モルドバの朝、酒とともに
短編です。
モルドバはあまり有名ではないと思うが、ネラー(2ゃんねらー)ならば2004年頃にネットで流行った「恋のマイアヒ」は知っているだろう。これは東欧の小国・モルドバに到着した朝のキオスクの話だ。
朝3時。僕を乗せた夜行バスはルーマニアからモルドバへ入る。11月の東欧は日中最高気温が一桁程度であり、ましてや深夜の気温は0度付近で推移する。寒い。
国境付近のガソリンスタンドでトイレと買い物休憩。まだ到着まで時間があるし眠いからビールでも、と思いスタンド横のコンビニでビールをレジに持っていくが、販売拒否を受ける。なぜならばアルコール類の販売は夜間に限られるとのこと。
深夜のビール販売拒否はアジアでは馴染みがあるが、ここはヨーロッパ、ましてやモルドバは旧ソ圏。お酒が零時を過ぎたら買えないまともな国なんてこのエリアにあるのだ(しばらく中央アジアや東欧を回ってきたが、お酒の販売拒否は初めての経験だったのだ)と感心しながら仕方なくコーラを買った。
後から知るのだが、時間制の酒類販売制限は、POSシステムを用いる店のみの制限であって、POSシステムを用いないキオスクでは、常にドラフトビールが完備してあり、余裕で買うことができた。 その後、モルドバがどんな国よりもビール好きである国民性を見抜くまでにそうは時間が掛からなかった。
朝6時。バス停。気温1度。バス停横のキオスクへ入ると、男衆はみんなビールを飲んでいる。レジ横に四種のビールが置いてあり、値段は1ドル以下。男衆を観察すると、彼らはウォッカとビールを注文する。そしてまずはウォッカをレジ横でクイっと飲み干す。次に席を見つけてビールを飲み始める。
西欧の街中を歩いていても、ドイツ以外で街中でビールを飲む集団は見ない。日本の渋谷のような路上飲酒なんてもってのほかで、みすぼらしい人と見做されるその飲み様は、ドイツでもミュンヘン以外では見たことがない。(たまにパリでも見るくらいだ)
もちろんクリスマスマーケットやオクトーバーフェストの公園は別物だ。日常的に、街中で飲んでる人を見るのはミュンヘンと渋谷以外では無かったという話だ。
しかしモルドバのキシナウは違う。朝早く起きてキオスクで飲んでいる人が、かれこれ10人以上ここにいる。一人飲みの数も多く、半分くらいが一人でビールを飲みぼんやりしている。これはかなり驚異的なことだ。ドイツでもカップル文化があり、それにあぶれた人が路上で一人飲みをしているが、こっちはせっせと早起きして一人飲みをしている人が多い。
僕も負けじと何杯かビールを嗜み、朝からいい気分だ。さすがにウォッカまで決めてしまうと今日の行動に支障が出てしまう。これを味わえただけでもモルドバへ来た甲斐はあった。
旧ソ連はロシアと距離を置いているモルドバでこんなにもウォッカが求められ、旧ソ連との決別の反動がビールを飲む文化に表出するなんて。最高であった。
それでは。
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