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100日漫画企画メイキング

週報を読んでくださっている人は、晩秋からバレンタインまで100日間毎日漫画を描いていたことをご存じと思う。企画用の手帳やらくがき帳を処分がてら、なぜやりはじめたのか、どうやって達成したか、過程を記事にして残しておきたい。創作できないときに過去の自分の記事に助けられることも多いので、これは自分のためである。

100日企画とは

趣味の二次創作で、100日間毎日漫画を描く企画。単発ではなく、「100日後に結婚する○○(カップル名)」という連載形式でした。旧Twitter上にて11月7日より開始、2月14日完結。

なぜやりはじめたのかと蛇足の話

単発の漫画はちょくちょく描いていたのだが、連載形式で描いてみたいと思ったことがひとつ。結婚式に関係する小ネタをいくつか思いついたので、どうせならその前後もふくめて描いてみようと思った。

それともうひとつ。

ちょっとネガティブな理由にはなるが、一次小説のほうで商業化する予定だった企画がとん挫してしまって、思わぬ時間の余裕ができてしまったから……。書籍化した本がある背後には当然、書籍化しなかった企画があり、こういうことって創作をしている人にはよくあることなんだろうけど、私はじつは二度目で、けっこう落ちこんだ。それが秋のこと。

この、立ち消えになった書籍化についてはくだくだと愚痴っぽい記事を下書きしていたが、昨今の出版業界に関する一連の騒動もあり、なんだか表に出しづらくなってしまった。ぜんぜんそんな規模のMe too話じゃなく、単に企画が立ち消えになったというだけなんだけど。

ともあれ書籍にするつもりでそれなりに作業時間も確保していたので、ぽっかりと時間が空いてしまった。それで、なにか代わりになるようなプロジェクトをと思ったのが理由のふたつめ。

というわけで、以降は時系列で企画の流れを書いていく。いつもどおり長話なのでご注意ください。

10月初旬―企画開始を決める・パイロット版作成

前述のようなことを考えたのが10月の頭で、それから企画の内容について練りはじめた。

無印のらくがき帳に、思いついたアイデアをメモしていく。

完結後にこのメモをシュレッダーにかけるのが一番すっきりして楽しい

らくがき帳をだいたい一冊、使いきったかなあ。左下にあるのは、100日間分のアイデアとスケジュールを管理するのに使った、100均のスケジュール帳。左側がマンスリー、右側がガントチャート形式になっていて、プロジェクト単位で創作活動を整理するのに便利だった。

原稿に使うブラシをためし書きしたり

100日毎日描くことになるので、原稿用のレイヤー構成を考えたりもした。

こういう構成で描いてました

お話のアウトラインを作るのと平行して、この頃、パイロット版を作ってみた。このあたりでは絵の雰囲気というか、どこまでラフに描くかをイメージしていました。毎日描くわけなので、作業時間がなくて崩れても「味がある」と思ってもらえるような雰囲気だといいな……。

パイロット版からの1カット

この絵の雰囲気が気に入って、お話の導入部が決まったので、思い出深いカット。

描けそうだなという見とおしができてからも、連載をやるかどうかはぐずぐずと悩んでいた。理由については、週報に書いた。

B. 企画すこしずつ詰める。やるならそろそろ腹を決めてストックを作っていかないといけない。プロットはだいたいできているが、プロットができてることと書ける(描ける)ことはイコールじゃないんだよな。書きつづけるためには自分がその企画を心底面白いと思えないといけないというのが最近の気づき。
今日は七枚(七日分)をざっと下書きして、一枚は清書してみた。線画を入れずにラフに、しかし見た人が分かりづらくない程度のクオリティで描くのにどれくらい時間がかかるのか? 背景を描くのは避けがたいが、自筆で描くのかAI生成に頼るか? AIを使うならラフな絵となじませることは可能なのか? などなど検証。

10月30日週報より

以前にも30日の企画をやったことがあって、作業量の予想はついていたが、「できそう」「面白そう」だけでは連載完結までもたないということは
明らかだった。文章だけなら勢いでいけるが、絵を描くとなると格段に作業量が増えるので。

