見出し画像

影によって描かれる、鮮やかな情景

 影というのは、時折、より鮮明な情景を想起させる。
 当時、これを撮った私の目には、もっと鮮やかな色彩が見えていた。夕日に照らされているとはいえ、砂浜には白色が見えたし、草にも、具体定な橙があった。ただ、これがカメラの気難しいところだろう。夕日も、人も、情景もなどと、欲張りはさせてくれない。満足げに画面を見てみたら、茶色っぽい地面と、すこしの水と、燃え滾る夕日と、二つの黒塗り。飼い犬にかすかな色味が許されたのは、この際、幸とみなすか否か。
 しかし、ここで逆説的ではあるが、この方がかえってよく見える、と私は思う。決して強がっているのではないし、反骨精神というのでもない。人は、鮮明に見えないからこそ、その情景を上手く想像し得る。唯、それだけである。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?