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One Four Kengo〜永遠のヒーローに感謝の想いを込めて〜


また1人、レジェンドがスパイクを脱ぐ決断をした。

それも、僕にとってたった1人の、大切な、大切なレジェンドが。






僕は彼が在籍する前のフロンターレを知らない。



僕が「猫背のヒーロー」を知ったのは小学生の時。

彼の足から繰り出される魔法は、当時夢中でボールを蹴っていた僕をいとも簡単に虜にさせた。


当時の僕の宝物は、同学年の友だちが大切にしていた「ゲーム機」や「カードゲーム」などではなく「ヒーローのサイン入りユニフォーム」であった。


川崎からは程遠い地に住んでいたため僕は等々力で観戦をしたことは一度も無かったが、毎晩サイン入りユニフォームに「おやすみなさい」と言ってから寝るのが日課になっていた。



中学、高校とどんどんサッカーにのめり込んでいった僕は、この6年間は自分自身のサッカーに集中していたように感じる。

でも、彼のことはしっかり追い続けていた。

ここぞという時の大切な試合は彼と同じ黒のモレリア。

残念ながら彼のようなボールが蹴れるほど僕はサッカーが上手くないのだが、勝手に彼の力を借りるような思いで同じスパイクを履いていた。




彼に魅了されボールを蹴り続けていた僕は気付けば20歳を超え、足元のモレリアはREGALの革靴へと変わっていた。



時間の進み方は、皆同じである。



僕が歳を重ねた分だけ、他の人も歳を重ねる。



当たり前のことである。



でも、それをどこかで僕は忘れていたのかもしれない。



いや、わざと"忘れていた"のかもしれない。



突然の引退会見


15時から突如始まった会見に姿を現したスーツ姿のヒーローは、画面の向こう側で淡々と喋り出した。




「私中村憲剛は、今シーズン限りで川崎フロンターレを引退します。」





頭の中が真っ白になった。


昨日劇的決勝ゴールを奪った40歳のヒーローはその翌日、見慣れないスーツ姿でそう話していた。


その後、会見は30分以上続くのだが放心状態の僕には何も入ってこなかった。


その瞬間は何も分からず、理解できず、ただ放心状態で過ごしていた。






少し時間を置いて、やっと頭の中が整理出来始めた。

サッカーに限らず、アスリートが引退を決める多くの理由は怪我や老いである。

イメージしている、頭の中の自分自身と現実との乖離が進む中で引退を決意するという話はよく聞く。

それは仕方のないことであり、どんな名プレーヤーも最後は引退を選択する。


しかし、昨日キレッキレのプレーを披露し決勝ゴールを奪ったヒーローにその言葉を告げられても、正直ピンと来なかった。



彼の憎いところは、ここである。


彼は「史上最高」に限りなく近い状態のまま引退をしようとしている。


僕は、幼い頃からのヒーローがそのままの状態で引退をしていく姿をここから見ることになる。


キレッキレのパス、トラップ、シュート。


彼が昨日魅せたプレーの質は、僕が幼い頃テレビにしがみついて見ていたそれと何ら変わらなかった。いや、確実にその時よりレベルアップしていた。


僕のヒーローはトップレベルのままスパイクを脱ぐ。


苦しんでいる姿、通用しなくなっていく姿を僕に一切見せることなく、史上最高のまま表舞台から去ろうとしている。





かっこよすぎる。そんなのずるすぎる。






何度も僕に勇気を、希望を与えてくれたヒーローは、10年以上経った今でも僕に勇気と希望を与えてくれた。


大怪我からの復帰


しかし、そんな「完璧」なヒーローも、この約半年間は大怪我と闘っていた。

39歳で前十字靭帯損傷という大怪我。

普通であれば、その時点で「引退」の2文字がよぎっても不思議ではない。

寧ろそれが自然な流れであり、そんな光景を我々は世界中のありとあらゆるところで見てきた。


だが、彼は諦めなかった。


「39歳で前十字損傷から復帰するという前例を作る」

「もう一度等々力のピッチに立つ」

その言葉の通り、我々が思っている以上にキツかったであろうリハビリを乗り越え、2020年8月29日、遂に等々力のピッチに彼は帰ってきた。




もう一度ピッチに立ってくれただけでもう胸がいっぱいだった。


大怪我を乗り越えて等々力に帰ってきてくれた。


それだけでもう幸せだった。


しかし彼は、それだけでは終わらない男であった。


大怪我をした左足から放たれたシュートは放物線を描いてゴールネットに突き刺さる。



このゴールの後のインタビューで彼は「等々力って最高だな」と発言をしていた。

この「最高な等々力」を長い年月を作り上げたのは彼自身で、彼によってこの等々力は作られたのではなかろうか。