企画を続けるには、たぶん、外的要因(漫画を読んで楽しみにしてくれる人からの好意的な反応)だけでは無理で、自分の中でこの話が疑いなく最高に面白いという情熱がないといけない。途中で熱情が醒めてしまったら、日常のなかでこれほどの作業量をこなす自信がない。そこに確信がもてるまで、けっこう長いこと逡巡していたのだった。

11月(企画スタート~24日)

上記のような迷いを経て、まあなんとか書けそうな見通しが立ったので、前日に告知してから企画を開始した。

初日から十日目くらいまでは、プロットはあったもののけっこう手探りで書いていた。

プロットはアウトラインエディタのMeryで書き、それをClip Studioのストーリーエディタに流しこんでから、画面上で直接ネームを描いていった(アナログは使用しなかった)。

ネームの一部

いま見ると、1ページあたりの情報量がちょっと少ないかな。

この月は二泊三日の出張が入っていたので、その分のストックを作るのに苦労したおぼえがある。出張先では、絵を描く道具は持ってきてないので、自由時間はプロットを作ってたかな。

12月(企画25~55日)

12月はクリスマスや年末行事、冬至があったので、お話に反映させやすかった。プロットやネームにあまり悩まなくて済んだ。

デート編があった

デート編は視点の表現に苦労したかな。ヒロインが画面に出てこないという縛りで描いていたので、デートらしい雰囲気を出すのが難しかった。それに、こういう甘酸っぱい恋愛ものってなかなか描かないので……。はじめて刀剣を観に行った博物館展示をそのまま写真資料として使ったので、思い出深い話になりました。

キス編もあった

ラフはこんな感じ。時間がないときはラフの線をちょっと整えて、そのまま出したりもしていた。

デート編は演出の難しさがあったが、続くパートは後半にバトルシーンがあって、作画がかなり難しかった。アニメをスケッチして参考にした。

アクションシーンのためのスケッチ

このバトルシーンがあるチャプターから、ストーリーの中心部に入っていく。難しいパートだったが、この頃はわりと早めに準備していて、演出を練ったりする時間もあった……。

1月(56~86日)

クライマックスがある期間で、プロットやネームに一番苦労した。思うにこのへんから時間が足りなくなってきたような。

朝チュンもあるし、、、

ヒロインの顔を出さずに朝チュンを描く難しさよ……。

なんとか形にはしたけど、楽しんでもらえる内容になったかどうか心配だった。

後半は結末に向けてのお話。

正月飾り回収編、あるいはお頭のせんちめんたる

このあたりから、お話としての下山準備に入る。心を動かされる(動かされてほしい)パートがあるので、つなぎの部分に気を配る。

で、これがそのパートの序盤。

「初期刀編」

お話を作るときに、メインストーリーとは別にひとつだけ謎というか伏線を入れておこうと考えていた。「○○と××が100日後に結婚する」ということはタイトルでわかるので、結末自体に驚きはないからだ。

その謎は……これはゲーム内の設定用語を使わずに説明するのは難しいのでそのまま描くが、「この本丸の初期刀は誰か」というもの。初期刀とは、プレイヤーが最初に選ぶゲームキャラで、プレイヤーにとって重要な意味をもつ。物語中のキャラクター同士の関係性を考察する上でキーとなるキャラクターと言える。

初期刀になりうるキャラクターは五人いるので、彼らを100日のあいだに順番に出して、一人ずつ候補から外れていくような形にした。途中でその仕掛けに気づいて楽しんでもらえればうれしい。仕掛けに気づかなくても、その誰かがわかってから読み直してもらう楽しみがあってもよい。そういう意図をもった唯一の伏線だった。候補者たちをいつ出すか、どのエピソードに絡めるかなどパズルのような面白さがあり、作っていて楽しかったところ。

