無料で百合を読もうとする乞食の戯言讃歌【キミが吠えるための歌を、 1/3】

認められたいという感情。

それは現代において「承認欲求」という言葉で表現され、ときに人間の邪心として扱われることも少なくはない。

然し、承認欲求は本当に邪心なのだろうか?

中学校で学修した通り、我々は社会的な生命体である。
であれば当然、社会に、社会を形成する人々に承認されなくてはならない。
でなければ人間ではなくなってしまいかねないのだから。

承認欲求が糾弾される理由として「純然であるべき行為の楽しみが冒涜されているため」といった主張が大衆的である。
行為は楽しみを得るために行われるべきものである。
行為は絶対的な目的である。
その目的たりえる行為を自身の欲求のために行うなど認められて良いものか、いいや、認められるはずがない。

然し、ここでは承認欲求の是非について決着させようというような意思はない。
ではどうしてここで承認欲求の話題を投じたのかと言えば、それはこの作品を通じて一度「承認欲求」というテーマについて考えていただきたく思ったためである。


今回紹介する作品は『キミが吠えるための歌を、』という作品である。
例によって事前情報ゼロ&ジャケ選&1・2話(無料分)オンリー。

既読の方々は引き続き、未読の方々は今から『一迅プラス』から試し読みページで一度目を通してからお読みいただきたい。


それでは、早速。




「否定されるのが怖くて本当の自分に鍵をかけた
でも
君が好きだと言ってくれたから
みんなに届けたい
私の歌(こえ)ーーーー」


物語の主人公・大神晴はコンプレックスを抱いていた。
それは自身の声である。
晴の声はハスキーで低い。
それは彼女の体が小柄であることとも相俟って、異質さを際立たせていた。


「(たった一言さえ喋れない
これじゃ中学までと何も変わんないよ…)」


自身の声を他人に聞かれたくないと願望する彼女は、進学した高校でも中学時代と同様に緘黙の状態を抜け出すことが出来ずにいた。
抜け出そうとしても叶わず、自己嫌悪を募らせていく日々。

そんな彼女には、一つの野望があった。


「たった一畳のクローゼットに段ボールを敷き詰めて作った 
秘密の収録部屋
ここが私のお城」

「これだけ続けてたらどこかでバズったりして!
そしたらレーベルからスカウトが来たりして…」

「そしたらこの声も
みんな認めてくれるはず…」



歌い続けていれば、誰かに認められるはず。
誰かに認められれば、みんなに認めてもらえるはず。
そう信じ、彼女は歌う。



承認欲求を抱く人間には共通点がある。
それは非常に単純明快なもので、「他人に認められていない、あるいは認められていないと思い込んでいる」という点である。

この物語の主人公はそれを「声」という唯一的なものと設定されているが、現実にはより普遍的なコンプレックスが存在している。

それは容姿や体格、学力、財力、センスなど、多岐にわたって点在している。

その個人一人ひとりの弱さを克服するための戦いこそが、他でもない承認欲求の発露であると言えるのではないだろうか。
この作品は、その様を実に青臭く、然し輝かしく描写している。

彼女に余計な屈託はない。
自身が認められるために行動する。

彼女の年相応の精神性、行動力は物語を正確に理解しようとする中で不可欠の解釈要素となってくるだろう。

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