公認5Kロードレースが日本では何故少ないのか?〜ランニング”先進国”USAと比較〜
□公認5Kロードレースが人気のアメリカ
フルマラソンこそがレース、と言う日本。一方、公認5Kロードレースがフルマラソン完走者を上回るというアメリカ、このことは日米のランニングカルチャーの違いを象徴する。
ただ、考えてみれば、シンプルに誰でも参加できる距離のランニングイベントが人気があるというのは当然と言えばという当然のこと。そして、彼らは、その距離、時間内で達成感や楽しさを満喫するというわけだ。
有名なNY5thの目抜き通りを走り抜けるNY5Th Ave 1マイル、今年もたった1.6Kの距離を約9500人のランナーが走り抜けた。もちろんエリートの部門もあるが、むしろ市民ランナーが主役だ。1981年に始まって43回とその歴史は長い。
どちらが良いとか悪いとかではなくて、やはり出場しやすい距離で参加ハードルが低い5Kが人気のアメリカは、ランナー層の裾野広さを感じる。逆にフルマラソンが人気が集中する日本、結局、ランニングを始めるランナーにとって、”42.195Kこそレース”というような風潮が根底に根付く日本では、レース参加ハードルの高さが、ランニング人口の広がりを抑えているかもしれない。
日本では、ロードレースに出場する=しっかり走っているランナー向け という図式はあながちズレた表現ではない。
□公認5Kロードレースの主役は市民ランナー
USATF(アメリカ陸上競技連盟) 公認の5Kコースは、なんと8451ある。そして、それは、なんと公認コースの全体の56.2%、フルの10倍の数があるのだ。
一方、日本では、約3000のレースうち、約200レースが公認レース(2019年調べ)で、ハーフかフルマラソンが大半で、公認5Kレースは、この2024年の現在でもごくわずか。
ただ、公認という響きを聞くとアスリートのイベントのように聞こえるかもしれないが、例えば、公認5Kイベントが708あるニューショーク州の場合を見ても、チャンピョンシップ(選手権)は2つだけ。
例えば以前紹介した、カールスバッド5000は、プロランナーの部門もあり、賞金レースとしての側面、見て楽しむ部分と、ゴール後、ピザとビールがもらえるなど参加して走って楽しむ部分が混在した、とにかく市民ランナーが主役のロードレースになっている。
公認5KロードレースではないがAJCピーチツリーロードレースは、10Kに約6万人のランナーが参加する。25000人の定員がすぐ埋まってしまうことから成長、40000人になり、ついには60000人の参加者を迎え入れる超巨大ランニングイベントになっている。
アメリカのランナーは、レース出場を検討する場面で、気軽に参加できる方法を選択するというわけだ。公認5Kレースはとても当たり前の存在というわけだ。
□運営面でも容易な公認5Kロードレース
考えて見れば5Kレースは、主催者運営が容易であることもある。例えば、大阪マラソン2019のコストは14億7874万円としかもその運営費用50%がコースの調整費に使われたとのこと、なるほどコース自体が短い5Kレースの方がコンパクトな開催が可能であるわけだ。
とは言え、日本での公認ロードレース実施は、現状とてもハードルが高いと言わざると得ない。
簡単に言うと公認コースであることと、主催権を持った団体の公認レースであることが要求され、また、記録を公認させるためには日本陸上競技連盟登録者である必要もある。
大会側もコース公認料が216000円かかるゆえ、ハーフマラソンは公認で、5Kは公認ではないというようなことが起こるのだろうと推察できる。
じゃあ、別に公認大会ではなくて、未公認の5Kロードレースでいい、となるのは必然。別に参加者も公認5Kレースである理由がないのが実情だろう。
ただ現状の人気から言っても、日本陸上競技連盟の公認レースの担保ないと距離正確性の概念も統一されたことにはならないので、アスリートの積極的参加がない→レース自体の人気が出ない→市民ランナーにも人気が出ない、そんな悪循環のように感じてしまう。
□大会規模によってコース認定料が違う
ではアメリカの場合はどうか。USATF認定コースで公認イベントである必要があるのは同じで、USATFの登録メンバーでないと公認記録にはならない。基本的には「Course Certification Program」へ参加してもらい、コース認定料を支払う流れのよう。基本的には日本と同じような条件だ。
ただ、コース認定料が、大会規模によって決められているようで、100人程度の規模のレースであれば60ドル(約8400円)とハードルが低い。ここが公認大会数が多い一つの要素に感じてしまう。
1万人以上の規模の大会であると4900ドル(約69万円)と状況が逆転、累進的な認定料設定になっているようで、コストは大きなイベントほど増すような合理的なアメリカ的なやり方だ。
