もう会えない友人について

今年で34歳になる。
どこに出しても恥ずかしくない立派なおじさんになった。

子供の時、いや大学生くらいまでは34歳なんて聞いたら随分と大人でお金にも余裕があって家族がいて社会的な地位を持った人を思い描いていたと思う。

残念ながら年齢相応に老け込んだこと以外は昔思い描いていた34歳の大人にはなれなかった。子どもがわざわざイメージするくらいの34歳の人なんて立派な人しか居なかったんだろう。とも思う。

正月、地元に帰った時に昔の友人・知り合いの近況を母から聞くと、子供を連れて出戻っていたり、実家の近くに居を構えたり、仕事がうまくいかず実家に戻っていたり、という話が多い。こういう話は地元に帰ってきた、住んでいる人間が対象になるからたとえばニューヨークで成功している話なんかは聞くことはないだろう。

それでも知り合い、友人の誰かが亡くなった。なんて話は無かった。
5年前に亡くなった友人のことを思い出しながら、2年前に近所の駐在さんの飼っていた犬が死んでしまった話に相槌をうっていた。

私の地元は横浜市ではあるが随分外れていて駅からも遠く、所謂「横浜」のイメージとはかけ離れた場所だ。

夏の夜は田んぼからはみ出した蛙が畔に広がり、自転車を漕げば顔に当たる虫が痛い、調子がいい年は蛍だって見えるくらいだ。
小中学校もバイオレンスな雰囲気とは無縁なのんびりとした学校だった。

不良なんて言っても近所にあった駄菓子屋で万引きをしたとか、タバコを吸ったとか、大きな公園で花火を鉄砲に見立てて打ち合って遊んだとかそんなことが武勇伝になるような長閑な町だった。

中学校を卒業した友人は元々勉強ができないタイプではなかったが、不良校として近隣では名高い高校に進学した。
※ゆきぽよさんの母校といえばイメージが伝わるだろうか。
卒業してからしばらくはあまり会う機会はなかったが、私が高校時代、バイクの免許を取ってから会う機会が多くなった。

10代の少年にとってバイクを走らせることよりも楽しいことは無い。
夜、お互いに都合のいい時を見つけては2人でバイクを走らせて、コンビニでそんなに美味しいとは感じなかった缶コーヒー片手にMOTONAVI(バイク雑誌)なんかを読みふけった。

2人が単なるバイク好きだったときは、本当に楽しかった。

そんな関係が変わっていったのは彼が仕事を始めてからだったと思う。
高校2年生の冬くらいだっただろうか。
※在学中の「仕事」は察してください。

私と同じような中流家庭に育った彼はてっきり進学して高校時代のことを黒歴史にするのだと勝手に思っていたから、そちらで生きていく階段を登り始めたのに酷く驚いたのを覚えている。

ファッションセンスや髪型、振る舞いが変わり始めた彼はそれでも私との関係を断ち切らなかった。
当時オタクっぽい風貌だった私と一緒にいる場面は彼の値打ちを下げさせる危険があっただろうに。

あるいはたまに不良の友達に声を掛けられても特に気にしないで「地元の友達」なんて言ってくれたから本当に気にしてなかったのかもしれない。
彼氏を探してる女の子を紹介してくれようしたけど、俺みたいなオタクみたいなのがきたらがっかりするよ。なんて断ったこともあった。

連絡を取らなくなったきっかけは私が保護観察処分を受けたことだった。保護観察といってもスピード違反で、保護司への面談も書類送付ですむような簡素なもの。
しかし、両親に心配をかけたこと、裁判所で会った保護観察処分を受ける少年たちの姿。それは私にバイクを降り、大学受験に力を入れることを決心させるには十分なものだった。
バイクに乗らなくなると彼と連絡することも少なくなった。

高校三年生の時の受験は失敗し、浪人生になったころはもう携帯のメールすらしなかった。
偶然会ってもバイクという共通の趣味が無くなったこと、離れていくライフスタイルによって話題はほとんどなくなった。お互いに気まずい思いをしながら、「また」なんて言うようになった。同じバスに乗りたくなくて買い物忘れを装って列を離れたこともあった。
大学に進学して横浜を離れてからはほとんど地元に帰ることもなかった。

23歳の時に地元であった同窓会で顔を合わせたのが彼を見た最後だったと思う。
その時には粋なセットアップを着こなす「大人の不良」になっていた。

それからの彼のことは断片的にしかしらない。
刑務所に入ったとか、トラブルに巻き込まれて体をかわしているとか、どうにもならなくなって死んだとか、いや交通事故だとか、死んではいない、飛んだだけだとか。
色々と不確かな話が流れ続けていたが5年前に、死んだよ。と聞いた。
それから彼の近況を耳にすることはないからそういうことなんだろう。

私が地元にいても彼の人生が変わったかは分からない。おそらく変わらなかったと思う。
それでも、不良仲間ではない小さな時からの友達として話を聞いてあげられる機会があれば彼の気持ちが少し変わっていたかもしれないな。とは思う。

夜の帰り道、彼の実家の前を通る。
窓には彼の被っていたコルク半が置いてある。

もう親御さんの気持ちがわかる年齢だ。
薄情だった昔の自分が嫌になった。

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