リベンジ・オブ・ガツ・アンド・ゴア ~異世界転生したら、村を焼き払われたバーバリアンの鬼畜な毒々復讐譚に参加する羽目になった件~第0話

genocide‐0 私は普通の大人の日本人だった

ここは、大ザラガス帝国陸軍の士官学校から、湖を挟んだところにある森。
死体は、13歳ばかりの少年。裸に剥かれて、身長2mを超すスキンヘッドの大男が、軽々と片手で、両足首をつかみ、振り回していて、幾度となく木々に叩きつけられ、血達磨になっていた。親にも見分けがつかないだろう。

「うひゃひゃひゃ!肌の白いガキが威勢が良いのはいつも最初だけだな!」

大男の褐色の肌には顔の隅々から始まって、黒い入れ墨模様が全身に描かれ、股間には太い鎖をふんどしの如く括り付け、トラだかハイエナだかわからない縞と斑模様の野生動物の
毛皮のチョッキを羽織った上に、腰に動物の胃袋か何かで作られた道具袋を入れた異常な風貌。

大男の握る、少年の脚からとショッピングモールの水槽模型の床に使われるような、分厚いガラスの砕けた音がした。

私は、ショッピングモールに行ったことがある。私は、普通の大人の日本人だった。偉大な近代国家日本の、素晴らしい技術を持つ建築会社に勤める愛国的なサラリーマンだった。
家を、車を、男らしくローンで買い、婚約者もいた。
ある日……
といっても、その日の記憶はなく、
闇の中、
痛覚の覚醒と沈静、心身の衰弱と硬直を繰り返す中、
一括りで言うに、苦痛ちた時間が終わると、この大男と共に独房に閉じ込められていた。
少年が、大男に殺された今日、この日から3か月前の話だ。

***

曖昧な意識。自分が何者なのかもわからない。
ただわかるのは、自分は取るに足らないちっぽけな存在だという事だけだ。
目の前の、明らかに暴力的な、とても大きな男を前にして、そう思う事にした。おとなしくするしかない。

身長2mはあろう、スキンヘッドの男が、天井まで伸びた柵に手をかけて、何やら西洋の甲冑を着た男たち3人に罵声を浴びせていた。
大男は、身ぐるみをはがされており、特に肌の黒い黒人かと思ったが、頭の先から、恐らく足の爪先までに細かい文字だか呪文だかの、入れ墨が入っており、墨と墨の隙間から褐色
の肌が見て取れた、褐色肌と、黒い入れ墨の面積は1:1ほどだろう。
股の間からは、20cmを超す巨根がぶら下がっており、背後からでもそれが立派な男性器だと分かった。

石を積み上げ苔の生える壁で作られた、私と大男のいる部屋には外からの採光はなく、先の鉄格子越しから、わずかばかりの蝋燭の光しか入ってこない。
牢屋とみて間違いないだろう。

甲冑をきた、おそらく看守達3名への大男の恫喝は続く。

「こんな肌の白い奴用の華奢な檻で、俺を閉じ込めておけると本気で思っているのか?」
「いや、そうは思っていない。この牢獄ごと、吹き飛ばす手はずになっている。俺達も、お前も、そこのコソ泥も、ここで終わりだ。」

なんという事だ、何のために生まれて、何をして喜ぶ、わからないまま終わる。記憶もなにもない茫然自失として頭で、懐かしいメロディーと共に悲しい詩を反芻した。

「吹き飛ばすのは、妖術でか?火薬でか?」
「貴様の身体に刻まれた、悍ましい模様が、魔法を弾く事は知っている。最新型の爆弾だよ」
「それは良いことを聞いた、お前ら、家族はこのへんに住んでいるのか?」
「火薬を奪って、村を焼き払うつもりだろ?その手の話は、お前が手足を引っこ抜いて、ワザと生かしておいた奴から腐るほど聞いたよ。今回は、お前を殺すためだけの量しか用意していない。諦める事だ」
「うひゃ!うひゃひゃ! お前、気に入ったぞ。生きたままそのはらわたを食らい尽くしてやろう。我が血肉となるのだ。とっとと喜べ!!」
「なぜ、これまでに……50の村や町を焼き払い、3000人もの人間を殺してきたんだ」
「うひゃひゃひゃひゃ!滑稽だからだ」
「滑稽だと?」
「そうだ!お前ら肌の白い奴は弱い!脆い!群がってして生きていけない!痛めつけてやると、群れでギャーギャー泣きわめく!恨み言をなぁ、お前たちは、偉大なる我が一族にとって取るに足らない滑稽な生き物でしかないんだよぉ!」
「滑稽なのは貴様の方だ!南方の蛮族の、死にぞこないの分際が、村を焼かれた腹いせに俺たちの村や町を焼いてきたんだろうがよぉ!」
「うひゃひゃひゃ!肌の白いのが、ほざきおるほざきおる!我がウンゲロ族は、世界に名だたる最高民族!生殺与奪が理の最上座!有象無象は嗤って焼き捨てる!うひゃ、うひゃ、うひゃひゃひゃひゃ!」

