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2023年度知のフォーラム「デジタル×サステナブル社会のデザイン」プログラムワークショップ 「森と海との縁(えにし)/ネットワークを創る」&南三陸SDGsフィールドワーク

経済学部の高浦康有先生(知のフォーラム「デジタル×サステナブル社会のデザイン」プログラム担当教員)、経済学部学生3名、環境科学研究科修士課程1名、東京大学大学院新領域創成科学研究科サステイナブル社会デザインセンター特任研究員1名の計6名は南三陸でフィールドワークを実施しました。

スケジュール

9月14日(木)
08:50 川内郵便局向かい側 集合
11:30~12:00 頃 〈校舎の宿〉さんさん館 到着

13:00 – 17:00 ワークショップ 「森と海との縁(えにし)/ネットワークを創る」 
一般社団法人 サステナビリティセンター代表理事 太齋彰浩氏もWS参加
東京および仙台会場を結んだディスカッション

9月15日(金)南三陸SDGsフィールドワーク
08:30 さんさん館 出発
午前中案内: 太齋 彰浩 さん(一般社団法人サスティナビリティセンター 代表理事) 

9:00 南三陸FSC認証林視察 入大船(梨の木畑) 
9:50 南三陸町役場(認証林材利用建造物)視察 志津川沼田101 
10:30 ASC認証のカキ養殖場視察(陸から)志津川黑﨑(国道45号線パーキング)
11:30 南三陸ワイナリー(耕作放棄地でぶどうを栽培、海中貯蔵など自然との共生を図る) 醸造所見学及び経営者による事業紹介

12:30 さんさん商店街にて各自昼食

13:30 さとうみファーム(ワカメの茎などを利活用した餌で臭みの少ない希少な国産羊を育てる)・牧場見学及び経営者による事業紹介

14:00 現地出発   ➡16:30 頃川内着


FSC認証材を使った南三陸町役場


環境に配慮して間隔を広く取った南三陸のカキ棚


参加学生のコメント

(1)初日のワークショップ(ディスカッション)の成果

初日の成果は大きく2つある。1つ目は、地方都市の実情について一次情報を学べたことである。普段の私にとって、地方都市は物理的にも心理的にも距離があり、その持続可能性について考えることはなかった。しかし、実際に現地に赴き、持続可能性という課題に向き合う方のお話を伺うことで、理解を深めることが出来た。特に、地域で捕れる生態系の変化やお金にならない林業の話には衝撃を受けた。2つ目は、異なる立場の方の意見を学べたことである。研究者の方や企業の方など、普段交わらない方の意見を伺え、視点の違いや地方の人材に対する重要性などの共通認識を捉えることが出来た。今後、地方都市において、デジタルとサスティナブルをどのように実現していくのか、加えて今回議論で出たアイデアは実現されるのか、興味深く追っていきたい。また、初対面の人ともディスカッションをしていく難しさや、その中でファシリテートする方法についても学べ、勉強になった。

1日目のディスカッションでは持続的な街作りについてディスカッションし、我々南三陸チームでは「労働人口の流動性をいかに高めるか」が課題解決の鍵であると考えた。一次産業を主な産業としている地域では、一次産業従事者の減少・高齢化に伴う人手不足が課題となる。ただし単に人手を増やす・年間勤める数を増やすと人件費が増大し、ただでさえ収入が安定せず決して多いとは言えない農家にとってはリスクが大きい上、日本は全国的に少子高齢化・人口減少が進んでいるため1地域のみへの従事者増大は他地域従事者の過疎を進行させてしまう。➀繁忙期のみ雇用を増やし閑散期の人件費を抑えるというマネジメント②季節により関係する地域が変わり、一人が多くの地域産業へ従事する、という2点を抑えた労働人口の流動化がポイントと考えた。私たちのグループでは比較的時間があり社会経験を求める人の多い大学生を呼び込むようなものを考えたが、東京エレクトロン様は同じ観点でも教育の充実化、仙台会場様は就農支援による人口流入を考えており、地域の関係人口を増やすことが有効かつ取り組みやすいものと考えた点、またそのために街の魅力や制度を充実させ知ってもらう必要があると考えた点で合意したと思う。また都市部の人々が地方のことをいかにして知るのか、現在都市部でしか享受できない恩恵をいかに地方社会に届けるのか、地方社会と都市部の関係性を両者が持続可能なように変えていくことにデジタル技術を活用できるのではないかという点でも合意していたのではないかと思う。

