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学習効率本に対する質問・コメントにお答えします!


拙著『最新研究からわかる 学習売効率の高め方』に、たくさんのコメントを寄せていただき、ほんとうにありがとうございます。
その中から、いくつか選んで、回答させていただきます。

基本的に、多くの読者にとって有益な議論になりそうなコメントだけに返答させていただきます。

多くの方にとって興味があるのは、たとえば、以下のようなコメントが、的を射ているのか?ということだと思います。

r70t8o5: 大学受験だと進学校が高1、高2の段階で高3の模擬試験受け始めることに合理性あるんだよね。講義とか勉強は学習の第一段階に過ぎないのだから。

実は、カーピキー2008実験の結果からは、そんなことは言えません

カーピキー2008実験から分かるのは、カーピキー2008実験の実験手続きと実験条件で【テスト】をやった場合に、「すでに覚えたことの反復【テスト】は効率がいい」ということだけです。
実験手続きの細部が異なれば、当然、異なる実験結果になります。
だから、第1巻では、あれほど詳しく実験手続きを書いたのです。

本書の第2巻以降でさまざまな論文の実験データを詳しく分析していますが、【テスト】の学習効率が低くなることなど、いくらでもあります



あと、筆者としては、ここは触れるのが気の進まないところなのですが、読者の方々の間で言い争いのようになってしまっているところなので、放置しておくのも無責任かな、と思ったので、あえて、火中の栗を拾ってみます。

nP8Fhx3T: 20秒くらい読んで結論が見えないので閉じました
hiroyuki1983: もっと簡潔にまとめて欲しい。クソ薄っぺらい中身を収益化のために無理やり10分以上に引き延ばすYouTuberかよ
Harnoncourt: まず要点を3~5つ程度にまとめてから文章を書き始めましょう。
mori99 参考になった。記事は途中はざっと流した。流したりとばしたりが容易なのがテキストの利点


たしかに、第1巻をWebにアップした当初は、かなり冗長な記述が含まれていました。
それに気づかせていただいたコメントには、大変感謝しております。
また、おかげさまで、冗長な記述をばっさり削除することができました。
さらに、そのおかげで記事が読みやすくなり、想定よりもずっと多くの方に、第2巻以降を読んでいただくことができました。今もずっと、注文が入り続けています。
また、冗長な記述を削除してから、最初から全巻買う方がぐっと増えました。

ただ、冗長な記述を削除した後も、「クソ薄っぺらい中身を収益化のために無理やり10分以上に引き延ばすYouTuberかよ」のようなコメントは増え続け、「冗長すぎる」「この記事の学習効率が悪すぎる」というコメントへのスターは増え続けていきました。

私としては、もう、これ以上削るところがないほど削ったのに、それでも「冗長すぎる」「この記事の学習効率が悪すぎる」と言われ続けたので、途方にくれました。

これ以上削ると、実験手続きの詳細まで削除しなければならなくなります。
そして、おそらく、その要求は正しいのです。
多数派にとっては。

20秒で結論が分かるように書くと、実験手続きは書かずに、「テストの学習効率は高い」と書くことになります。
実際、ベストセラーの科学的学習法の本は、そういう書き方になっています。(たとえば、「想起」の学習効率が高い、とか)

学習法の本に限らず、多くのベストセラー書も、そういう書き方になっていますので、「20秒くらい読んで結論が見えないので閉じました」というのは、多くの方の、ごく自然な反応だと思います。

しかし、20秒で結論が知りたい方には、私の学習効率本ではなく、ベストセラーの科学的学習法の本を読んでいただきたいです。

「この記事の学習効率が悪すぎる」というコメントにスターをつけた方々にとっては、そういうベストセラーの科学的学習法の本の方が「学習効率が良い」はずです。

とくに、メンタリストDaiGoさんの『最短の時間で最大の成果を手に入れる 超効率勉強法』という本は、そういう多数派のために書かれた本です。
実際、その本で紹介されている科学的学習法のほとんどは、20秒くらい読んで結論が見えます。

一方、筆者の学習効率本は、DaiGoさんの本に書かれた学習法の効率が、実際のところ、どれくらいなのかを、さまざまな論文の実験データと突き合わせて入念に検証していく本です。
もちろん、DaiGoさんの本だけでなく、それ以外の科学的学習法の本からも、記述を引用して、その学習効率が、具体的にどれくらいなのかを、詳細な実験手続きや実験データと突き合わせて検証を行っています。