現に、僕も彼が居なかったら恐らくフロンターレに興味を持つこともなく、こんなに毎週通うこともなかったであろう。



今日の等々力を作り上げたのは彼自身である。

彼がよく口にする「等々力には神様がいる」という言葉も、この神様を長い年月をかけて連れてきたのは何を隠そう彼であると僕は思っている。


有言実行。大怪我を乗り越えて彼は等々力に舞い戻ってきた。



だが、今日の引退会見を聞いていて僕はまたしてもヒーローに驚かされた。



彼は5年前から「40歳で引退」ということを決めていたという。


それは即ち半年以上もの間、キツく、辛いリハビリを彼はこの僅かな2020年シーズンのためだけに行っていたということを意味する。


今後もサッカー人生が続いていくのであれば、復帰に向けたモチベーションを保つのは容易では無くとも「まだプロとして戦うんだ」という事実が乗り越える材料にはなる。


しかし、2020年シーズンでの引退を決めていた彼は復帰後残された数十試合のためだけにリハビリを行っていた。


普通、心が折れるだろう。諦めがつくだろう。


しかし彼は僕らにはそんな表情は一切見せることなく、完璧な状態でピッチの上に戻ってきた。



彼はいつも、僕が考える一歩、二歩先に居る気がする。

だからこそ僕のヒーローなのである。


永遠のヒーローは、またしても僕の心を動かした。


やっぱり彼は、いつも僕を魅了する。



永遠のヒーロー、中村憲剛へ


僕は、今日まで彼を夢中で追いかけてきた。


永遠のヒーロー、中村憲剛を夢中で追いかけてきた。


今日、画面の向こう側でスーツを身に纏ったヒーローは、自らの言葉でその時に終わりが来ることを明言した。

あまり時間が残されていないことを、僕は急に知らされた。



涙が止まらなかった。


それが尊敬すべきヒーローが決めたことであっても、あまりにも唐突に突き付けられてしまったので受け入れることが出来なかった。


泣いた。


子どもみたいに声を出して泣いた。



こんなに泣いたのはいつぶりだろうか。



僕に何かが出来るわけじゃないのに。



画面に映るヒーローの晴れやかな表情が、僕をよりそうさせた。



待ってくれ。憲剛。本当に来年いないの?


まだやれるよ。まだ戦えるよ。みんながそう思っているよ。


嫌だ。嫌だ。憲剛のいないフロンターレなんて嫌だ。考えられない。嫌だ。


何度も何度も画面の向こう側にそう問いかけた。


何度も…


何度も…








僕の永遠のヒーロー、中村憲剛へ。


僕が貴方を知ってから、もう何十年もの時が経った。

僕は当時小学生。貴方は今と変わらず川崎フロンターレの一員だった。当時、日本代表に選ばれ始めた頃だっただろうか。

僕が中学、高校、大学、そして社会人となっても貴方は変わらずフロンターレの一員であり続けた。

僕はまだ20年ちょっとしか生きていないが「何かを変えないこと」の難しさはよく知っているつもりだ。

嫌なことがあると逃げ出したり、違う道に進んだりしたくなってしまう。人間はそういう生き物だ。

でも、そんな時僕は必ず一度思い留まるようにしている。

何故か。僕のヒーローがそうだからである。

貴方はいつもどんな時でも蒼黒のユニフォームを見に纏い、僕をずっと魅了してくれた。

貴方はずっと、僕に勇気を与えてくれた。

貴方はずっと、僕に希望を与えてくれた。



貴方はずっと、僕のヒーローであった。



何かを続けることの素晴らしさ、何かに挑み続けることの美しさを貴方は僕に教えてくれた。


だから僕は貴方に最大限の感謝と尊敬の念を込め、こう言わせてほしい。


僕がここまで生きてこられたのは、貴方に勇気を貰い続けていたからである。


貴方に出会えたことで僕の人生は何色もの眩い光を放ち、鮮やかに彩られたものになった。


そしてこれからも、僕のヒーローは中村憲剛である。





ありがとうはまだ言わない。1月1日、国立競技場で。ありったけの愛を込めてこの言葉を送らせてほしい。


まだ、貴方のいないフロンターレは想像が出来ない。


だから、残り2ヶ月を大切に過ごしていきたい。


僕のヒーローとしてのラストダンスを、この目に焼き付けたい。




中村憲剛は、10年後も凄い選手なんだ。今も僕を魅了してくれているんだ。今も僕の心を突き動かしてくれんだ。


もし、幼少期の僕に出会うことが出来たら、何よりも真っ先に今の僕はそう伝えるであろう。



まだ終わらない。僕のヒーローは、中村憲剛はもう一度舞う。


そう信じて残り2ヶ月、陰ながら応援をさせて頂きたい。



これからも、共に。



貴方のプレー、人間性、その全てに惚れ込んで人生が変わった1人のファンより。




GO!KENGO!!













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