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シューズアドバイザー藤原から見る中国シューズブランドの現在地

□中国ブランドを着用するアフリカ選手が散見

あのケネニサ・ベケレがANTA(アンタ)という中国ブランドと契約というニュースが走った。長年スポンサードされてきたNIKEからの変更は、これが彼の晩年、引退間近という人もいるし、気分一新の意味もあるかもしれない。真相は分からない。

そして、最近海外のレースでも、チラホラとアフリカの選手が中国ブランド契約ランナーになっているのを確認できる。ワールドアスレチックス(世界陸上連盟)のレースで優勝したり、入賞したりするシーンが目立ってきた。

例えば、K・キプタムが世界最高記録を出したシカゴマラソン2023でも彼のペーサーはLi Ning(リーニン)を身をまとっていた。また、リーニンのスーパーシューズを紹介する動画を配信するアメリカ、ヨーロッパのシューズレビュアーも散見できるようになった。

先のブタペスト世界選手権で、女子マラソン3位に滑り込んだモロッコの選手は、Xtep(エクステップ)の160x 3.0 proを着用していた。

Li Ning(リーニン)Xtep(エクステップ) Anta(アンタ) 361°、Qiao Dan (チャオダン)など、ただ知る人ぞ知るブランドであることは間違いない。

□やはり日本では事情が異なる

東京マラソンでゲリラ的に配られたり、熱狂的にその性能を惚れ込んで好きなランナーもいることはいるが、これらの中国ブランドが日本で本格化展開することはないだろう。

アフリカやヨーロッパのランナーとはやや感覚が異なる。それは国同士が対立するアメリカでさえ同じ。特にアフリカ諸国は中国とも経済的にな関係性が深いこともあるから、日本人と中国人との関係性と比較すると歴史背景も含めて全く違うからだ。

だからベケレが、中国ブランドと契約したのは不思議ではないし、ビジネス的な計算もゼロではなかったはず。ビックリしたNEWSではあったが、最近のアフリカ選手の青田買いからしてもあり得ることだ。

Tick Tok、電気自動車のように中国のブランドが世界進出するなどスピード感がある経営は、国民性なのか、むしろ羨ましい限りのフットワークと感心する部分もある。


□プロダクトのクオリティーはどうか?

リーニンは早くからアメリカに進出していて、NBAの契約選手もいるなど、知名度があると言える。日本でもバスケットシューズは手にすることができる。「プロダクトがいいから履く」なのか、「ビジネスとして履く」なのか、分からないが、恐らく両方なのであろう。

そもそも、中国ブランドは、簡単に模倣し、そして、性能としては互角のものをすぐ作ってしまう。人々の興味を引くようなデザインであったり、価格であったり、その能力とスピードは見習うべきものがあるだろう。

私も着用したが、悪くないのだ。日本の市民ランナーでも熱狂的なファンもいる。

しかし、日本人選手はどうだろうか。「プロダクトがいい」だけでなくて、「プロダクトを履くことで結果が出る」ことはもちろんだが、NIKEヴェイパーフライの拡散スピードも、世界的なランナーのスピード感とは桁違いに遅かった。


□模倣品のような商品も目立つ

デザイン創出のプロセスに“模倣“はあってもいいが、一方で、どこか似たカラー、似たデザインで、言い方は悪いが、これはコピー商品と紙一重ではという商品が目につく。

チャオダンは、ジョーダンという名前とジャンプマンマークをめぐって法廷闘争を繰り返して、その後敗訴しても尚、漢字表記をやめただけでブランドマークとして使用している。この件のように、中国には、そういった私たちには理解できない慣習的な違いはあるように感じてしまう。

実際、かつて日本で展開をしていた361°のようなブランドもあるが、ランニング部門は撤退してしまった。なかなか日本では浸透しなかったし、そもそもわざわざ中国ブランドを履く理由がない、のはある。

それはどこの国の新興ブランドでもつきものであることと同じ。ブランドが複数ある中で新参者は簡単ではないからだ。消費者はNIKEでも、アディダスでも、アシックスでも十分満足であって尚、プラスαの魅力が必要だ。

