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時間と光と空気感

街中で、場所によって時間の進み方が速く感じたり、遅く感じたり、止まっているように感じることがある。実際の空間ではなく、二次元の風景ではどうだろうと、時間について考えながら写真を眺めてみた。時間が速い、遅いと感じる要素をまとめてみる。

速く流れる時間

普段ならば殺風景だと思ってしまう車道が、メタリックな光が眩しいSF世界のような光景に。青みを帯びた鮮やかな色合いと金属の光沢が、サイバー感を醸し出していて、白線の路面標示までスタイリッシュに見える。
真っ先に目を奪われた、斜めに突っ切る光の帯。この超高速感。アニメや漫画でも一瞬の動きを残像のように描いてスピード感を表現したものに惹かれるけど、これは一枚の写真だから純粋に光の軌跡かっこいいと立ち止まれる。遠近感のある斜めの構図が、光の疾走感とダイナミックさを強化している気がする。写ってはいないけど、この軌跡を残しているのはもしかしたら先鋭的な形をした乗り物かもしれない。近未来っぽい世界観による速さと、物理的な速さを浴びる一枚。

異国情緒のある赤が目を引く。そそり立つ重厚な建物に挟まれて、谷底にいるみたい。道行く人々の顔にも赤が映って熱気を感じ、わくわくする。日光によって画面全体はクリアな印象。冴えた日光と赤い照明の温度差も好きだ。
祭りのような活気に呑まれると、自分もその風景の一部になっていく。あれ何だろう見に行こう、これが欲しい、目的地に早く着きたい、と目まぐるしく考えながら歩いている時の気分が湧いてくる。
物や色がひしめいた、圧倒されるような空間。そういう情報量の多い場所では、たぶん速い時間が流れている。
人混みで周りの動きに合わせて歩くと、いつの間にか速い思考になっている。その時は夢中で、速いとすら感じていないのだけど。物と情報が飛び交う中では、時間もどんどん流れ去っていく。時間の速さの感じ方は、物理的な速さだけでなく、どんな思考で過ごしているかも関係するように思う。

ゆっくり流れる時間

柔らかい光の、気負わない街並み。休日の午後の眠い空気とか、どこからか帰ってきてもうすぐ家に着く道のりのほっとした気分とか。そんなゆるく穏やかな生活があって、何気ない幸せをじわーっと感じる。
見ているのは切り取られた一瞬のはずなのに、まとまった時間の流れに、たっぷりと浸る感覚になるのはなぜだろう。影の色まで優しく柔らかい。
日常で無駄のないよう時間を気にして動くと、何か大きくて速い時間の流れに自ら入ってすいすい泳いでいるような状態なのだけど、
この風景では、効率性から離れた思考へ切り替わって、ゆるやかな時間の流れに入り込むような気分になる。

日が落ちてもまだ空に光が残る、曖昧な時間帯。暗がりで浮かびあがるつつじがあまりに鮮やかで、日常を超えた不思議な感じ。一枚目で生まれた緊張感が、あとに続く陰影の濃淡や、濡れた路地の艶やかな質感でほぐされる。地上から空へと、徐々に夜が広がる。その変化に耳をすませたくなるような、静かな雰囲気だ。
人気のなさ、路地にあるいろいろな物の存在感の強さ。そして雨上がりというのが、動と静の落差を感じて、さらに静けさが際立ってる気がする。
静けさは、時間の流れを減速させる大きな要素だと思う。時間の経過とともに発生しては消える音のない状況では、時間の過ぎる感覚が薄れやすい。この風景では、空の色の変化と同じ速度が、路地を満たしているような感覚。

滝のように流れ落ちる植物が、もはや家の主。植物が生き生きとしているからか、上品なカフェのポスターで見かけそうな色合いのためか、荒れた廃屋が何だかおしゃれに見える。
植物と朽ちていく人工物を組み合わせた風景では、時間の進みが一段と遅く感じる。
人気がなく、植物だけが呼吸しているような場所に立ち入ると、もうその場所は人間の生活とは別次元で、植物の時間が流れている。自然物に囲まれているだけでも時間がゆっくりしているように感じるのだけど、置き去りにされた人工物があると、植物の存在感がさらに強調さらる。永い年月の経過が一目で分かって、見慣れた建物がいつもと全く違う姿で立ち現れ、インパクトが強い。