なので、第2巻まで読んだ方の感想は、例えば、以下のようになります。

lady_joker <略> 2巻まで読んだが、これ色々な意味でほかの人には書けないなと感じた。結論を読むのではなく、そこに至る執拗な実証の積み上げに真価がある本 (太字引用者)


もちろん、以下のような方もいらっしゃるということを書かないと、フェアではないでしょう。

yingze: へーってなるなこれ。20秒でそっ閉じって、タイトルだけ読んで本文読まないタイプのアホか。
nochiu74: 分量もロジックも分かりやすく、素晴らしく読みやすい記事
north_korea これが冗長と言っている人たち、普段5行くらいの記事しか読んでないのかな
tomoya_edw: めちゃすっと読めたけど…文句言ってる人は文章をスナック感覚で消費する読み方しか出来んのかな?これくらいはまとまったものとして受け止めてもいいでしょ。話を最後まで聞かないのよくないよ。


こういう方々は、少数派です。

もちろん、「20秒くらい読んで結論が見えない」本というのは、世の中の97%ぐらいの方にとっては、ゴミ本でしょう。
しかし、自分が多数派だからといって、残り3%の少数派のために書かれた本をバカにしたり、見下したりしてよいものでしょうか?

基本的に、多数派でも、少数派でも、それぞれの人が、自分にふさわしい本を読むのが、みなが幸せになれるコツです。

多数派の方にふさわしい本は、DaiGoさんの科学的学習法の本です。
私の学習効率本は、残り3%の少数派の方々のために書かれた本なのです。

お互いの平和のために、住み分けましょう。

実際、私は、私のツイートを目にしたら不快な思いをしそうな方は、事前にブロックするようにしています。
これは意地悪でしているのではなく、私のツイートで不快な思いをさせてしまっては申し訳ないので、気遣いでそうしているのです。
一種のゾーニングです。



次に、運動学習についていただいたコメント:

https://twitter.com/kanedo_/status/1313074552444866561
かねどー ( @kanedo_ ) : この話めちゃくちゃ面白くて、格闘技とかにも何か適用できそうなので<略>


格闘技の技の習得って、学術的には「運動学習」と呼ばれるもので、楽器の演奏や、英語の発音なんかも、それに該当します。
学習効率本は、運動学習についての論文もかなり詳しく検証していて、めちゃくちゃ興味深い実験データを紹介してあります。
というか、そもそも実験者が「学習とは何か?」について、かなり深く考えてるから、面白い実験結果になってるんです。
たとえば、右回し蹴りを、素早く、正確に放てるようになったら、それは、その技を「学習」したと言っていいのか?
それが「学習」だったとして、その学習に意味はあるのか?
その学習に意味があったとして、その学習の「質」は高いのか?
そういうことを考えさせられる、すごくいい実験なのです。

そして、それは、運動学習だけじゃなく、数学や英文法などの「スキルの学習」や、単語学習などの「知識の学習」についても、問題となってくる話なのです。
なので、そもそも「学習とは何か?」を考える上で、格闘技に興味がない人でも、その実験の詳細は、興味深いものです。

もちろん、それを興味深いと思うのは、我々少数派だけであることは、承知しております。


次に、本書における「学習」の定義についていただいたコメント:


ms2sato: 「学習」のタイトルで「記憶法」の話が展開されており、私にとって記憶は学習の一分野でしかなかった為、想定と違う内容であった。他の章も記憶の話なのだろうか。<略>


先ほどの運動学習の話から分かる通り、記憶と言えば記憶なのですが、「そもそも記憶とはなにか?」というのが問題となるので、この質問には、簡単には答えられないのです。

たとえば、学習効率本で紹介する実験では、しばしば、複数の異なる計測テストを行っています。
計測テストの種類によって、計算された学習効率の値が異なるのです。
同じ学習法でも、単純に記憶していれば答えられるテストと、ある程度の理解推論を行わないと答えられないテストでは、スコアが異なります。
どの学習法で学習し、どの計測テストで計測したかによって、学習効率の値が違ってくるのです。
つまり、計測テストが変われば、それぞれの学習法の相対的な学習効率も違ってくるのです。
これで、答えになっていますでしょうか?



