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内積の意味を完全解説(その1)

モチベーション

高校で習う内積であるが、その簡単な計量とは裏腹に、意味を正確に説明できる人は殆どいないのじゃないかと思う。大抵の人は内積の形を上から覚えるように教えられ(教えてる人も分かっていないので)、よく分からないけど色んな場所で使うな、これは重要概念だな、くらいの感覚なのだと思う。
そしてネットの解説は殆どが次のどちらかのパターンしかない。
①厳密(建前)過ぎて意味を答えてない。
②易しくし過ぎて本質の取りこぼしがある。
この記事の目的は本質を取りこぼさず、厳密性を排除することにある。しかし、厳密な本を見たときに矛盾が生じないようにする。
この記事では意味を理解するために私たちが内積の定義を作るという体験をすることになる。

正射影

一言で言うと内積は正射影なのでまずこの概念を伝えねばならない。
まず、この言葉には影という言葉が入っているが、太陽(光源)に対して、棒が地面に作る影を射影(によってできる影)と呼ぶ。紀元前275年~紀元前194年の時代に生きたエラトステネスはこの棒と影を利用して地球の周囲を測ったことは科学の歴史として有名だ。(下の記事が読みやすいです)

地面をスクリーンとして光源を色々変えるとそれに応じて沢山の影が出来るが、最も重要なのはスクリーンに対して光が垂直に当たるときであり、それを正射影(※厳密には影を作る作用が射影なので「それを」と言ってるが、影そのものを射影と思っても取違いはほぼ起きない)と呼ぶ。
例えば二次元の点$${x=(x_1, x_2)}$$に対して、$${x_i}$$を対応させるのが正射影であり、この時のスクリーンはx軸やy軸となる。

内積を正射影として定義する

例えば、ベクトル$${a=(2, 1)}$$と置いたとき、スクリーンとなる単位ベクトル$${e_1=(1, 0)}$$に対して正射影となる内積を$${a\cdot e_1= 2}$$とすることから始める。ただしここでスクリーン$${e_1}$$とは直感的にx軸のことを言っている。つまりスクリーンとしてx軸を選ぶことと、原点からスクリーン方向に単位分だけ進んだベクトル$${e_1}$$と同一視するというルールを決めれば我々はスクリーンを常にその方向の単位ベクトルと思うことが出来る。
一般的なベクトル$${a=(a_1, a_2)}$$と一般的なスクリーン$${e=(p_1, p_2)}$$(※eは単位ベクトル)に対しては、内積は
$${a\cdot e = a_1 p_1 + a_2 p_2}$$・・・(*)
と定義される。(※ここでは高校数学の内積付近の計算を既知としている。また、スクリーンには向きがあると思うがこれはスクリーンという概念を自然に拡張してるだけなので割愛。)

線形性

スカラーkとしてベクトルのスカラー倍は$${ka=(ka_1, ka_2)}$$としてベクトルの長さをk倍する形で定義されるが、内積の1番目の変数に対しては明らかに$${(ka)\cdot e=k(a\cdot e)}$$が成り立っている。またbもベクトルとして$${(a+b)\cdot e= a\cdot e + b\cdot e}$$も当然成り立つ。この2つの性質がある変数位置で成り立ってるとき、その変数に対して演算(※内積演算「$${\cdot}$$」)は線形であるという。
つまり内積は1番目の変数に対して線形である。

交換則

さて、今までは正射影されるオブジェクトとスクリーンを分けて考えてきたが、どちらもベクトルという意味では同じである。即ちここでスクリーンをオブジェクトと考え、オブジェクトを単位ベクトルの時にスクリーンとして考えればこれに対する内積を考えることが出来る(※正射影作用素は異なるものになる)。
ここで(*)という式の演算結果は第1変数と第2変数に対して対称になっていることに注意すると、a、bが互いに単位ベクトルの時は
$${a\cdot b = b\cdot a}$$・・・①
が成立する。また既知の式として
$${(ka)\cdot b = k(a\cdot b)}$$・・・②
があることを思い出すと、①の左辺の第1引数にて既に定義されてるスカラー倍を考えつつ、自然な交換則①を満たす為には内積の第2引数においても$${a\cdot (kb) = k(a\cdot b)}$$としてスカラー倍に関する演算式が満たされることが要請される。
これは2つの事を言っている。第1に内積の第2引数に対しても線形性が言えることである。作用素を2変数関数とみてそれぞれの変数にて線形性が言える場合、その作用素を双線形作用素という。第2に(*)はeが単位ベクトルでなくとも同じように定義されるということだ。
これで最も初等的な場合における内積が定義できた!

複素数へ拡張

同一のベクトルaに対する内積はオブジェクトとスクリーンが一致してるので、$${a\cdot a= a_1^2 + a_2^2}$$としてベクトルの長さ(※ノルムと呼ぶ)の2乗になる。
オブジェクトとスクリーンという定義の出発点的考え方から、複素ベクトルに対して上記式を定義として思うのはナンセンスである。なぜならば、一般的に複素数の場合は$${a_1^2}$$が複素数としての長さの2乗にならないからである。故、$${a\cdot b = a_1 \bar{b_1} + a_2 \bar{b_2}}$$と定義しなければならない。実数の場合も実は上記定義であったが、オリジナルのベクトルと複素共役のベクトルが一致しているので大丈夫であったのだ。

まとめ

この記事を通して、定義を作るという体験から上から謎に定義された内積を十分に理解することが出来たのではないかと思う。
しかしまだ分かってないことがある。内積を正射影として帰着し定義することは出来たが、じゃあそもそも正射影の有用性が本質的にどの部分にあるのか、などが典型的な疑問であろう。しかし、私が疑問を全て解決します(有料化はどうしよう・・・)。
次以降でやりたいことは、座標と内積の関係、関数空間の内積、確率論における分散の定義との関わりである。

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またね!!!


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