聞いて唖然とするような、品の無い会話だ。妖術だの魔法だの、火薬だの爆弾だの、つい疑問に思わず、聞き流してしまった。
全裸の巨漢は、どうにもマイノリティー民族の殺人鬼のようで、こともあろうに全ての罪を認めている。
この後も、この世のものとは思えない罵りあいがつらつらと続いた。

巨漢はウンゲロ族のゲ・ボ・ル。名前の意味は「豚が輪姦で淫売」という無茶苦茶なものだが、輪姦という言葉が特に勇ましいらしい。
ゲが輪姦でボが淫売でルが豚との事だが、低俗を極めた文章がコンパクトなイントネーションに収まっている以上、ウンゲロ族は相当の蛮族と思われる。
看守たちは、ウンゲロ族を、女を攫っては子供を産ませて殺す、部族間で抗争しては女を奪って子供を産ませて殺す、旅人が男なら殺す、女なら犯して子供を産ませて殺す。と、まあ話に尾鰭が付いていたにせよかなりの蛮族のようだ。
ゲ氏曰く、「嫁を殺したとは、聞き捨てならない。言う事を聞かない嫁を村の男たちで子供のお祝いに喰っただけだ」と、どうにも本当に滅ぼされて然るべき蛮族だったようだ。

衛兵たちの言う最新型の爆薬とは、私の知るダイナマイトの特性と符合した。こんな石造りの牢獄など粉みじんは当然だ。

「一応、聞いておいてやるが、お前ら、俺の鎖と腰袋、どこにやった?」

看守の一人が、牢屋から見て奥、対面する彼らから見て後ろ側を指刺す。そこには、これ見よがしに、駐車場に使われているようなありきたりサイズの、黒い鎖が、天井に吊り下げられていた。

「まさか、ただの鎖だったとはな、腰に巻きつけていた袋は魔法の道具だったので、領主さまが預かっているよ」
「そうか、じゃあ取り敢えず、ここの後は砦か大きな屋敷を襲うとするか」

それは一瞬の出来事で、ゲ氏の握る鉄格子から、銅色の光る粒子が100ほどは飛び交った。その粒子は、鉄格子の向こう側の室内の凡ゆる金属、看守の鎧や、閂の金具、天井の燭台にまで、数と速度を減らしながらであるが、飛び散っていった。
それは、ゲ氏のものとされる鎖にも、及んだ。

ゲ氏は、それを確認すると、野太い声で絶叫する。
凄まじい肺活量だ。看守3人ともの兜が、やや揺れて見えた。
その直後、掲げられていた、鎖が一人でに動き出し、3人の看守に大蛇のように巻き付きにとびかかったのだ。
突然の出来事に看守3人は、身構える間も無く、鎖に絡みとられてしまうと、力が抜けたかのように、その場にへたり込んでしまった。

「この程度の妖術、俺でも使えるわ。金属を触媒にすればの話だがな」

ゲ氏は魔法が使えるようだ、しかしながら、あまり得意ではないようだ。
3人の看守は口々に「重い」と苦痛を訴えた。鎖が徐々に重たくなっているというのだ。
ゲ氏曰く、鎖は地獄の悪魔から取り寄せた物で、ゲ氏の意のままの質量を生み出せるという。ゲ氏の知り得る限りではあるが、この巨体なら相当な量の重さを体に覚えされる事が可能なのは容易に想像できた。それができたのは、悪魔の命を助けたからで、特に契約などを交わしてはいないという。

「畜生!ウンゲロ族がどうして魔法を!?」
「修行したんだよ!お前たちの子供の悲鳴を愉しむためになぁ!」
「こんな事ができるなら、なんでわざわざ捕まったんだ!」
「俺が、これまで捕らえらた事がないとでも思ってたのか?何度もわざと捕まってるんだよ」
「な、何故だ?」
「何度も言わせるな。滑稽だからだよ。お前らの少ない脳みそで、ウンゲロの戦士である俺を捕えたと勘違いした所をなぁ、ぐちゃぐちゃにしてやるのがなあ!」
「っく!殺せ!」
「いやだね、生きたままはらわたに食らいついてくれるわ!」

ノリよく、残虐行為に走ろうとするゲ氏に対して、私は全力で叫んだ。

「待て!待つんだ!そいつらを殺すと!ここが吹っ飛ぶぞ!」

ゲ氏が振り返る。ずっと鉄格子の向こうをみていたので、顔を見るのは初めてだ。
驚いた事に刺青は顔の隅々まで施され、元々厳しいであろう人相は悪魔がかったようにみえた。
看守たちは沈黙し、私の推理を裏付けるのであった。

