「マネージャーになるのが早すぎた」問題
フルスタックマーケティング株式会社の代表取締役CEO・清水優志(@fsm_shimizu)です。
企業のマーケティング活動を支援しています。
僕は仕事柄、ベンチャー企業のプロジェクトに関わることが多いのですが、ベンチャー企業では早い人だと20代半ばでマネージャークラスに昇格します。
自分自身、昔は「若いうちにマネージャーになりたい」と思ったこともありましたが、最近は「マネージャーになるのが早すぎると、自身も組織も不幸になるのではないか」と感じることも増えてきました。
そんなわけで、今日はこの「マネージャーになるのが早すぎた」問題について考えていこうと思います。
企業経営における「マネジメント」の位置づけ
企業経営における「管理(マネジメント)」の概念について、その重要性の提唱と基礎的な理論化をはかった功績者は、フランスのアンリ・ファヨールだと言われています。
彼は著書『産業ならびに一般の管理(1916)』で、企業の経営活動(職能)を次の6つに分類しました。
技術活動(生産・製造・加工)
商業活動(販売・宣伝・広報)
財務活動(資本の調達・運用)
保全活動(設備および従業員の保護)
会計活動(決算・税務・報告)
管理活動(計画・組織・命令・調整・統制)
このうち、ファヨールが最も重要だと説いたのが「管理(マネジメント)」です。
『産業ならびに一般の管理(1916)』の中で、ファヨールはマネジャーの仕事を「管理とは、計画し、組織し、命令し、調整し、統制するプロセスである。」と述べました。
1916年に発表された著書ですが、現代にも通ずる普遍性をもった内容だと感じます。
マネージャーの本質的な仕事
では、マネージャーとは具体的にはどのようなことをするのでしょうか。
「ファヨールの管理5要素」は以下のとおりです。
計画:何をどう達成するのかを決める
組織:実行のためのチームを編成する
命令:チームを指揮して円滑に動かす
調整:他チームや他事業と交渉をする
統制:決まった方針や目標を守らせる
よく「ビジョンの策定」や「部下の育成」、「評価・フィードバック」などがマネージャーの仕事として挙げられますが、これらはあくまでも手段であって主なミッションではありません。
「ビジョンを作っただけで現場のアクションにつながらない」「部下の育成が目的化してしまう」「評価やフィードバックに時間を使いすぎる」などは、手段と目的の勘違いによって生じる現象です。
「ファヨールの管理5要素」を効率よく遂行することこそ、マネージャーの本質的な仕事だと言えるでしょう。
「ファヨールの管理5要素」を遂行するための要件
では、「ファヨールの管理5要素」を遂行するためには、どのような資質が備わっていなければならないのでしょうか。
管理5要素のそれぞれについて検討していきます。
計画:何をどう達成するのかを決める
「計画」において最も大事な能力は「未来を語る勇気」です。
マネジメントする対象がなんであれ、目先の事象の成否にばかり目を向けていては高生産性を実現できません。リスクを取って投資をし、短期的ではなく中長期的な成果最大化を目指すことこそマネージャーの使命です。
この能力の有無は、中長期的なプロジェクトに主体的に関わって成果を出したことがあるかを確認すればわかります。
組織:実行のためのチームを編成する
「組織」において最も大事な能力は「人材を見極める目」です。
チームメンバー候補がいるときに、その人の専門的な能力はもちろん、価値観や仕事のスタイル、思考や行動の癖、ストレスのかかるポイントなどを直感的に理解できなければ、適切な人材配置・管理はできません。
この能力の有無は、多種多様な人材が関わるようなプロジェクトの参画経験とそこでの振る舞いを確認すればわかります。
命令:チームを指揮して円滑に動かす
「命令」において最も大事な能力は「簡潔に伝える言葉」です。
命令する際に「なぜやるのか」「何を実現したいのか」をシンプルに表現できると、メンバーは能動的に行動しやすくなります。
この能力の有無は、上司への報告内容や、採用面談における自己PRを見ればわかります。「相手がどのような情報を求めていて、それをどのように表現すればよいのか」という思考が端的に表れるからです。
調整:他チームや他事業と交渉をする
「調整」において最も大事な能力は「相互利益の実現」です。
調整が下手な人は自己の利益だけを追求します。一方で、調整が上手な人はあたかも相手にとって最適なプランに見えるような提案をして、相互利益を実現します。
この能力は、情報収集力に依存します。相手の課題や利益が理解できていないと、相手にとってよい提案ができないからです。
したがって、デスクトップリサーチやヒアリング、そして「空気を読む」ことが得意でないと、調整力も低いはずです。
統制:決まった方針や目標を守らせる
「統制」において最も大事な能力は「仕組みづくりと徹底」です。
管理のしやすい仕組みをつくり、否が応でもそれを徹底させる泥臭い努力ができるかどうかが統制の質を決めます。
この能力は、明確な目標や締切を課せられた経験と、そこでの実績を確認することでわかります。目標や締切を守れない人にマネージャーは務まりません。
「磨けばいいマネージャーになるかも」の罠
ここまで、「ファヨールの管理5要素」を遂行するための資質について検討してきました。
メンバークラスの時点で、この5要素を満たすような働きができる人はたいへん希少ですが、たまーに存在します。そういう人は放っておいてもマネージャーになり、気づいたら経営者になっています。
問題は「磨けばいいマネージャーになるかも」な人材をいつマネージャーに昇格させるか、です。
ここで「人材育成」という曖昧な概念を持ち出してしまうと、意思決定を誤ります。「育成」という言葉は便利ですが非常に再現性が低く、ほとんどの場合で思った通りの成果は出ません。
育成は手段であり目的ではありません。改めて「ファヨールの管理5要素」を確認してみましょう。
計画:何をどう達成するのかを決める
組織:実行のためのチームを編成する
命令:チームを指揮して円滑に動かす
調整:他チームや他事業と交渉をする
統制:決まった方針や目標を守らせる
新任マネージャーAを育成する立場にある上位マネージャーBの仕事もまた、上記のような「計画」「組織」「命令」「調整」「統制」です。
そして、「人材育成」は「組織」の手段のひとつに過ぎません。さらに言えば、その手前にはまず「計画」があります。
したがって、「磨けばいいマネージャーになるかも」の罠を回避するためには、まず冷静に「計画」を練ったうえで、それを達成するための「組織」を考えることなのです。
もしその手段として「人材育成」が適しているのであれば、「磨けばいいマネージャーになるかも」な人材をアサインするだけです。
「マネージャーになるのが早すぎた」問題はなぜ起こるのか
ここまでの内容を踏まえると、「マネージャーになるのが早すぎた」問題が起こってしまう原因がよくわかります。
それは、「所与のリソース(既存の人材)」や「人材育成」を「前提条件」だと勘違いしてしまうことです。
「今いるチームメンバーの中でもこの部下は特に優秀だ。早めにマネージャーとして育成していきたい」といった思考に陥り、マネジメントスキルのない人材をマネージャーに昇格させてしまうと、結果的にチームの生産性を下げることになってしまいます。これでは逆効果ですよね。
僕はこのパターンで生産性が急降下したチームをこれまでたくさん見てきました。
マネージャー昇格の最適なタイミングは「計画を達成するためには、この部下をマネージャーに抜擢するのが最適だ」と腹落ちしたときです。
もし既存の人材でそれが起こり得ないのであれば、採用という手段を選ぶか、そもそもマネージャーを増やしてはいけません。
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