青写真#シロクマ文芸部
青写真を描いていた。30歳までに結婚、子どもは2人、幸せな家庭を築くと。しかし実際は職場でもうだつがが上がらず、結婚したいと思っていた相手からは別れを告げられた。それからは惰性のような毎日・・・
酔っぱらって乗り過ごし初めての駅に降り立ったのは、2月になったばかりの寒い夜だった。ふと見ると「青写真」という看板。地下に降りていくと
そこは青い照明にぼんやり照らされたバーだった。
「いらっしゃい。こちらの個室にどうぞ」
招かれた部屋は3畳ほどでテーブルとイスがあるばかり。テーブルの上にカメラと重々しいゴーグルが置いてある。そしてボタンがずらり。
「まずは、このカメラで写真を一枚撮らせていただきます。それからあなたの思い描く未来図をこのなかから選んでください」
言われるままに、「幸せな家庭」というボタンを押し、ゴーグルをかけると
見える見える、これが仮想世界というものか。芝生の庭、白い家、そこへ帰って来たのはこの僕だ。
「おかえりなさい」
美しい女性が迎えてくれる。可愛い子供が2人。
「パパ!」と
両側から抱きついてくる。
僕の描いた青写真通りの世界…しかし10分たつとふっと消えてしまった。
水割りを運んで来たバーテンによると、飲み物込みで5千円とのこと。安いのか高いのか。
数日後、また出かけ、例の個室に入り、今度は「外科医」のボタンを押してみる。手術室だ。鮮やかな手さばきで手術をしているのは僕。終わると周りの医師たちが感嘆して言う。「先生の手術は神技ですね」
泣きながら感謝の言葉を述べている、美しい女性は患者の奥さんか。
そこで、ふっと画面が消える。
5千円は痛かったが確かにいい気分にはなれる。しかし10分間だけとは
あまりに短すぎる。
それを察したのか水割りを届けに来たバーテンが囁いた。
「もっと長く楽しむこともできますよ。ただし料金ははりますが」
「え、いくらですか?」
「一日で10万、ひと月で100万ってとこですね」
「え?」
「一生って方もいますよ、1000万で。安いもんでしょ」
僕はずっと悩んでいる。1000万かき集めてあのバーに行くべきかどうか。
おわり
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