南三陸チームとして、南三陸での実際の課題などを伺った上でメンバーと一緒に解決策・そして各々が興味のある分野について話すところから始まった。最初は水産業の課題に重点を置き話を進めた。特に印象的だったのは、鮭などの魚がどんどん食べられなくなる未来が来るという点だった。地球温暖化に伴い現在獲れる魚たちが北上し今の場所では獲れなくなり、代わりに新しい魚が来るも、その土地に住む人たちはその新しい魚を生かす調理法や対策などを知らないので十分に活かしきれないという課題を知った。一つの問題には複数の問題が絡み合っており、それを一つずつ解決していくことが必要だと感じた話だった。
また、後半では「人」に注目した議論を進めた。地方の少子高齢化・過疎化が進む現状を改善するには、移住者を増やしたり関係人口を作ることが必要であり、そのためにはまず人と人で繋がる必要があるという話をした。特に、地方に住む人たちとその地方に興味がある人をつなぐシステムなどをデジタルを活用してマッチングすることが必要という点から「AIマッチング」の案が出た。しかしAIを使うことへの危険性など、課題はいくつもあるため慎重に検討していくことが必要だと感じた。そして大学生などが地方にお手伝いにくることと引き換えに単位を与えるなど、新しい仕組みを大学と協力して始めることも一つの手だと思った。

サステナブル社会の基盤を形成しているのは人間と自然が関わる環境領域であり、最もその自然に近い産業である第一次産業である。そこで、2023 年度は、森と海という、とりわけ豊かな自然資源と密接に関わっている林業や水産業に焦点を当て、森と海との見えない縁/ネットワークを可視化し、その新たな縁/ネットワークを紡ぎ出す方法を皆さんで考えた。今回のワークショップでは、第一次産業の現場としての南三陸、世界のデジタル産業を支え続けてきた東京エレクトロン、そして仙台をオンラインでつなぎ、地域社会における水産業や水産加工業の持続可能性にデジタルやデータがいかに貢献しうるかについて議論検討した。具体的な討論テーマにつきましては、「地域社会における水産業・水産加工業の持続可能性にデジタルやデータはどんな貢献をなしうるか」というものであった。以下に南三陸グループの発表の内容をまとめた。
焦点を当てる問題(海洋資源の持続可能性、流通の最適化)
・現状:一次産業の人材不足・人材の奪い合い・少子高齢化・後継者不足
・目的:産業発展・地域経済発展・フードロス削減
・課題手法・解決提案:大学生と地域をAIがマッチング
→一次産業参加の機会を提供、合わないリスク減
→繁忙期に応じた人材募集により、農家の経済リスク減


さとうみファームのワカメ羊たち

(2)2日目のフィールドワーク(視察)の成果

2日目は、南三陸町の特徴である、「海・山・里」すべてを視察できた。さらに、震災をきっかけとした変化や地方が生き残る術について実際に触れることが出来た。特に「震災復興というフェーズは終わった。その後、どのようなフックで外部から企業や人を呼び込むか。」というお話が印象的であった。一次産業の現状は、収支が見合わず放置される林業、餌代の高騰や品質低下、魚種の変化に悩まされる漁業など暗い面も多い。そんな中、南三陸町は「持続可能性」に着目し、「未来に向けた認証」をとることで、町のブランド化を図っていると学んだ。また震災をきっかけに移住した方が起業し、南三陸の特産を増やしていくことで、持続可能な循環が生じていることも印象に残った。私は、南三陸町は観光で一度訪れたことがある。今回のフィールドワークでは、仲介役として太齋さんにもお世話になり、観光客としては訪れない施設を訪問出来た。そして南三陸町の見方が大きく変わり、身近になった。太齋さんがおっしゃっていた、「仲介役」のおもしろさを少し実感できたのも成果の一つである。