つまり公認5Kレースと言っても、ガチガチのものでなくて、小規模な大会で公認レースというケースも多そうだ。距離の正確性が担保された条件のレースをむしろレースと呼ぶのかもしれない。公認というイメージがまるで日本とは違うというべきであろう。
また、ボストン、シカゴ、ニューヨーク、ワールドメジャーズ3大マラソンの前日か、前々日に行われる5Kレースが、その文化が根付いている象徴だ。それもフルマラソンのコース上で行われて、この辺りの参加したくなる何かへの演出、それがとてもうまいということも付け加えておきたい。
もちろんコスト的な割安感、レース設定の簡易感があるが、そのコンテンツへの魅力付けのうまさも際立っていると言えよう。
□ 公認5Kレースは今度はトレンド化する
ちなみに私はM50の5K道路日本最高記録を持っている。いくら50歳だとは言え、16分46秒はかなり物足りない記録であるが、なぜ今だに記録を保持できているかといえば、まさに公認レースが国内でかなり限られていることに尽きる。
私の場合、ADIDAS TOKYO CITY RUN 2023で達成したわけだが、結局、同世代の実力者が出る気もなければ、まさに出るレースもないということになる。
下記、漏れがあるとは思うがザッと調べた公認5Kレースになる。
第42回円谷幸吉メモリアルマラソン(10/20)
第2回佐久平ハーフマラソン(10/20)
THE CHALLENGE RACE(複数回)
第52回天拝山ロードレース
第45回府中多摩川マラソン(11/23)
第20回ちくせいハーフマラソン(12/8)
2024中日三重お伊勢さんマラソン(12/7-8)
第9回東日本マスターズロードレース(12/14)
Adidas City Run2025(期日未定)
ふくい桜マラソン2025(3/30)
まずは日本陸上競技連盟の参入の条件のハードルが下がることが望まれるが、お役所的な陸連にそれは難しいだろう。もしくはAMS(国際ディスタンス連盟)に加入をするなど方法もあるかもしれない。
しかし、公認であるか、どうか、ということより、トラックレースのように、同じ方法で計測した距離、つまり同じ条件での公認5Kロードレースが一般的になること、これが一番大事なことではないだろうか。条件が揃ってくれば、箱根駅伝の選手や、実業団の選手が参加することも自然と増え、市民ランナーにもその魅力が伝わっていくことと思う。
世界大会などの参加資格と取得するための標準記録は、条件を満たせば、ロードマイル、5K、10Kなどの公認ロードレースでも取得可能だ。世界ディスタンス選手権(World Athletics Road Running Championships)も開催されている。
「オレの5Kタイムトライアル」なるものを12戦実施した。もちろん、これは公認レースではなく、シューズによるタイムの変化を調べたいということもあったが、コロナ禍でレースがなかったときに感じた5Kレースの手軽さ、楽しさ、これを伝えたいと思ったからだ。
「いつものコースがレースコースになる」スタート時間もない、スタートラインへの待ち時間もない、トイレも混まない、まさに気軽にレースになるのが5Kだ。ただ、今後日本でもトレンド化するためには、コンテンツの面白さとコースの正確性は外せない。
そういう意味でフルマラソンの盛んな日本では、ボストン、シカゴ、ニューヨークマラソンの前日(ボストンは前々日)行われる5Kに習って、各地で開催される1万規模のフルマラソンレースでは、必ず前日に5Kがある、という方向になるのが理想的かもしれない。5K部門が公認である、大迫傑選手プロディースのふくい桜マラソンなんか、いいモデルケースだと思う。
今後5Kは必ずトレンド化する。
それなき日本のランニングカルチャーは、どこまで行っても、ランニングというスポーツがマイナーであり続けてしまうだろう。
フルマラソンも走る人がいたっていい、だけど5Kレースに出るランナーだって胸を張っていい。それぞれが認めあえてこそ、そして、そんな多様感があってこそ、日本もランニング先進国になれるはずだ。
参考資料
『公認 5km のロードランニングイベントを多数開催することを可能とした 米国陸上競技連盟(USATF)の取り組み』
https://waseda-sport.jp/paper/2308/2308.pdf
『公認陸上競技場および長距離競走路ならびに競歩路規程』
https://www.jaaf.or.jp/athlete/rule/pdf/10-3.pdf
『公認競技会の条件』
https://www.jaaf.or.jp/pdf/about/rule/handbook/1903.pdf
『参加資格取得制度および標準記録』
https://www.jaaf.or.jp/files/upload/202208/24_100216.pdf