泣いて嘔吐した。永遠は信じない主義だったのに、恋をしたら、いとも簡単に信じてしまった。信じなきゃ良かった。人から発する言葉も、私にしてくれる行動も、どう信じたらいいのか分からない。永遠を語ってきた人が、「ずっと一緒って難しいんだよ」と、こちらを見ずに言ったあの晩を、私はいつまで夢に見るのだろう。

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