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気づけば社員のような働き方に!? 「偽装フリーランス」って何?

フリーランスとは、いわば「自律した働き方」の実践者。仕事の裁量と経済自立性を前提に、事業リスクを負う責任と覚悟を持って自身の働き方を選択しています。

ところがフリーランスであるにもかかわらず、働く時間や場所の拘束を受けたり、仕事の進め方を一つひとつ指示されたりなど、自律的ではない働き方を取引先から強いられている人も少なくないようです。

フリーランス協会では問題提起のため、フリーランス白書2020でこの状況を「偽装フリーランス」と命名。具体的にどういう状態のことをさすのでしょう? 本稿で詳しく解説します。

目的をはき違えたフリーランス活用が問題

フリーランスが企業(仲介事業者も含む)と仕事をするとき、一般的に業務委託契約を結びます。業務委託とは仕事の成果物や、役割に合った業務の遂行に対し対価を支払うこと。このとき、発注者である企業と受注者であるフリーランスは、同じ事業者同士であり、本来は対等な関係にあります。

つまり働く場所や時間、業務の手順、また、そもそも業務を引き受けるか引き受けないかは、フリーランス側に裁量があるということ。発注者が指揮監督を行うことはできないのです。

企業のフリーランス活用は、本来であれば専門性やスキルの調達、一時的な人手不足への対応が目的のはず。しかし、残念ながら一部の業界・企業では、「社会保険料の負担を回避したい」「労働基準法の規制に縛られない形で働いてもらいたい」と、フリーランスが置かれた立場を都合よく解釈して、安価で融通のきく労働力として扱う実態が見られるようです。

潜在的に偽装フリーランスが多い業界として指摘されることが多いのは、軽貨物、文化芸術、エステ・リラクゼーション、放送・出版、専門学校・スクール、旅行など。悪質的なものばかりではなく、無知や誤解によるケースも散見されます。

こんな経験ありませんか?
□業務や休憩時間の開始・終了時にタイムレコーダーの打刻や勤怠報告を求められる
□決まったシフトや当番に基づき働いている
□仕事の進捗をアプリで管理される
□当初の契約内容にない業務を指示されて断る余地がない

また逆に、偽造フリーランス防止を気にする企業が保守的になりすぎてオーバーコンプライアンスに陥ったり、フリーランスとの取引自体を回避したりと、企業とフリーランスの双方にとって働きにくく、フリーランス活用をはばむ状況が生まれていることも深刻な問題です。

こんな経験ありませんか?
□取引先の社内規定に「フリーランスはランチや飲み会に誘ってはいけない」という内容がある。
□「会社の方針でフリーランスとの取引は原則できなくなったから派遣契約に切り替えて欲しい」と言われた

カギは労働者性があるか

業務委託契約を結んだ事業者として労働法の保護を受けていないにもかかわらず、実態は裁量のない「偽装フリーランス」の働き方を強いられているとすれば問題です。
けれども、フリーランスも仕事を進める中で、取引先の指示や判断を必要とする場面も多いもの。どうなると偽装フリーランスにあたるのか、線引きが難しいところです。

カギとなるのは「労働者性」。

「労働者性がある」とは、企業と働き手の関係を労働基準法の労働者の概念に照らし合わせたときに、労動者に相当する状態のこと。契約書上の業務委託契約(または請負契約や準委任契約)といった形式や名称にかかわらず、労働者性が認められれば労働基準法の保護対象になります。

裏を返せば企業はフリーランスに、労働者性を肯定されるような働き方をさせてはいけないということ。どうなると労動者性が肯定されるのか、企業もフリーランスも認識しておくことが大切でしょう。

押さえておきたい 指揮監督の3つの観点

労動者性の判断基準は複数あり、どれか一つが当てはまったからといって、即ち労働者ということにはなりません。労基署や裁判所が細かい実態把握を行い、複数の基準を考慮して総合的に判断します。

複数の判断基準の中でも、特に労動者性を肯定する強力な要素となるのが、発注者側が「指揮監督をしている」状態。特に次の3つに制約が生じる場合は、指揮監督下の労働にあたります。

a 諾否の自由「その業務を請けない自由はある?」

仕事の依頼、業務に従事すべき旨の指示等に対する諾否の自由の有無

諾否(だくひ)とは、承諾するかしないかということ。
つまり、締結済みの契約に含まれない業務の依頼があったときに、フリーランス自身に引き受けるか、断るかを決める裁量がない場合は、「指揮監督下の労働」にあたります。