□中国のランニングカルチャーは盛り上がるか

ただこの大陸の人口は約14億人と日本の14倍近く、恐らく世界でメジャーにならなくても、中国本土でのランニングカルチャーの高まりがあれば、国内の需要が十分ビジナスになるのであろう。

ローカルフォーローカル(地産地消)は、最近まで“世界の工場“を欲しいままにしてきた中国であれば可能であるし、東南アジアに移った生産を雇用として、ビジネスとして穴埋めすることにもなるのだと思う。

ましてや、米中、日中関係の問題がそのままで、さらに深刻化して、アメリカ製品、日本製品を使わない・買わないということになればその部分は尚更チャンスありだ。

また、関係密なアフリカだって、東南アジアだって経済的に裕福な人たちだって増えてきているし、消費者としての需要もあるのであろう。

実際、現在でも多くの中国ブランドが店舗数も多い、中国全土に有するスニーカー販売チェーンである。

□モノマネレベルでない、イノベイティブなパワーはあるのか

1つ不思議なことだと思っているのが、世界陸上を見ていても、中国のナショナルチームはNIKE。やはり、トラック&フィールドはNIKEだ、ということなのか?

確かに、NIKEというブランドは、時代、時代で固定概念崩壊させるようなイノベーションを起こしてきた。2017年のブレイキング2が現状のプロダクト、中国ブランドのプロダクトに与えた影響は途轍もなくすごいものになった。第一、ワールドアスレチックスのルールすら変えてしまったわけだから。

では、もし中国ブランドからNIKEヴェイパーフライのような圧倒的にイノベイティブでオンリーワンなものを生み出したらどうだろう。自然摂理的世界拡散が起きて、そのとき我々を含めた世界のランナーが中国ブランドを履くときになるのであろう。

まるでTik Tokのように。

ランニングシューズに限っていえば、ある種の模倣的経営のスピード感がすごいが、全く新しい概念を生み出すようなイノベーションがあるか、というと現状では疑問だ。


□次の先手を打つのはどこのブランドか

ちなみに日本ブランドを含めた各メーカーは、その“次“を狙っている。もちろん現在のリーダーNIKEだってそうだし、ADIDASだって負けてない。512足限定の82500円のEVO1発売にもそれは現れる。つまり、その次をとったブランドは業界をリードする。2017年のNIKEのように。

例えば、ルールギリギリの40mmの厚底でない、ちょっと薄底でも同じパフォーマンスが出せて、しかも、圧倒的なサステナブル技術のプロダクトが生まれたら、それはゲームチェンジャーになる。

NIKE ストリークやADIDAS ADIZERO  TAKUMI SENのようなプロダクトが、ヴェイパーやアディオスプロを上回る性能を発揮したとき、接地感覚からしても業界をあっと驚かせるニュースになるであろう。

モノマネレベルではない進化、そんなこの業界をリードする発想が生まれたときには中国ブランドが業界をリードすることだってあるかもしれない。

ただすでに世界の工場は東南アジアに移っている。特にランニングシューズに関して言えばごく一部が中国製になった。今はそんな過渡期であることは間違いないだろう。


□奇抜ではなくて、個性があるブランドになれるか

この2023年の現在、ナイキのフィルナイトがかつてオニツカタイガーに惚れ込んで、それをアメリカで販売して成功した時代とは背景も、そして、国も違う。

そして、2000年に入ってから誕生した新興ブランド、HOKAやOnも今では業界を世界中の消費者を虜にしはじめている。この両者はそのブランドコンセプト、機能性もさることながら、デザイン性でもオリジナル感が高く人気だ。ランニング・ウォーキングだけでなくて、街履きのようなセールスにも浸透しはじめて、NIKE、ADIDASという2強の牙城も、実際崩しかけている状況になっている。

世界には本当にトンがった面白いブランドがあるものだ。アルトラだって、トポアスレチックスだってストーリーだけも興味を注ぐ。オールバーズのようなサステナブルに特化したブランドだってある。

そんな強豪ブランドたちと伍してなお、奇抜な、気を衒ったデザイン性の模倣品ではなくて、本当に光った個性があるプロダクトとコンセプトを中国ブランドが商品として提案してきたときこそ、はじめて注目すべきタイミングなのかもしれない。

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