第6回「地域企業のためのSDGs&DX経営実践のコツ」開催レポートーお直しコンシェルジュのDXへの挑戦
2023年3月20日、東北大学片平キャンパス知の館を会場にしてオンラインのハイブリッド形式で、東北大学知のフォーラム・社会実装プロジェクト産学連携セミナー第6回「地域企業のためのSDGs&DX経営実践のコツ」が開催された。
今回のセミナーでは、株式会社ビック・ママの代表取締役社長である守井嘉朗氏より、「お直しコンシェルジュのDXへの挑戦」というテーマでご講演いただいた。
株式会社ビック・ママ(仙台市若林区)は、前身の加工所に遡れば1963年創立の、洋服の裾上げ・リフォームなどのお直し事業を中心に営む会社である。現在は東北、神奈川、首都圏で約70店舗を展開している。
事業内容としては、お直し事業、保育事業、福祉事業、DX事業の主に4点である。
1. お直し事業
お客様が大切に着たい洋服や靴、バッグ等のお直しを、気軽に相談できるカウンター式の店舗で受け付け、店舗または工場で丁寧にお直しを行ってお返しする「お直しコンシェルジュ」というサービスを展開している。
2. 保育事業
創立後24年間お直しだけの事業であったが、女性従業員の離職を防ぐために保育事業を開始した。まずは従業員のお子さんを預かる託児所から始まり、現在では7つの保育園を運営している。
3. 福祉事業
発達障害もつお子さんの手助けになる事業を考え、放課後デイサービス「スーパーキッズ」を開始した。その後、障害をもつ人たちの就労支援の事業も開始。
4. DX事業
お直し事業に始まりそれぞれの事業の問題を解決し、より効率化するために開始された。離職防止アプリ「マインドウェザー」、うつぶせ寝防止「べびさぽ」、洋服のお直しPOS「ナオスネ」などがある。
それぞれのシステムの概要は以下の通り。
1. お直し事業における受付システム「ナオスネ」
「ナオスネ」は項目を選択していくだけで見積もりを作成できるシステムである。店舗にあるタブレットでアイテムを選択、直しの箇所を選択、最後にメニューを選択するだけで簡単に見積もりを完了させることが出来る。また、伝票をシステム化することで、クレームが起こりやすい箇所に注意説明の事項が表示されるほか、その内容も随時アップデートされるなど、業務効率改善に貢献している。株式会社ビック・ママでは毎年100人ほどの従業員を採用するため、誰でもスムーズにサービス対応できるように開発された。
2. お客様と技術者を結ぶシステム「ヤルキノタネ」
「ヤルキノタネ」はお客様の声をレビュー形式で技術者に届けるシステムである。お直しした服をお客様に返却したのち、お客様が感想や評価を伝票のQRコードを読み込んでレビュー形式で投稿し、そのレビューを技術者が直接確認できる。このシステムはお客様との交流がない技術者のモチベーション維持に貢献しており、技術者の原動力となっている。
3. 赤ちゃんの睡眠を監視するシステム「べびさぽ」
「べびさぽ」は保育事業におけるうつ伏せ寝志望を防止するシステムである。0歳児の睡眠を常時カメラで監視し、5分間赤ちゃんが動かないと波動センサーにより園内のライトが光るため、保育士が赤ちゃんの異常に気付くことができる。さらに、保育士の動きも認識するため、見回り忘れ防止、異常事態の証拠映像として利用することも出来る。このシステムは赤ちゃんの安全保障はもちろん人手不足が深刻な保育士の負担軽減にも貢献している。
4. スタッフの心の状態を図るシステム「マインドウェザー」
「マインドウェザー」は社員の心を見える化することで、社員の精神安定を図り、離職を防止するシステムである。一週間に一度その週の心の状態を「はれ」や「あめ」などの天気図で表し社員の不安をリアルタイムで察知し、いち早く環境や上司の改善を推進することができる。さらに匿名のコメント機能もあり、日々の不安を気軽に打ち明けることも可能で、離職率の低下やパワハラ・セクハラの防止・改善に貢献している。現在7000アカウントほど開設しており、収益化にも成功している。実際に、ある企業においてシステム導入により離職率50%削減を達成したという事例もある。
上記のようなシステムを開発する中で、注意している点があると守井氏は語る。DX化の設計ポイントとして、1)平準化・標準化・再現性の重視がある。具体的には、他社への販売を前提に開発費を見積もった上で設計を行い、柔軟性を持たせる。次に2)システムは既存業務の60%程度の効率の向上を見込めれば実行する。また3)業務の変更に合わせて柔軟に変化できるように作り込み過ぎないように注意する。4)実際にDX化する前には投資金額と得られる利益の事前検証を行う。そして、5)定期的なシステムの見直しにより、効果が本当にあるのかを確認する。このような点に注意したうえでDX化することで全体最適を追求することを大切にしているそうだ。
守井氏は、さらに新たに二つのシステムを考案中だそうだ。一点目に、採用活動の簡略化システムである。面接予約から雇用契約を一元化することで、人事の負担を減らす試みである。二点目に、大学の退学を防止するためのシステムである。具体的には、マインドウェザーをベースに学校用の相談アプリを開発することで、より学生が相談しやすい環境の構築が目的である。アプリ内に学生アルバイトの求人広告を載せるなどして、派遣会社から資金を調達し大学側は無償で利用できるようにするなどWIN-WIN-WINの関係を築くことが守井氏の理想だ。
時代の変化に柔軟に対応し、ニーズに寄り添ったシステムを絶えず考案し続ける守井氏は、時代の変化を俯瞰して見られるように、若い世代のIT企業の社長らと沢山話し連携先を広げられるよう、心がけているという。守井氏の先を見据え、行動を起こす源泉はここにあるのだろう。
(文;東北大学経済学部生 青木佑斗、大学院経済学研究科准教授 高浦康有)
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