流れない時間

そもそも時間の止まっている空間が、保存されているような印象。一瞬が切り取られているけど、1分後も1時間後も同じ姿でそこにありそうな、その場所が永久に続くような、そんな密度の高い静けさを感じる風景。石というモチーフも永い年月を感じるものだし、神社や寺では敷地に踏み込んだ瞬間に空気が変わる経験をしたから、そう思うのだろうか。
特に一枚目の橋は、時間が止まっていると感じる。緑が鮮やかで輪郭がきりっとしているわりに、全体的に少し暗いこの風景は、昼なのか、夕方なのか、それとも午前中なのか分からない。もしかしたら、昼も夜もない場所なのかもしれない、という気がしてくる。

時間を操る

これは番外編。個人的に実際の空間では味わったことがない、写真だから感じた時間について。

流れを止めた時間

カメラを通すことで見える、静止した世界。時間が止まることで気づいたこと。

噴水って、水の彫刻だったんだと気づいた一枚。噴水をつくる人は、水の形まで設計するんだなぁと。水のうねりがきれいに見えるこの角度。肉眼でこの形は捉えられないと思う。形を保った上部は滑らかで硬そうだけど、ほどけて砕けるにつれ、飛沫や水面といった液体らしい姿に変化していく過程が見られる。
また、鑑賞するだけでなくダイブできる水の彫刻というのが、何だか贅沢な気分。水は毎日いろんな接し方をするけど、芸術的に扱われる水と、遊ぶ対象としての水がつながっていて素敵だ。

ごおぉっと音を立てて、強風に身体ごと持ってかれそうな感覚がわいてくる。風の流れがそのまま見える迫力。吹き飛ばされそうな時の高揚感と解放感を、目から摂取できる。雨が降る前後の、荒々しい風が吹くシチュエーションが好きだなと実感する。草の位置が高いせいか、子どもになった気分。
樹の細部が鮮明で、「今、ここ」という臨場感が強い一方で、色は思い出の印象があるセピア色なのが面白い。風を閉じこめた標本という感じ。
鈍く光る曇り空もかっこいい。青空や夕空に比べて、曇り空が魅力的に写っている写真は少ないから貴重。

運命的な瞬間

風景を劇的に演出する光や構図というのがあるんだろうなと、ぼんやり思う。なぜそう感じてしまうのかは、分からないけど。

何かを予感させる緊張感。意味は分からなくとも、運命的な一瞬に出くわした気分になる、物語のワンシーンのような風景。
建物が生む特徴的な影が、大胆に画面を構成していて気持ちいい。通りすがりの人々が、役者みたいに見える。陰影の深さが、人間ドラマの深さとして脳に刻まれる感覚。光と影のコントラストが強いと、特別な時間だと感じやすいのだろうか。様々な人が行き交い、人生が交差している都会的な街並みの印象も影響しているかもしれない。
高い所から見下ろすアングルも、何かどきっとする。あ、見つけたという目線の純粋な感じと、神が俯瞰するような必然的な感じが、一枚から同時にやってくる。

終わりに

体感時間の速さ左右する要素は、物や人の様子、音等の目に見えないものも多い。写真は光の情報でできているけど、探したら時間の速さを感じるものもあるなと思った。時間を感じられる写真=空気感(日差し、音、温度、匂い等を連想する)のある写真、ということだろうか。

以下、完全にメモ。
<体感時間の速さを左右する要素>
・人
人の有無によって時間の速さが変わる。人が多いと速い、人がないと遅い。また人がいる場合、その人々が何をしているかも影響する。人の入れ替わりが激しい店の中、てきぱきと歩く人の周りは速い。特に仕事のために動いている人の周りではより速く感じる。
・人工物
広告、標識、道路、ビル、その他構築物。機能的に整備された人工物で構成されたパブリックな空間では、時間が速いと感じる。情報が移り変わる広告や、乗り物等の物理的に動く機械のある場所では特に速い。手作りの看板や植木鉢、洗濯物等、個々の営みを感じるようなプライベートな雰囲気のある空間では、時間が減速する。手入れがされず劣化した物、風化した物の周りでは、自然に逆らわないゆっくりとした時間の流れを感じる。
・自然物
動物、植物が中心となった場所では、それぞれの生き物の時間が場を制している。よって人の感覚では遅く感じる。生き物がいないと、風や空、雨等の現象が体感時間をつくる。
・音
音は、生き物が動く気配であり、時間の経過を感じさせるもの。無音の状態では、時間が止まっているように感じる。

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