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三つ星レストランという世界

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三つ星レストラン。
そう聞いて、どんな世界を想像するだろうか。

わたしが働く前に感じたこと、
それは「自分とは住む世界の違う人たちが利用する場所」だった。
1食に何万〜何十万と掛けられる人たちの行く場所。
限られた人だけが行くことのできる閉じられた世界。
そんなイメージ。

ふつうの家庭で育ったわたしは
星付きのレストランなんて行ったことがなかった。
そもそも、その存在すら知らなかった。
というほうが正しい。
ジョエル・ロブションも恥ずかしながら知らなかった。

そんなわたしが縁あって
三つ星レストランで働くことになるとは。
誰が思っただろう。
って、まあ、そんなことは誰も思っていない。

縁あってお話をいただいて、
どんな世界なのか興味が湧いたから、
お話だけでも聞いてみようかと軽い気持ちで足を踏み入れた。
お話を聴きに伺ったときに出してくれたお茶が
とてもとてもおいしくて、
感動したのを今でも覚えている。
あんなにおいしいお茶をいただいたのは
初めてだった。

その後、働くことになるのだが、
星付きレストランという世界を知らなさすぎて、
とても緊張したし、とても怖かった。
調度品もカトラリーも、
あたりまえだが高価なものばかり。
手を触れることも怖かった。
そして、
その世界を知らない自分が働くということも、
なんだか恐れ多かった。

リーズナブルなお店と比べて違うと思うのは、
「プロ意識」ではないだろうか。
働いている人たち全員が高い意識を持てているかと聞かれると、
そこは返答に困るのだが、
基本的には高い意識を持って仕事をしている。
だからこそ星付きになれるとも感じている。
もちろん星がすべてではないが。
そのお店で働いているということに誇りを持っている、
そんな人たちがとても多い。
だからこそ、
その厳しい世界に馴染めなくて辞めていく人もいるのが事実だ。
そして、
キッチンは特に修行に来る人も多い。
だからこそ厳しくもなる。

わたしは、そんな世界を好ましいと感じていた。
一つの目標に向かって、
お店の人たち全員で力を合わせる。
そんな世界がとても好きだった。
もちろん足並みが揃わないこともある。
それでも、学生時代にやっていた合唱に近いものを感じていた。

お店を作る、ということはハーモニーを奏でることと
似ているかもしれない。
キッチン、サービス、それからお客様。
誰が欠けてもハーモニーは作れない。
お客様はお店のスタッフではないが、
良いお店を作っていくうえでの重要な、
欠かせないピースである。

わたしの働いていたレストランにも、
たくさんの芸能人や著名人の方がいらしていた。
はじめて担当したときは、
それはそれは緊張したし、
粗相のないようにと縮こまっていた。
けれど、
そんな華やかな世界で活躍されている方々が
どんな理由で来店されているのか、
そんなことを考えたら過度な緊張はしなくなった。
知らない世界で、縁のない方々だからこそ緊張するけれど、
どんな方であろうと、
お料理を、そこで過ごす時間を楽しみに来てくださっている。
そこに変わりはない。
たとえ仕事の一環だろうと、プライベートだろうと。
サービスマンの仕事は
お客様により良い時間を提供すること。
だと、わたしは思っている。

星付きレストランというのはそれだけで、
来店されるお客様、
特に初めていらっしゃるお客様の期待値は高くなる。
それだけの金額もするから、
あたりまえと言えばあたりまえだ。
その期待をどれだけ超えられるか、
それがお店の、実力だろう。
たとえばファミレスであれば、
多くの人が「こんなもの」と思っているのではないだろうか。
そこに丁寧なサービスや舌鼓を打つほどの料理を期待してはいないだろう。
けれど星付きとなれば、
多くの人が「どんなに素晴らしいんだろう」と想像を膨らませる。
だからこそ、
その想像を超えられなかったとき、
リピートという結果にはつながらない。
それは、ある意味でシビアだが、
とてもシンプルで潔いと感じる。

わたしは三つ星レストランで働いたことで、
富裕層と呼ばれる人たちを間近で見ることができた。
感じていたことは、
とても自由だということ。
ドレスコードなるものがあっても、
それを守らない方もまあいるし、
「ふつうはこうだよね」という縛りがない。
サービスマンとして接するなかで、
そういう経験ができたことは、
とても幸せなことだと今でも思う。

お客様として、
今度は自分がサービスを受ける側になろうと思いながら、
未だ実現できていないので、
それは今年実現させたい。
実現させると決める。

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