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【Q6.北海道の日本海岸を巡る】2.オロロンラインとトリス小瓶(都市間バスわっかない号完全乗車)

 稚内駅隣接のバス営業所にて、情報を収集する。札幌までの都市間バス「わっかない号」は、どのルートを辿るのか? 係員に確認すると、途中の羽幌にて休憩した後、日本海側に出て留萌市まで走り、留萌からは高速道路に乗り、札幌に至るとのことだ。
 道北の日本海沿岸ルート「オロロンライン」は、自分が最も望んでいたルートだ! このバスに乗ろう! 日中の便としては、一三時台の便と一六時台の便がある。どちらにするか迷う。最も美しい車窓、日本海に沈む夕日が見られるのは一六時台出発の便のように思われるが、日本海沿岸に出るまでの時間がわからない。暗くなってしまっては、何も車窓を楽しめない。北海道の日没時間について、自分は詳らかでない。考えた末、一三時台の便に決める。全席指定。進行方向右の窓際席を確保出来る。


 バスターミナル脇のセイコーマートで、道中の酒と肴を準備する。店内は盛況だ。大いに賑わっている。
 わっかない号が停留所にやって来る。濃紺の車体は、何だか西武グループの大型観光バスを思い出させる。軽食、バッテリー、スリッパなどのバス車内で必要なものを手提げ袋に入れ、他の荷物はトランクルームに預ける。


 車内は三列シート、広々としてこの上なく快適だ。簡易な可動式の枕がマジックテープで止められている。フットレストもあるので、スリッパに履き替える。


 定刻通り、13時05分に出発。稚内の市街地をしばらく走り、途中のバスターミナルにて、反対方向へ進む大型バスとすれ違う。札幌方面からやってきて、稚内を目指す便だ。向こうのバスの運転手が、トランクルームから客の荷物を下ろしているのが見える。

 道北の原野を走り続ける。車窓には北海道の大地。遠くの丘陵地帯に整列する風力発電機達。

 15時15分頃、最初の休憩地点である道の駅はぼろに到着。温泉付きの宿泊施設が併設されている。停車時間はそこまで長くないので、とりあえずスタンプを押し、土産物に練り物を買う。トイレはバス車内にもある。そこまで緊急性が高いわけではない。

 置き去りにされるのが何よりも最悪な事態だ。余裕をもってバス車内に戻ったが、出発時間が少し遅れると運転手よりアナウンスがある。何でも、エンジンの燃焼完了までに、もう少し時間がかかるとのことだ。聞いたことのないシステムの名前を出して説明してくれたが、自分には知識がないので、良く分からない。


 日本海沿岸に出る。オロロンラインの本番だ。八月の晴れた日本海の上に、マンガの集中線のような速度感を持った雲が高く遠く広がる。道北の空は八月上旬の時点で、既に秋空のような高さがある。
 雲達は、水平線の彼方から陸に向かって飛来しているようにも見え、また逆に、水平線を目指して去っていくようにも見える。彼らが何処にて発生し、何処にて消散するのか、本当の所は僕には分からない。

 
 窓辺にウイスキーの小瓶とツマミを並べて、記念撮影だ。この、オロロンラインの絶景は、バイク乗りや自転車乗り、ドライバーの間では、良く知られている所だろう。鉄道ルート、宗谷本線では残念ながら見られない風景であり、自動車道側にとっては明確な競争上の優位点となっている。

 バイク乗りやドライバーは、自分の好きな時間を選んで走り、また休むことが許されている。つまり、夕日の時間帯を選ぶことも可能だ。その点は羨ましい。しかし彼らは、当然ながら酒を吞みながらこの海岸線を運転することは出来ない。バス旅にのみ許された、特権的な楽しみがここにある。実に良い気分だ。 
 ただ、欲を言うならば、この時、この空間で呑むウイスキーは、サントリートリスではなく、北海道らしくニッカのウイスキーであって欲しかった。乗車前に寄ったセイコーマートでは、ブラックニッカの小瓶が既に売り切れだったのだ。その点だけが、残念だ。大瓶は売っていたが、旅のお供に持ち歩くには流石に重すぎるため見送った。画龍点睛を欠く。 
 
 日本海沿岸の自治体を、駆け抜ける。途中、小平町の道の駅と、隣接する鰊番屋の前を通過する。鰊番屋は、文化財に指定されている。この建物を見たいと思って、今年の二月に、留萌側から発着する「沿岸バス」に乗って、猛吹雪の中をここまでやってきたが、冬季休業中であった。いつか来てみたい。 
 海岸線が描く緩やかなカーブが心地よい。この辺りが、オロロンラインでも最も美しい場所だろう。

 
 羽幌の土産物屋でさっき買った練り物も、ツマミとして食べてしまった。
 


 やがてバスは留萌市に至る。左折し、日本海を望む海岸線と別れる。川沿いをしばらく走る。車窓に見える道の駅も、二月に来た場所だ。その時は、全面雪に覆われていた。 
 留萌自動車道に入る。高速道路からの車窓は、本州を走る新幹線からの車窓と、どことなく似ている気がする。北海道もここまで南に来ると、普通に水田が見られる。この留萌自動車道の完成によって、留萌市の交通は完全に自動車中心となった結果、留萌本線廃止の遠因となったとも言われている。

 17時39分頃、二回目の休憩地点、砂川ハイウェイオアシスに着く。広い。バスが駐車している地点を見失わないように注意しつつ歩く。スタンプにはハンググライダーが描かれている。広大な土地を利用して、様々なエアスポーツの催し物が行われているようだ。

 バスは道央自動車道を疾駆する。次第に暗くなる。高速を降り、遂に札幌市内に入る。途中、苗穂駅前にて、降車客を扱う。 
 すすきのバスターミナルを経て、終点は札幌駅南口。19時01分着。長旅ではあったが、とにかく座席も車窓も素晴らしく、全く苦にならなかった。

 今日の宿は快活クラブだ。この旅で二回目、三日ぶりである。駅に最も近い店で、無事ブースを確保できた。 
 札幌駅エキナカの食品売り場を偵察する。丁度閉店間際の半額シールタイムとなっているので、旨そうな海鮮弁当を選ぶ。

 良い気分であるが、隣のブースのイビキがうるさくて、よく眠れない一晩を過ごす。 
 ネットニュースを眺める。二〇二三年八月一〇日未明の時点で、網走方面へ向かう石北本線は未だ復旧していない。


2013年8月9日・わっかない号・稚内駅前13:05発の行程表

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