「どうした?黄色いの?邪魔するとこいつらと同じ目に合わせるぞ?」
「こいつら、新型の爆薬の正・副・予備のスイッチになっているんじゃないか?」
「言ってる事の意味は解るが、なぜだ?正・副・予備を?」
「私は、魔法に詳しくない。だが、命を使う魔法って、正確に発動できるのか?」
「いや、命を使う魔法はそもそも禁忌で、伝承は少ない。だがしかし、なるほど、俺を確実に葬る為か。それにしてはここに監禁するのは周りくどくないか?」
「それはアンタが、自分で言ってたように面白がって捕まる事を、領主とかいうやつが知っていたか、そう推理したんじゃないか?」

悪魔のような構造をしたゲ氏の顔が、ニヤリと歪んだ。

「なるほどな、危ない所だった」
ゲ氏は3人の身動きとれぬ看守に吐き捨てるように言った。

「もしかすると、爆薬は魔法陣と組み合わされていて、こいつら俺がこいつらを嬲って遊ぶ事まで計算していたとすると、生贄への拷問で威力の増幅を高める種類の魔法陣が使われていても、おかしくはないな」

無我夢中で話しかけておいてなんだが、ゲ氏の喋り方に知性を感じた。
戦いのプロフェッショナルといった所か?私と考察を交えるに当たって、確実な知識に裏打ちされた自信に溢れた喋り方だった。

「でも、自分の推理ながら、一つ疑問がある」
「なんだ?」
「こいつらが、命を賭してまでここに居る理由がわからない」
「別に?どうせ、どこぞ貴族の不始末を背負って、ここに死にに来た兵だろう。卑怯な白いのでは、よくある話だ」

人権感覚皆無の、中世の暗黒時代そのものの倫理観らしい。黄色人種の私は、尚更肩身が狭そうだ。

「最新型の爆薬というのは、私の生まれた国では、ダイナマイトと呼ばれている代物で、岩を砕く為に開発された。どんな配置になっているかわからないが、この石造りの牢獄自体が、散弾銃のように俺たちに襲い掛かるだろう」
「サンダンジュウ?」
「てつはうってわかるか?」
「ああ……弾けて破片で攻撃するというわけか」
「要は、爆風よりも破片をなんとかすれば、助かるかも知れないのだが」

すると、ゲ氏は、鎖を操り看守たちの両足をへし折った。バリバリと甲高い脛の骨が砕ける音と、テニスボールが破裂したような脚の腱が弾ける音が、3人の男の悲鳴と共に聞こえてきた。

ゲ氏はすかさず、鎖を手元に戻すと、鉄格子に巻き付けて、ワイヤーソーで木材を切断するように、両手で鎖を擦り付けて、鉄格子を切断していった。

あっけなく、6本の鉄格子が破断され、その巨体を牢獄から解放した。
ゲ氏は、看守のウチの一人を踏み躙り、そいの上に立つと、これから縄跳びでもするかのように、鎖の両端を握り、床に鎖のラインを垂れ置いた。

「黄色いの!生き残りたかった背中に捕まれ!」

私はゲ氏の言葉に甘えて彼の背中におぶされた。

ゲ氏は私にしっかり捕まるように言うと、その場で、凄まじい勢いで、鎖で縄跳びをはじめたのだった。

真下に転がる看守たちは、瞬く間に鎧を裂かれ、鎖に巻き込まれて肉片と化していく。
悲鳴すら聞こえない。そんな状態で、看守の頭部は兜ごと宙を舞った時、爆発が始まった。

まるでバリアのように、飛んでくる石片を打ち砕くゲ氏の鎖、おそらく球体のようになっているソレだが、刹那の間、矢継ぎに飛んでくる石辺と爆風の圧力。鎖は徐々に勢いを失っていく!

「いやだ!死にたく無い!」私は彼の背中の上で力の限り叫んだ。

呼応するかのように、ゲ氏も絶叫し、力の限り、鎖を振り、跳び続けるのであった。

一瞬のはずの爆発音がずーーーっと響いていた、
散弾銃の如き石片の応酬も、爆発の風圧も、なぜかじわじわと続いているに気づいた。

死ぬ間際、この恐しい刹那が、永久とも言える時間を紡いでいた。

***

「おい!黄色いの行くぞ!」

少年の残骸を担いで、ゲ氏は征く。
私は、命を助けられて以来、彼の従者として、いつ終わるとも知れぬ、彼の復讐に加担する道を選んだ。
私は残酷は好まない。しかしこの世界で、力の弱い有色人種に、そんな好きだの嫌いだの選択権など、死をもって逃避する以外に無いのだから。

私は いやだ 死にたく無い

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