忙しくても「頭の中は自由」。5児の子育てで辿りついた”諦めない”工夫【調査・渉外/後藤潤子】
フリーランス協会で働く人を紹介する「突撃!フリーランス協会の中の人」。
今回は「フリーランス白書」の調査設計・分析の主担当であり、渉外担当として法人会員との連携窓口も担う後藤潤子をご紹介します。
フリーランス新法やインボイスの2割特例の実現など、フリーランス協会の政策提言活動の礎となっている「フリーランス白書」。そして、その白書でより多くの、より多様なフリーランスの声を集めるため、協会を知ってもらうエンジンとなっている「ベネフィットプラン」。フリーランス協会の根幹とも言える2つのプロジェクトの両方に携わる超重要人物が、後藤です。
とても優しくて全方位的な慈しみ深さにあふれ、話し方もおっとりしているのだけど、データとの向き合いは極めて精緻でシャープな後藤に、外部ライターが突撃インタビュー!
「マーケター・学習塾の経営・地域活動・5児の母業」のパラレルワーカー
──さっそくですが、潤子さんのお仕事を教えていただけますか?
後藤:大きく2つの軸があります。1つはフリーランスのマーケター&リサーチャーとしての活動で、『フリーランス白書』など協会のフリーランス実態調査を中心に調査設計・分析・レポート等を一気通貫で行っています。また協会では、渉外業務として、協会を支援してくれている企業との窓口役も担当しています。
もう1つは子育て・教育関連の活動です。私自身が小学生から大学生まで5児の母で、これまでも子育て支援に携わってきたのですが、この8月からは新たに学習塾の経営を始めて。
──ええと……情報量が! マーケターとして働かれていて、5人のお子さんも育てながら、新たに学習塾の経営もスタートされると。塾はいったい、どんな経緯で始めることになったのでしょう?
後藤:そう思いますよね(笑)。もともとは子どもの居場所づくりに興味があり、地域活動として取り組んでいました。そんなあるとき、我が子の通う塾を長年運営されてきた先生に、「引退を考えているから、よかったら後を継がない?」と声をかけられたんです。私もびっくりでした。
子どもの居場所づくりにも通じる取り組みですし、やってみたい気持ちはありましたが、時間的な余裕がなく、最初は「無理だ」と思ったんです。でも協会での活動を通して、「まずは打席に立たないともったいない。本当に打てないと思ったら、空振りして出ればいい」と考えるようになって。検討を重ね、1年かけて準備を進めていきました。
──ちなみに、地域活動ではどんな取り組みをされてきたのでしょう?
後藤:2019年に「すみだたちばなママパパの会」というNPO団体を立ち上げて、墨田区の社会教育団体として登録をしました。この地域は学童が小学3年生までなので、その後の居場所づくりをしたかったんです。ただ、コロナ禍や関わる人の負担の問題で、活動しづらい状況がありました。
そんななか、近くの児童館の館長さんが声をかけてくださり、高齢者支援センターの方も加えて、「それぞれの1割の力を持ち寄って地域の課題に取り組んでいこう」と、「One SUMIDA Project」を立ち上げました。今はそこに団地の自治会の方々や、近隣大学の先生方にも入っていただき、地域の現状についていろいろと話し合う場になっています。
──そうした活動の背景もあって、今度は塾という新たな居場所づくりが始まるのですね。ところで、それぞれのお仕事のバランスは?
後藤:地域活動は、団体のモットーでもある「1割の力」を超えないように意識しています。残りの9割のうち、5割が協会関連のお仕事で、4割は、これからは学習塾経営に使っていくことになる予定です。調査活動が入る時期は、協会のお仕事の割合が少し増えるかもしれません。
──パラレルに働くなかで感じたことはありますか? たとえば、リサーチ視点が塾の経営に生きる、など。
後藤:共通点に気づくことはありますね。双方に大事なのは、事例をいかにたくさん持っているかと、それに基づき俯瞰的な視野で考えること。リサーチではある程度の回答者数がないとデータの信憑性がなくなってしまいますが、学習支援でもそれは一緒です。塾も、いろいろなお子さんが課題を乗り越えていく事例を拝見することで、お子さんに合わせた多様な導きができるようになると思っています。
子育てのモットーは「失敗してもいい」。尻拭いが親の仕事
──5人のお子さんと暮らしながら、仕事や家事をどうやりくりされているのか気になる読者も多いと思うのですが。どんな工夫をされていますか?
後藤:まずは子どもたちに「自分でやれることは自分でやろう」と自立を促していることでしょうか。先回りして細やかに対応するのがいい母親、との思いにとらわれていた時期もありましたが、今年で末っ子も小学生。小学生以降は意識的に少し手放して、「失敗してもいい、そのときには親が尻拭いしよう」くらいの気持ちで接しています。
それから、頼れるところはテクノロジーに頼ること! スケジュールは絶対に全員分覚えられないので(笑)、プライベートはTime Tree、仕事はGoogleカレンダーを活用して、家族や自分に通知がいくようにしています。
また7人家族だと洗濯物も食器も大量のため、食器洗浄機は外国製の大容量のもの、衣服の乾燥機もガス式を導入し、可能な限り効率化してきました。
テクノロジーを活用しつつ「手放せるところは手放す」ことで、その分思考の空きスペースを増やすことは心がけていますね。
──すごい! 徹底的に「思考の空きスペースを増やすには?」を追求するなかで、今の形をつくりあげてきたのですね。
後藤:実は、子どもたちが小さい頃は正社員だったこともあり、17時半にぱたんとパソコンを閉じて席を立ったら一切仕事ができず、劣等感を抱いていたときもあったんです。
でもあるとき、「あ、頭の中は自由だな」と気づいて。保育園のお迎えに行っても、ご飯の準備をしていても、頭の中は自分の好きなように使えるなと。思考の空きスペースを増やすにはどうしたらいいか?を追求するようになったのは、そんな背景もあるかもしれません。
調査のすばらしさを実感した、7,000件のアンケート
──調査関連のスキルは、どうやって身につけてこられたのですか?
