ローコンテクストとハイコンテクストのコミュニケーションが生む社会への影響: その④「広告表現のハイコンテクスト、ローコンテクスト」

記者:Mさん

※こちらの記事は、シリーズ「ローコンテクストとハイコンテクストのコミュニケーションが生む社会への影響」についての漠然とした考察のための一つの視点として、「④広告表現のハイコンテクスト、ローコンテクスト」の仮説を探るために、自身の経験も踏まえてまとめた記事です。

日本でもローコンテクストが求められる

前の投稿では、「空気を読む」ように言葉以上の情報を読み取るハイコンテクストなコミュニケーションは得意とされる日本人だが、価値観が多様化が進み、かつSNSなどのネットワーク上の文字ベースのコミュニケーションがほとんどの状況では「空気を読む」ようなハイコンテクストなアプローチが難しくなっているのかもしれない、と述べた。
では、ブランドが生活者に向けて発信するコミュニケーションはどうだろうか?

ベネフィットが訴求される広告はハイコンテクスト
商品のベネフィットを伝えるとき、生活者の価値観にもとづいた広告表現はハイコンテクストが多くなる。
数秒で心を掴む必要がある広告媒体でベネフィットを描くためには必要最低限の要素で構成せざる得ないから目に映る以上のテーマを含めなければならないからだ。事例を元に考察してみる。

スクリーンショット 2021-01-26 9.52.16

ポカリスエット(2019)

「汗は君のために流れる。」というコピーはポカリスエットがもたらすベネフィットを伝えているが、読み取れる事象は「汗は流れる」と「君のために」だけ。それでも「汗」には「努力」の象徴という文化的背景があるし、自分たちの身体的な努力の記憶と汗が紐づくことも多い。だから「汗は君のために流れる。」という一言から「努力することの尊さ、素晴らしさ」と努力する人、特に若者への肯定のメッセージが読み取れてしまう。
また、高校生を思わせる幼い顔、汗ばんだ顔、真剣な眼差し、青空というビジュアルから青春の1ページであることが連想される。それぞれの要素が人々の青春の記憶に刻まれていることが多いからだ。
このように広告表現においてコピーとビジュアルの「行間」を読み解いて完成されるハイコンテクストなアプローチは多い。上記の事例における「汗」「青空」「学生」「真剣」といった言葉とビジュアルのように、多くの人々に記憶と文脈があるような要素を捉えていることが前提となる。
(そもそもポカリスエットはすでに若者の汗のシーンに寄り添うブランディングをずっと続けている文脈が商品特徴に紐づいて築かれているため、ポカリスエットのボトルが登場するだけで青春の一ページを感じてしまう)

ローコンテクストな表現の広告
一方で機能訴求を主にする広告においては機能は事実として明晰に伝える必要があるため、目に映る事象で明晰に伝えるローコンテクストな表現になってくる。ブランドの態度や考え、伝えたいことが明晰に描かれる。

スクリーンショット 2021-01-26 9.53.21

コンタック(2020)

ハイコンテクストは表現はストーリーテリング?
ハイコンテクストな表現はストーリーテリングの効果に近いかもしれない。ストーリーテリングが因果を持ってテーマに気づかせるように、目に映る以上のテーマを見る側に気づかせるのは記憶にとどめやすいアプローチだろう。ハイコンテクストな表現に私たちが惹かれるのはそういう理由かもしれない。

ハイコンテクストな表現のリスク
広告制作者が気をつけなければいけないのは見る側、つまり生活者の文脈(共通認識や記憶)を捉えること。ターゲットの文脈を捉えることで強く訴求できるが、同時に広く共有されている文脈の範囲で描かないと異なる文脈を持つ人々を傷つける、あるいは誤解されてしまう可能性がある。近年では価値観の多様化、変化が多いためより慎重に文脈を捉えていく必要があるだろう。
また生活者の文脈を重視してブランドの文脈を無視しても納得感が得られにくい。
文脈から見ても生活者とブランドの双方からアプローチすることが求められる。
・ターゲットの文脈を捉えているか?
・広く共有されている文脈であるか?
・ブランドの文脈から外れていないか?

ローコンテクストな態度でハイコンテクストな表現を
価値観が多様化が進み、かつSNSなどのネットワーク上の文字ベースのコミュニケーションがほとんどの状況では「空気を読む」ようなハイコンテクストなアプローチが難しくなっているのかもしれないが、広告それぞれの表現においてはハイコンテクストは以前有効だと思われる。
重要なのはブランド側がローコンテクストな態度になること。自らの文脈を開き伝えていくこと。また生活者の様々な文脈を捉えることはもちろん、様々な文脈を持つ生活者によりそい対話していくようなローコンテクストな態度が必要になっているのではないだろうか?