生まれもった役割にもがき空回りする愛しき男の娘『三咲くんは攻略キャラじゃない 1 』
単行本発売やったー!
Twitterのカラー短編の頃から追っている身としては、紙の本という実物がこの手にあるというのは感慨深いものがある。
ナツイチの『三咲くんは攻略キャラじゃない』は、ギャルゲー世界という自覚がキャラ全員にある世界で、親友ポジションの男の娘を攻略したい季原くんと、ゲームクリアにならない親友エンドではなくちゃんとしたヒロインと結ばれて幸せになってほしい男の娘三咲くんのすれ違いを描くラブコメだ。
やっぱ三咲くんかわいいですね……。
そして男の娘へのこだわりね……!
男の娘三咲くんのかわいさはさることながら、物語設定の醍醐味といえば、やはりメタ認知だ。
三咲くんは親友キャラとして、自分の幸せよりも先に主人公の幸せを願って行動する。ギャルゲーにおいて友人や悪友といったキャラの役割とは、話の進行、つまり主人公の日常と恋路を円滑にサポートすることである。
物語の終わりに、主人公の隣に立てるのは僕じゃない。「だって晴太はヒロインと幸せにならなきゃいけないんだから」。それを寂しく思っている自分を隠して、主人公とヒロインの恋愛成就という使命のために動く。使命の達成というエゴの形で季原への想いを残そうとする。
しかし、主人公季原は親友ポジションの三咲くんと結ばれたい。ヒロインとのフラグを全く立てようとせず、ヒロインからのアプローチも粉々にへし折っていく。
そこに両者のすれ違いがあって、ストーリーの核になっている。
先日、こんなことを言っている人を見かけた。「小説なんて読む気がしない。なぜなら、物語の波乱が発生するのは登場人物が馬鹿な態度や行動を取るからで、もし彼らが人格者であればトラブルに発展する前に解決し、事件そのものが起こらない。愚かゆえに起きる事態の収拾など見ても面白くない」と。
たしかに、物語の紡がれ方にはそういう一面がある。例えばデート中にヒロインが怒り出して単独行動してたらさらわれちゃって助け出すまでの一騒動が起きたけど、そもそもヒロインがキレなければ波風立たず平穏無事な話だったのでは……? ヒロインの性格キツくない……? みたいな。現実でのいざこざが、当人同士の未熟さによるものだという場合も、大いにある。
そういう意味では三咲にも同様の欠点はあるのだ。季原からの熱烈なアプローチを受け、彼の好意をよく知っていながら、「彼をヒロインとのハッピーエンドに辿り着かせたい」という自分の使命のため袖にし続ける。ヒロインルートを望んでいない季原にそれを押し付けるのは、三咲のエゴだ。
でも、そこがいい。三咲は季原の幸せを思って行動している。今の季原が望まない方向へ進ませようとしているとしても、その原動力は彼への想いなのだ。その愚かさを愛さずしてほかに何をしよう。
そして、そんなギャルゲー世界のルールに従おうとしている三咲に対して、三咲を攻略しようと諦めない季原。目の前に与えられた法則を破って新世界を創造しようとするその姿は、やはり主人公の風格だ。
メタ認知という視点でいうと、ヒロインの中ではギャルの山吹が一番好きだ。
ノリが軽くて頭ゆるそうな雰囲気なのにこの世界の在り方に思うところがあって、三咲や季原に考えをぶつけてみたりする。
ほかのヒロイン2人は、ゲーム世界という意識は当然あるにせよ自分の結ばれたいという思いを疑っている様子はなく、三咲も、自分の親友キャラという使命に疑問を抱いたことはなかった。だからこそ、「話せる」者として山吹の存在が輝く。
季原がカッコいいこと言うのは基本的に攻略したい相手である三咲に対してだが、ここでは山吹に発動している。それだけメタ的な、つまり腹を割った話ができたということなんですよね。
でも目は隠れたままなのがしっかりしている。攻略したいのは三咲なので。(念の為申し添えておくと、前髪で目が隠れているのはギャルゲー主人公あるある。)
季原はどれだけ希望がなくても三咲攻略を諦めない。そんな季原だからこそ……という、山吹が季原のことを好きだということがちゃんと伝わってくる7話はめちゃくちゃ好きですね。
そのうえ、8話の休日回で見られる私服姿も、制服時との雰囲気のギャップがあるときたもんだ。
う~~ん好み! 私がプレイヤーなら、三咲の存在を脇に置くならば間違いなく山吹ルートに入りたいですね……。
ギャルゲー世界の中という自覚あり、というしゃぶりどころ無限大の舞台設定をどの角度からどれくらいの味付けで調理するかによって、今後のシリアスの濃淡を自由に変えられる感じがする『三咲くん』。
二人のたどり着きたいハッピーエンドまで続いていってくれよな……!
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