百合アンソロジー紹介【リリーアンドアイビー】

百合作品は連載作品のみにあらず。

百合というジャンルは遠い過去からとある文学形態と道のりを共にしてきた。

それはアンソロジー(短編作品集)である。

作品に一貫するテーマをあらかじめ設定し、そのテーマに沿った数本の作品を一冊の本にするのがアンソロジーの特徴である。
今日に至るまで数多くの作品が出版されているが、その中でも『つぼみ』や『エクレア』などは大御所作品であるため深く認知されているかもしれない。

然し傑作として歴史に名を連ねる連載作品はあれども、アンソロジーから名を挙げた作品を私は未だ知らない。

実に由々しき事態である。

これは決してアンソロジー作品のクオリティに問題があるという訳ではない。
原因としてはアンソロジー自体が商業的な価値を見出し難い作品形式であるため、メディアが取り上げにくいということが挙げられるだろう。

なればこそ、私のような物書きが伝えていくべきである。

そういった意図で『無料で百合を読もうとする乞食の戯言讃歌』とは別にアンソロジー専門の読書感想ページを立ち上げたという次第である。

読者にとってこの記事が百合アンソロジーに足を踏み入れるきっかけになることがあれば、それ以上に喜ばしいことはない。


今回紹介するのは『リリーアンドアイビー』という作品である。
テーマは「ケンカップル百合×性愛アンソロジー」。

どの作品も粒ぞろいであったが、中でも特に印象的だった『お前以外、どうでもいい。(nipi)』という作品を紹介したい。

それでは、早速。



あらすじ

人数合わせで参加することになった合コンで、京子は幼馴染のカリンと鉢合わせる。
二人はまさに犬猿の仲で、合コンの席でも周囲の男女に構うことなく喧嘩を始める。
彼女たちの喧嘩はヒートアップし、その方向性は徐々に痴話的なものになっていった。
最終的には困惑する一般合コン参加者を置き去りにして二人はホテルに駆け込み、そのまま……



はっきり言って、この作品の話の筋自体はテンプレート気味である。
しかし、おそらくこれは意図的にテンプレートに寄せているのではないかと思われるのだ。
なぜそう言えるのか。
それは、この作品は「最後の一ページ」に価値が集約される作りになっているからである。

どういうことか。

あらすじで述べたように、京子とカリンの喧嘩は徐々に痴話喧嘩めいてくるのだ。
その喧嘩の中には、二人の「男性経験」がほのめかされるような言葉が散りばめられている。
同じように、その後の性愛描写のシーンでも男性経験についての言及がある。

それを読んだ読者は当然こう思うだろう。ああ、この人たち「遊び人」なのか、と。
そう認識し、読者はページを進めていく。

しかし、最後の「二人の独白」によってその認識が覆されるのだ。




「「もし私が」」
「「実はお前としかセックスしたことないって言ったら」」
「京子」
「カリン」
「「どんな顔すんだろ」」




そう。
先程まで男性経験でマウンティングをし合っていた2人は共に処女だった、というラストを迎えるのである。

最後の最後に明かされた彼女たちの潔白。
そして証明された2人の純愛。

そこに百合が咲いた。

この話を読んだ喫茶店で、感嘆のあまり数分間天井を仰いでいたことが鮮明に記憶に残っている。


実に素晴らしい作品である。
この作品が「短編だから」という理由で陽の目を見ずに埋没するなど、到底看過出来ることではない。そういった理由でこの記事を作成したのだ。
加えて言うと、ストーリの完成度もさることながら、イラストもべらぼうに美しい。

この作品は是非読者の方々自身の目で確かめていただきたい。






余談

タイトルの「アイビー」とは、植物の蔦(ツタ)のことを指す。
正式な和名は「セイヨウキヅタ(西洋木蔦)」。

花言葉は「永遠の愛」「誠実」「友情」「不滅」「結婚」











「死んでも離れない」


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