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全盛期の過ぎた桜

 私はこれを、桜として撮ったのではない。

 花見の季節はとっくに幕を閉じたが、せっかく写真があるのだから、ここに日記としたい。
 当時、花見をしに来た身分であるのになんだが、美しく整った桜に飽き飽きしていた。桜は、大勢の人々を魅了し、その足元に屈服させた。彼らは拝み、ほめたたえた。まあ、中には、桜を見に来たのか、桜は背景に宿した自分を、画面越しに見に来たのかわからないのもいたが。
 しかし、この桜は美しかった。適当なつる植物にいいように巻き付かれ、樹皮の割れ目を実効支配する藻に耐え忍んでいる。自身のその枝においても、そこかしこが折れて、全盛期とは言えないありさまだ。
 だからこそ私は、そこに美しさを見、一枚写真に収めた。
 彼は今もなお、一つの樹木として、懸命に生き抜いていることだろう。
 

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