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虫は好きですか? ~嬉しい再会、恋しいひととき~

※    昆虫が苦手な人は気を付けてお読みください。

#20230609-131

2023年6月9日(金)
 雨も昼過ぎにはあがり、隣の公園へ移動図書館がやってきた。
 返却する本を抱えて家を出る。インターネットで予約していた本を受け取り、ワゴン車を改造した書棚に目をやる。
 それから、ひと足先に公園へ飛び出し、本の返却と貸出を済ませたノコ(娘小4)を探す。学校の友だちと遊ぶ約束をしたといっていた。だが、ノコが遊んでいる相手はかわいらしい幼稚園の制服を着た男の子。2人で何かを拾いながら駆けている。その後ろをお母さんがついてまわっている。
 ノコは小さい子の相手を好むが、時折その子の気持ちをくみとれず、ノコの「よかれ」を押し付けてしまうことがある。たとえば、抱っこ。嫌がっているのに、「小さい子は抱っこが好き」と思い込み、無理矢理抱っこしようとして泣かせてしまう。

 私はお母さんに会釈えしゃくをして近付いた。
 「ご迷惑、かけていませんか?」
 ノコを目で示して、そういい終わるか終わらないかのうちに、お母さんが満面の笑顔でいった。
 「覚えていますか? 前にオオスカシバのことを教えてもらって!

 その一言で、ぱあっと当時のことがよみがえった。
 かれこれ9年くらい前だろうか。まだ私たち夫婦が里親登録する前のことだ。
 この公園に来ていた虫好きの男の子とそのお母さんにオオスカシバという蛾の話をした。私は昆虫が好きで、むーくん(夫)と結婚してから昆虫を飼いはじめた。実家にいたときは、母が虫嫌いだったためできなかったのだ。
 特に好きな昆虫は、や蛾の一種のスズメガで飼育のしやすさから当時はスズメガ――なかでもオオスカシバを好んで飼育していた。
 その男の子にオオスカシバの生態や飼育のコツなどを話した。
 さすが虫好き、幼いながらも上気した顔で私の話を熱心に聞いてくれた。
 住まいが近所らしく、その後も何度か男の子を見掛けた。彼は私を「昆虫博士さん」と呼び――世の中にはもっと詳しい人たちがたくさんいるので、そう呼ばれるとこそばゆかったが――リアルの世界で数少ないささやかな虫仲間だった。

 そのうち公園で姿を見なくなった。今はもう中学生だという。
 お母さんがいうには、移動図書館で私を見ることがあったが、自信がなくて声を掛けられなかったという。「もしかして虫博士さんですか?」といって、違った場合――女性で虫好きはどうしても少ないため「虫」という言葉が重く、空気が悪くなってしまう。
 ノコとは何度か遊んだことがあり、今日はノコに「お母さん、オオスカシバ好き?」と尋いてみたという。「うん、好き!」という返事に確証が持てたとのこと。

 そこから、お互い昆虫話で盛り上がった。

 公園のケヤキの下に蛾糞が落ちているのを見付け、高い梢を仰いでは「(幼虫が)いるね!」「いますね!」と目を輝かせたり。
 ノコは興奮して喋りまくる2人の大人に呆れ、「私、お家で図書館の本読んでる」と帰ってしまった。
 「今も何か飼っていますか?」
 そう問われ、私は首を横に振る。今年は虫活を再開しようと思っているが、なかなか巡り合えないと返した。
 大きくでっぷりと太ったオオスカシバの幼虫を見付けたが、持ち帰ったらすぐに土の下に潜って蛹になってしまうサイズで成長する姿を観察できない。

 …そうだった!
 思わず口許くちもとがほころぶ。
 私は静かな居間で幼虫が葉をむかすかな音に耳を傾けながら、ソファーでお昼寝するひとときが大好きだった。
 その時間が鮮やかによみがえり、恋しくなる。
 あぁ、幼虫と暮らしたい。

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