2日目のフィールドワークでは株式会社サスティナビリティセンターの太齊さんより、主に林業や漁業についてお話を伺った。まず林業についてである。南三陸町では約2割の人工林(杉林)がFSC認証を取得している。FSC認証とは生物多様性や地域社会、労働者の権利などに配慮し営まれている森林に与えられる国際認証である。このような干ばつなどの手入れされた林は認証項目のように生物多様性を保全するだけでなく、土壌保全・土砂災害防止機能や水源涵養機能を果たしている。しかし一方でその他多くの人工林は適切な干ばつが行われておらず、杉の密集により降雨や日光が林床へ殆ど到達しないため杉以外の植物は生えない。生物多様性が失われているだけでなく、土壌流出や大雨時の土砂災害・鉄砲水といった災害リスク、川の流水量低下及び海へ流れる養分の減少といった河川・海洋環境への影響といった問題が挙げられている。適切な干ばつが入れられない主な原因として、森林区画の所有者不明といった法的な問題や、南三陸杉の主要用途である建材の需要低下に伴う価格低下(杉一本あたり数千円)により伐採すればするほど赤字になるという経済的問題が挙げられ、人工林の運営を持続的なものにする大きな障害である。現在FSC認証を取得した森でもこのような経済的問題に加え認証に係る費用が課題となったが、地元企業5社が協同し認証プロジェクトを遂行することで費用負担・リスクを分散するという形で解決した。次に漁業についてである。漁業では志津川地区と戸倉地区の牡蠣養殖場を視察した。戸倉地区は震災後イカダの数を震災前の三分の一に削減した(イカダの間隔を40メートルに拡大。志津川地区の養殖場と比べても目視で分かるほど大きな間隔である。)ことで、3年かかっていた育成が1年に短縮、出荷出来ず廃棄となる牡蠣もほとんどなくなり収穫量が増加、品質も改善されたことで収入が増加した。さらに労働時間や経費も減少。生態系に配慮した漁業としてASC認証も取得した。現在では1度も出産させずに出荷するバージンオイスターの開発も進めているという。「大きな粒」ではなく「短い期間で採れ、海洋の生態系や環境にも配慮して生産された牡蠣」が市場で求められるようになり、同様の生産方法が普及するかが持続的な生産への鍵であるという。また南三陸町の漁業全体での課題は海洋環境の変遷であった。海水温の上昇によりシロザケが獲れなくなり、イクラの生産ができなくなった。代わりにイセエビやタチウオなどが獲れるようになったものの、地域住民の食文化が変わったことや調理の仕方が分からず観光資源にもしにくいなどといった影響が出ている。以上が太齊さんより伺ったお話である。この他に、南三陸ブルワリーにお伺いし南三陸産のブドウをしようしたワインやワインを一部海中熟成させているというお話、さとうみファームにお伺いし南三陸で獲れたワカメで網に付着した茎を発酵させ餌として与えることで独特の臭みを軽減してラム肉を生産しているという話をお聞きした。獲れる資源を余すことなく使用することで生産コストを抑えている点から、地域社会レベルで産業を持続的にしている工夫といえる。

現地視察としてスギ林・南三陸役場・牡蠣の養殖・ワイナリー・羊牧場などを見学した。
最初のスギの林では、木の密度を計算して間を開けて植えた区域と放置された区域を見て比べ、日照度合いに大きな差が出ることを学んだ。そしてそういった手入れには時間も労力もかかるのに対し、木の価格が十分でないため放置する人がどんどん増えているという現状も知った。また、牡蠣の養殖でも地域によって従来の方法を重視する所、そして新しい方法を取り入れて環境に配慮した所の両方があると知った。ワイナリーでは南三陸の海を眺めながらワインを楽しむ場所を作りたいという思いからスタートしたことを知った。そのためにクラウドファンディングなどの取り組みをしていたことを知り、地方で何か物事を始めるにはそれを応援してくれるファン作りが必要不可欠であるのかもしれないと感じた。羊牧場ではえさに従来なら捨てている部位のわかめを混ぜて、廃棄物の量を減らす取り組みをしていた。総じて、サステナビリティという点で各事業者が工夫して取り組んでいることを学ぶことができた。一方で、デジタルという面から見て、全てをデジタル化するのは非常に難しいことだと感じた。理由としては、中小規模の会社であると機械化よりも少人数で手作業で行った方が安い・そもそもデジタルに詳しい人材が不足しているということが挙げられる。これを踏まえて、今後も思索していきたいと思う。

視察をする上で特に意識したことにつきましては、サステナブル社会の基盤を形成しているのは人間と自然が関わる環境領域であり、最もその自然に近い産業である第一次産業であるため、第一次産業を理解することは、とても重要であるということです。
また、近年では、地球温暖化等の影響により、水産資源の持続可能性が問題になっております。また人口減少に伴い、とりわけ地域社会では、地域人材の減少に拍車がかかっております。このような状況に鑑みるとき、持続可能な地域社会を構築するためにも、第一次産業を中心とした地域産業の持続可能性をいかに確保できるのだろうかということを考えながら視察しました。その他に、南三陸は過去に東日本大震災の被害が大きかった地域ですが、震災後とは思えないくらい、綺麗な街並みであるという印象でした。


南三陸のFSC認証林のようす


カキ棚を使った海中貯蔵のようすを再現(南三陸ワイナリー)

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