初期刀の謎が解決したところで、ストーリーは結末に向かって収束していく。

アウトラインは作ってから企画に入ったと書いたが、クライマックス以降については実はあまり決めていなかった。結末部はクライマックスの内容しだいのところがあって、先に決めづらいのと、小説の経験上あまり悩まないパートだから。

今回も全体としてはそうだったんだけど、ページ数が少なくなっているなかでうまく着地させないといけないので、おさめ方が難しかった。書きたかったことを削った箇所もあったが、結果的にはよいパートになったと思う。

けっこう削った「VS初期刀」編

小説だと制約がないぶん、盛りこみすぎになりがちなタイプなので、内容を吟味して削っていく作業は難しかったし勉強になった。結果、コメントを見るに、言いたいことは伝わっていたようで嬉しかった。小説ももっと、とくにクライマックスは書きたいことを絞らないと読みづらいんだろうなと痛感した。

2月(87~100日)

企画の最終期間。このあたりが、企画の構想前に思いついていた「結婚式関係で描きたい小ネタ」が入る部分なので、書いていて楽しかった。

描きたかったネタ1

ラストの十日分は、そういう楽しさもありつつ、作画的には登場人物が増えて集合絵のコマが多く、大変だった。また、完結が見えてきたことで緊張感が切れてしまい、これまでより作業に時間がかかるようになったのも痛い誤算だった。小説ではそういう経験をしたことはないんだけど、漫画は作業が複雑なぶん、小説とは違った難しさがあるのかな。

ストックもなく、今日の更新分が完成するのが当日朝になり、時間ぎりぎりになり……。それでも完結まで原稿を落とさなかったのは運が良かったとしか言いようがない。自分や家族が病気したり、予定外の仕事が入ったりしなかったことをただ感謝です。

最後の数ページは和風の結婚式。私はだいたいの長編を結婚式で終わらせてるな。スーパーハッピーな大団円のなかにビターが一滴だけ入っているのが私の好みで、実はそういう構想もあったんだけど、うまく盛りこめなかったので今回は見送った。そういうわけで、一点の曇りもなくハッピーな結末でした。

読んでくださったかたにもおなじ読後感が届けば幸いです。

100日間漫画を描いての変化

ところで、この企画をはじめるにあたって、目的には書かなかったが、「100日漫画を描いたら、さすがに漫画/絵がうまくなるかも」という下心があった。100日、余暇のほとんどをつぎこんで描いたのだから、それくらいのボーナスは欲しいところだ。

で、100日企画が終わってみてどうかというと……正直、どちらもたいして変わっていないと思う。

企画の前に描いていたオリジナルの漫画がこれで

10月からエタってしまっているオリジナル漫画

で、企画の終わりあたりの原稿がこれ:

Day96

とくに絵が上達したという感じはしない。カラーイラストにいたっては、この期間中ほとんど描けなかったので、むしろ下手になっているような気もする。

理由について考えてみるに、やはり一日一枚というノルマがあるので効率化が必要で、3Dモデルやポーズ人形を使ってばかりいたからだろうか? あるいは、期間中は模写やクロッキーなどの絵の勉強ができなかったからかもしれない。

漫画にかぎらず、100日間にわたって絵を描くチャレンジはよく見かけるが、このことを考えると練習効果はそれほど高くないかもしれない。やはりある程度日数をかけて完成させたほうが、技術的には得るものが大きいように思った。

とはいえ、粗削りでも100ページ分の原稿が手もとに残ったわけで、手を入れればもっと完成度の高いよい原稿にできるはず。以前にも自分用の本を一冊ずつ製本したが、今回もまた本を作るかもしれないと思うと、それは楽しみだ。

だから、まあ、やってよかったとは言えるけど、もう二度と類似の企画はやらないです! ほとぼりが冷めたらまた似たようなことをやるタイプですが…… でも次はせめてもうちょっと時間の余裕があるような企画にしたい。

以上、100日企画の長い長いメイキングでした。本編を読んでくださった方、引用先でコメント書いておられた方には大変励まされました。ありがとうございました。

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