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『違法の冷蔵庫』

子供の頃から、冷蔵庫は宝箱みたいなものだった。
黄色い光が溢れるその内側に置くと、何でもピカピカと美味しそうだった。
卵、トマト、鶏肉。嫌いなピーマンだって、冷蔵庫の光の中では、素敵な食べ物に見える。水っぽい苦みのある硬い皮に、ぶりつきたくなる。

特に、夜の冷蔵庫は魅惑的だ。
家族が寝静まり、暗い台所でこっそり冷蔵庫を開けた時。眩しい光が扉からこぼれて、中にはたくさんの食べ物が並んでいる。すると、とても満たされた気持ちになる。
いけないと思いつつも、冷蔵庫を開けたまま眺めてしまう。

一人暮らしになり冷蔵庫を買うと、すぐに食べ物を入れた。
冷蔵庫に物がたくさん詰まっているほど、幸せになる。宝箱だから、いろいろ置きたくなる。
ケーキ、ゼリー、おたまじゃくし。
そのひんやりとした光の中に置くと、何でもピカピカと美味しそうだ。
蛙の目、ハム、小指、チーズ、耳。
いけないと思いつつも、夜に冷蔵庫を開けては、つい見とれてしまうのだ。


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