次は、カーピキー2008実験から得られる知見についてのコメント:

hobbling: いわゆる「過去問を解きまくる」が最強ってことか<略>


結論から言うと、そんな簡単な話じゃないです。
学習効率本をすでに全巻読まれた方々にとっては自明ですが、「過去問を解きまくる」でも学習効率が悪くなることはありえます

第1巻の結言に、「このように学習効率を左右する要因が、少なくとも、28個ある」と書いてあるように、学習効率を決定する要因は、第1巻に出てきたものだけじゃないです。
いくら「過去問を解きまくる」をやっても、学習効率を決定する他の要因次第で、学習効率は、いくらでも悪くなりえるのです。

そもそも、たった1本の論文の実験データをもとに出された第1巻の結論は、第2巻以降ででてくるたくさんの論文の実験データと突き合わせて、ボロがでないわけがないです。

最大のポイントは、この第1巻は、筆者が、その論文しか読んでいないフリをして書いているという点です。

基本的に、論文の実験データというのは、真実のごく一部を、ある特定の角度から撮影しただけの写真にすぎません。
たった1本の論文の解説を読んだだけで、『いわゆる「過去問を解きまくる」が最強ってことか』と思っちゃうのは、象の足を撮影した写真を見て、「象とは柱のようなものってことか」と言っちゃうのと同じです。

もちろん、筆者自身も五十歩百歩で、象の他の部分を撮った写真を見たことがないフリをして、「象って柱のようなものであることが分かる」みたいなことを書いているわけです。

以下のようなコメントもいただいているので、それへの返答もかねて、この問題を考えてみます。

hope_ring: 一番気になったのは、ふろむださんはどうやってこの手の情報を集めているのか ということ

筆者が学習効率に関する論文を何本くらい読んでいるかは、第1巻に書かれた情報から、簡単に推定できます。

第1巻には、カーピキー2008実験の論文の解説はPDF換算で「43ページ」の分量があると書かれています。
本書の第1~5巻のページ数も書かれていて、合計すると2100ページ以上であることがわかります。
つまり、第1巻の論文解説は、ページ数にして、実質的に、本書全体の50分の1しかないことが分かります。

普通に考えれば、第1巻の論文解説部分のページ数と、本書全体のページ数から、「この本全体では、少なくとも30本ぐらいの論文解説はやってんじゃねえかな」ぐらいの予測はつくと思います。

もちろん、筆者は、30本の論文を読んだだけで、30本の論文の解説など、とても書けるものではありません。
なぜかというと、試行錯誤があるからです。
一般に、この手の本では、破棄されたボツ原稿は、少なくとも、その倍はあるものです。
最初から一発で最終原稿が書ける人なんて、そうそういるもんじゃありません。
つまり、筆者は、合計60本分の論文解説を書いたことぐらいは、簡単に想像できるはずです。

では、1本の論文解説を書くのに、何本の論文を読む必要があるでしょうか?

もちろん、他の学習法の本で引用されている論文を読んでいけば、かなり効率よく論文を見つけることができます。
しかしながら、それだけでは、必要な論文を全て見つけることは、とうていできないはずです。

そこで、各種論文検索システムを使うわけですが、
Google論文検索で、キーワードを入れて出てきた論文のサマリーを読んでいくだけで、欲しい論文が簡単に見つかったりはしないです。
論文が、本に使えるかどうかは、細かい実験手続きの部分にも依存するので、論文のサマリーだけ読んでも、それが使える論文なのかどうか、分からないのです。

また、論文をかなり読み込んだところで、「よくよく考えたら、やっぱ、この論文はつかえねーや」ということに気が付くことは、とても多いです。

そういうわけで、結局、1本の論文解説を書くのに、その5倍ぐらいは論文を読まなければなりません。

つまり、筆者は、300本ぐらいは、学習効率に関する論文を読んでいることが、推定できます。

もちろん、実際には、筆者が何本の学習効率に関する論文を読んだのかは、正確には分かりません。
しかし、どう少なめに見積っても、100本以下でないことぐらいは、容易に分かると思います。

