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介護保険認定調査泣き笑い

 介護保険認定調査は、区役所の高齢者支援課の仕事で、そこから調査員が派遣されてくるのですが、それだけでは人員が足りず、一般の介護支援専門員事業所(ケアマネの事業所)に依頼が来ます。ケアマネの資格がある人が、一定の研修を受けると認定調査員の資格が得られ、ほとんどのケアマネはこの研修を受けるので、認定調査員も兼ねることになります。その認定調査のお話です。

 毎月市役所から、調査票の束が会社に送られてきて、その中から訪問できそうな、個人宅や施設を選んで、調査に行きます。施設は大きな建物だし、わかりやすいのですが、個人宅となるとみつからなくて、冷や汗かいたことが何回もあります。同じ番地に何軒もの家がひしめいていたり、同じ番地なのに飛び地があったり(あるんです)。そのお宅に電話して丁寧に教えてもらったのに、どうしても見つからず、困り果てたことも。30分も歩いてやっと見つけたら、なんと表札の上に植木がかぶさっていて、全く見えなかったからだった、ということもありました。

 お宅によってご本人だけだったり、息子さんと二人だったり、「認定調査員が来る」ということで、長男夫婦次男夫婦、娘さんなど集合しているお宅もあり千差万別です。ケアマネさんが来て下さっているお宅もあり、こういう場合は情報収集ができて助かります。が、同じケアマネ同士、仕事ぶりを見られている感じがして、やりにくかったりもします。(本音言うと)

 施設の場合は、ケアマネか、相談員が立ち会ってくれることが多く、ご本人に聞ける質問だけご本人にして、あとは、ケアマネさんに聞く、というのが能率的ですね。質問は50近くあるので、能率的に聞く、ことが大切。調査票はまず、身体に麻痺がないか、手足を動かしていただくところから始まっていますが、順番は無視して、まずお名前と生年月日を伺うところから始めます。あ、そのまえにきちんと自己紹介をし、「立ち入ったことを伺いますが、調査なので、どうかご協力ください」と丁寧に言うことが大切です。それだけで「ああ、どうぞ聞いて下さい」と言って下さる方もいますし。

 玄関まで迎えに出て下さる方もいて、そんなときは挨拶をしながら、その方がちゃんと歩いていられるか、どこかにつかまっていないか、椅子に座る時もつかまって座っているか、などさりげなく見ます。そうしておくと、改めて聞いたり、やっていただく手間がはぶけるので。

 ある施設を訪問した時、担当の若いケアマネさんが迎えて下さり、なにか不安げな様子。「気難しい方で質問に答えて下さるといいんですが」とのこと。内心ヒヤヒヤでついていくとご本人は食堂で新聞を読んでいられる。ケアマネさんが、「お部屋に入りましょう」と声をかけても無視される。隣のテーブルには、他の入所者がいられたので、「ここでは○○さんの大切な個人情報が他の方に聞かれてしまうかもしれないけれど、それでもいいでしょうか?」とやんわり声をかけたら、納得してお部屋に向かって下さった。そのとき歩行状態も見れたし、その後の調査もなごやかにできてほっとしました。
 ケアマネさんからは「伺っても答えていただけなくて分からなかったことを、今日いろいろ知りました。調査員さんはお上手ですね」と言われ、
「たまたまです」とお答えしたものの、心の中ではガッツポーズでした。

 ある施設では、担当のケアマネさんが、調査結果についていろいろ聞いてくるので、なぜかと思ったら、その施設は要介護以上の方しか入れず、要支援という結果が出ると、退所していていただければならないのだそうで、結果を気にしていられたのでした。そうはいっても嘘を書くわけにもいかず、万一嘘を書いても、お医者さんの意見書というものも、認定調査票と一緒に区役所に提出するので、矛盾しているとたちまち区役所から電話が来ます。
区役所では認定調査票と、医師意見書を参考に、審査会が開かれ、そこで介護度を決定、それぞれに介護保険証を発送する、というてはずになっています。動作を確認したり、ご本人の答えだけでは確信が持てないときは、ご家族に電話したりしてできるだけ正確に、神経を遣って調査します。当然ながら。

 前後しましたが、介護保険の介護度は、軽い方から要支援1,2,要介護1,2,3,4,5と分かれています。要介護5となれば、寝たきりか認知症の進んだ方です。あくまで、どのくらい介護が必要か、をみるものなので、車いすの方でも、なんでもご本人ができる、場合は、介護度は低くなります。お体が丈夫で病気はなくても、認知症でご家族の見守りが必要、となれば、介護度が高くなります。

 たいていの方は介護度が高く出ることを希望しています。介護度が高くなるほど、支給限度額が増えて介護保険のサービスが沢山受けられるからです。私が調査して、要介護1の方が要支援2になった(軽くなった)とき、その方のご家族から、かなりのお叱りを受けたことがあります。息子さんからでしたが、「自分がみたところではお袋は前より弱っているのに、軽くなった、とはけしからん、ちゃんと調査しているのか!」とかなりの剣幕でした。認定調査の基準が少しずつ変わっていることもあったのですが、経緯を丁寧に説明し「ご納得がいかなければ、再調査(区分変更申請)の申し込みができます」と、お話したのですが、結局それはなさらなかったですね。
 細かいことをいうとややこしくなりますが、要支援2と要介護1は紙一重、でもサービス内容が変わってきますから、その辺も難しいところです。逆に、要支援2だったのに要介護2になった、とひどく落ち込んだ方もいて、私の担当の方だったのでなにか責任を感じて胸が痛みました。その方は歩行能力がだいぶ落ちてしまったのでそういう結果になったのです。

 調査票の最後には、特記事項の欄があり、そこに調査結果(チェック票)だけでは不十分なことを書きます。人によってはA4の用紙にびっしり書くこともあり、かなりの時間とエネルギーがいります。この文章は固くて
季語から思いはかる、俳句などとは、全く正反対で笑ってしまうほどです。

 と、いろんなドラマを含みながらの調査、お話がはずんで、なかなか返して下さらない方に必死で「それではこれで」と声をかけ、玄関を出てふぅと溜息、認定調査員はがんばっているのです。

                おわり





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