たとえば、営業組織の育成強化の仕事を請けていたフリーランスにとって、営業活動は契約範囲を逸脱した業務。企業側は業績が芳しくないからといって、フリーランスに営業して回るよう迫ることはできません。もし、営業活動を委託したいのであれば、新たに契約を結ぶ必要があります。

b 指揮監督の有無「こまかすぎる指示&指定、受けてない?」

業務遂行上の指揮監督の有無

前述のとおり、フリーランスは自律した事業者であり、フリーランス活用の目的は専門性やスキルの調達であることが前提です。
ということは、業務遂行の具体的な手順や進め方は、業務の性質上の理由がない限りはフリーランスに一任すべき。企業側はフリーランスに対し、裁量や創造性を発揮する余地のないほど、具体的に指定することはNGといえます。

たとえば、1から10までマニュアルや台本どおりに行わなければいけない業務や、すき間なくタスクを依頼し続けて、フリーランス側の裁量をなくしてしまうようなことがあれば、見直しが必要でしょう。

一方でシステム開発の仕様書や、デザインのグランドルールなど、業務の性質上、一貫性や統一感が求められる場合のレギュレーションは指揮監督にはあたりません。また安全に仕事を進めるためのルール、たとえばネットワークセキュリティや、安全衛生上の観点から設けられた決まりなども、当てはまりません。

逆に気をつけたいのは、企業側のオーバーコンプライアンスです。現場の社員に業務の進捗確認や進め方に関する質問を禁止するとか、チームの飲み会やキックオフに参加させないというのは、さすがにやり過ぎ。仕事を円滑に進めるうえでのコミュニケーションは、むしろ大切にしたいものです。

c 拘束性の有無「働く時間と場所の自由はある?」

拘束性の有無

業務委託では、仕事の完成や業務の遂行に対して報酬を支払うもの。原則として、いつ、どこで仕事を進めるかは、フリーランス側に裁量があります。よって企業は、業務の性質上必要な場合を除いて、勤務場所や時間を指定したり、労務・勤怠管理を行ったりすることはできないのです。

たとえば、開発やデザインなどのクリエイティブ業務で、毎日決まった時間の出社を求めたり、勤怠記録の提出を促したりと、場所や時間を拘束、管理するのはNG。特別な理由なく休憩時間を指定するのも、指揮監督下の労働とみなされます。

ただし、必要なミーティングの設定や、業務の性質上、特定の日程や場所で作業をしてもらわなければ意味がないという場合に実施日や場所を指定することは、問題ありません。

当事者が「知っている」ことが大切

労働者性が認められる条件は、先に述べた使用従属性の3つの観点だけではありません。報酬の労務対象性(働いた時間ではなく、契約遂行の対価として報酬を設定できているか)や、事業者性(フリーランスが所有する機材で仕事を進めているか、労働者よりも高い水準で報酬が設定されているか)など、労働者性の判断を補強する複数の要素も加味しながら、検討していく必要があります。

フリーランス協会では2024年2月に、フリーランスの労働者性の判断基準や要注意事例を整理した『偽装フリーランス防止のための手引きを公開しました。主にフリーランスと取引する事業者のコンプライアンス教育をねらいとしたものですが、自己防衛のためにも、当事者であるフリーランスこそ知っておくことが大切です。

『偽装フリーランス防止のための手引き』のプレスリリース
https://blog.freelance-jp.org/20240220-20849/

「もしかしたら、私の働き方って……?」と迷ったら、発注者や仲介事業者に手引きを見せて相談してみましょう。それが難しい場合は、フリーランス・トラブル110番やお近くの労働基準監督署に声を上げることも有効です。

フリーランス・トラブル110番
https://freelance110.jp/
全国労働基準監督署の所在案内
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/location.html

何より大事なのは、事業者とフリーランスの双方が立場を尊重し合うこと。互いがルールを理解し、配慮し合うことで、いい仕事につなげていきたいものです。

文/たなべやすこ
フリーランスライター/ 『フリパラ』編集メンバー。
話し手・届け手・読み手の「健やかな生きざま」に、ほんの少しでもつながる期待を込め、オウンドメディアや個人出版、Web制作などに携わる。趣味はプチリッチフード探索。

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