学習効率に関する論文を100本以上読んでいる筆者が、たった1本の論文の実験データしか知らないフリをして、その論文の解釈を解説したのが第1巻です。

そのことから、別に名探偵でなくても、第2巻以降で、どういう話の展開になるかぐらい、うすうす感づくと思います。

もちろん、筆者のブログの昔からの読者なら、なぜ、このブログが「分裂勘違い君劇場」というタイトルになっているのか、知っていると思います。

その「分裂勘違い君劇場」の本館に、第1巻が掲載されたのだから、第2巻以降でどういう話の展開になるかは、想像がつくと思います。

しかし、そういうハイコンテクスト情報を知らなくても、第1巻に書かれた情報だけから、第2巻以降の話の展開は、十分に予想がつくはずなのです。

実際、ちゃんと、第2巻を読む前に、それに感づいていた人もいました。

nouramu: ふろむださんは尊敬しているが、この文章を読んでると騙されるな!!っていう警戒信号がビンビン発信されてて怖くなるんですが。/2巻読んで笑った。1巻はなんも言ってないに等しい。<略>


昔は、こういう勘のいい方は、それなりにいらっしゃったんですけどね。
時代が変わりました。

しかし、そもそも、なんのために、筆者は、わざわざ1本の論文しか読んでいないフリをして、論文の解説記事を書いたのでしょうか?

これは、なにも、読者を騙すためにやっているわけでも、バカにするためにやっているわけでもなく、単に、それが必要なプロセスだからやっているだけです。

たとえば、なぜ「1+1=2」になるのか?をきちんと理解しようとしたら、いったん「1+1=2」であることを忘れたフリをしなければなりません。
そして、そのうえで、「1」とは何か?「+」とは何か?をきちんと理解しなければなりません。
そうしてやっと、「1+1=2」をきちんと理解できるようになるのです。
ペアノの公理をご存知の方なら、それをイメージしてもらえれば、ニュアンスが伝わりやすいかと思います。
本書は、学習法における「1+1=2」をきちんと理解するための本です。
だから、いったん「1+1=2」がなんであるかを、忘れたフリをする必要があるのです。

また、これは、「たかが1本や2本の論文を根拠に学習法の有効性を主張するような科学的学習法の本に書かれていることを信じる」ということの意味を伝えるための、最も効果的な方法だと、筆者が考えているから、そういう手順を踏んだのです。
それは、単に言葉で説明しても、なかなか伝わりません。
これは、1本の論文の解説を読んだだけで、「こういう学習法が効率がいいんだな」といったん思い込んでから、あとで別の論文の実験データを突きつけられて、自分の勘違いに気づくという「体験」をして初めて、実感として理解できることなのです。

その「体験」をしてもらいたいがために、わざわざ、こんな舞台装置を作ったわけです。
第1巻が「劇場」という名のつくブログに掲載されたのは、そういう含意があるのです。



次、これも、気が進まない話題ですが、スルーするのも不親切なので、回答します。

zZwIwl: 一生懸命読んで2〜5巻見に行ったら高い・・・
nouramu: <略>2000円は高いけど…。


大変申し訳ないです。
もちろん、前著の錯覚資産本のように12万部も売れるような本ならお安くできます。
しかし、学習効率本は万人向けではないので、その100分の1の方に読んでいただけるかどうかも怪しいです。
いまのところ、みなさまのおかげで予想よりも速いペースで売れていますが、まだまだ油断はできません。

そもそも、学習効率を実験手続きや実験データと突き合わせるなどという面倒な本を読みたがる人は、かなりレアです。
残念ながら、我々は、かなりの少数派なのです。

実際、第2巻以降を読まれた方々から、DMやメールをいただいておりますが、少数派の方であることが、ビンビン伝わってきます。

もちろん、本書は、中学生でも読めるように書きましたし、実際、中学生の女の子に読ませたところ、面白がって、熱心に読んでくれました。
しかし、残念ながら、ほとんどの大人は、彼女のように本書を面白がったり、熱心に読んだりはしないのです。

そういうわけで、重ね重ね申し訳ないですが、こういう少数派向けの本は、単価を高くしないと、採算が取れないのです。

これは、少数派による少数派のための本の宿命なのです。


こんなところでしょうか。


書くのに飽きてきたので、ここで終わりにしたいと思います。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。


筆者(ふろむだ)のツイッターはこちら


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