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オミクロンの冬

 西暦二〇二二年は令和四年である。コロナウイルスの新しい株が日本列島にもついに上陸し、年明けから徐々に浸透していった。感染者数は再び増加しはじめた。
 その新株の呼称は、従来通りギリシア文字より取られ、「オミクロン」と名付けられた。聞きなれない呼称だった。その語感が自分の中二病心を刺激した。
 自分が知っているギリシア文字は、限られていた。アルファ、ベータ、ガンマ、デルタ、パイ、オメガ、ゼータ、ニュー、シグマ……。正直に言えば、その知識のほとんどは、人文科学や数学などのアカデミズム経由ではなく、ロボットアニメとテレビゲームに由来するものであった。
 オミクロン株は、重症化率が低い一方で、感染力が非常に高いという特徴を持っていた。後になって振り返れば、この冬のオミクロンの波は、昨夏のデルタ株に匹敵する犠牲者を出すことになるのだが、そのことを気にするものは、少なかった。コロナウイルスの登場から二年が経過し、人々はこの感染症に慣れ、更に言えば飽きつつあった。「デルタ株の夏」に対比されるべき「オミクロンの冬」は、どこか散漫で焦点の定まらないものとなった。

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 関東平野は今日も晴れている。中央線のホーム延長工事は、滞ることなく進行している。

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 コロナ以降、人と鳥との距離が、何だか近くなった気がする。ムクドリも群れを成して糞害を撒きちらかさなければ、可愛いものだ。そんなことを思いながら、国立駅西の高架下でムクドリの写真を撮影した。


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