後藤:きっかけは、新卒で入社した化粧品メーカーで、ホームページの立ち上げや愛用者さんとコミュニケーションの場としての会員組織づくりを担当するようになったことでした。そのなかで私、どうしても愛用者さんの声が聞きたいと思ったんですね。
当時はまだインターネットアンケートの黎明期で、安価なアンケートシステムもなく、愛用者さんも「作っている人に声なんて届かない」と思っていた時代。そんななか、問い合わせフォームを使ってなんとかアンケートの仕組みを用意したら、約7,000件もの回答が一気に来たんです。
愛用者さんたちは、化粧品の使用感やエピソードなど、本当に熱心な声を寄せてくださって。私たちは感動して、泣きながら読みました。ユーザーの方々から意見をいただく調査のすばらしさを実感した原体験ですね。その後、子育て情報メディアの会社に転職してからも、子育て世代のリアルな声を寄せていただくリサーチ業務を担当していました。
──調査業務の出発点は、「ユーザーの声を聞きたい」という潤子さんの探究心だったのですね。
後藤:好奇心や探究心の背景には、両親ともに研究者であることも関係しているかもしれません。子どものころ、夏休みの自由研究では親が張り切って、テーマ設定を手伝ってくれていました。たとえば「アゲハ蝶がさなぎのとき、緑のセロハンを貼った箱と、オレンジのセロハンを貼った箱に入れておくのでは、羽化したとき羽の色が変わるのかどうか?」とか。
答えを与えるのではなくて、「どうなんだろう?」と一緒に探求することを楽しんでくれたんですね。答えがないなかでもずっと考え続けることは、両親から教わったことかなと思います。
ちなみに私の母は時代的に、女性だからという理由で役職につくのが難しい時期もありました。でもあるとき大学で理科教育のポストを得て、その後は理科教育を推進し、大学の学長になったんです。もしかすると教育への探求心は、母から受け継いだのかもしれません。
自分らしく働くための手段が独立だった
──5回の産育休を活用しつつ、23年間、正社員として働かれてこられた潤子さん。独立のきっかけは何だったのでしょう?
後藤:子育て情報メディアの会社で5人目を産んで復職したタイミングで、長男が高校に入って毎朝の弁当作りが始まり、5人目の夜中の授乳も重なって……。さすがに正社員として働き続けることは難しいと感じ、働き方を変えようと思ったんです。
そんな折、大学の研究活動をお手伝いできるチャンスが舞い込み、じゃあ個人事業主になろう!と開業届を出しました。子育て情報メディアの会社にも契約社員という形で残りつつ、個人事業主として研究事業の手伝いを始めたんです。
──働き方を変えてみて、どうでしたか?
後藤:家事や育児と並行して働きやすい環境を手に入れた一方、最初は自分自身のスキル不足を思い知って落ち込むこともありました。会社員のころは、出社するだけでミッションの一部を果たす感覚がありましたが、個人事業主はリモートで作業する分、より「成果」や「スキル」が問われると感じます。自分には足りない部分がまだまだある、と再認識しましたね。
ただその経験も、できてよかったと思います。じゃあどう変わったらいい?と考えて、うまくできる人のやり方を真似したり、入念に準備して打ち合わせに臨んだりと試行錯誤を重ねていきました。最初は「全部できない」気持ちでしたが、検証していくうちに、「この部分はできない」「この部分は準備すればできる」と切り分けられて、自分の頑張りどころがわかったんです。
今となっては、スマホがあれば料理しながら連絡を返したり、資料を更新したりもできるので、本当にありがたい働き方だなと思っています。
「まとまった数の声」を届けることで、社会を変えていける
──フリーランス協会との出会いは?
後藤:事務局メンバー募集の記事を見て、代表理事のまりさん(平田)と事務局長の綾子さん(中山)に会いに行ったのが2019年の2月。その8月、ハラスメント調査の集計分析とレポーティングを頼めないか?と相談をいただいたんです。
スケジュールや自分のスキルに不安もありましたが、社会的な意義は理解していたので、「とにかく私にできることをやろう!」と気持ちを奮い立たせて臨みました。調査の回答には、読むのがつらい体験談も多くありましたが、それぞれ、一人の声では「あなたもいけなかったんでしょう」と言われて終わってしまうこともある、といった現状もわかってきました。
そんななか、調査としてまとまった数の声を集め、公の場で発信することで、一つひとつの声が大きな流れになることを、記者発表会を通して私も目の当たりにしたんです。調査結果をもとに「フリーランスへのハラスメント防止対策等に関する要望書」を厚生労働省に提出するアクションを見て、「ああ、協会がやろうとしているのはこういうことなんだ」と実感しました。
同時に自分自身も、それまではスキル面ばかり気にしていましたが、何よりフリーランス当事者であり、フリーランスの方々の気持ちがわかる人間だからこそ、協会の調査に関わることに意味があるのだと理解できたんです。
──その思いのもと、協会の調査やレポートの設計ではどんなことを意識されていますか?
後藤:まずは、シンプルであること。協会の調査票が届く会員やフォロワーは、2023年9月末現在9万7000人以上いらっしゃって、業種や世代もさまざまなので、どなたにもわかりやすい言葉づかい、設計を心がけています。結果を伝えるときにも、複雑な分析が必要な設問より、シンプルな問いやその回答が一番響くと信じています。
それから、回答のプロセスを通じて自分の考えが整理されたり、新たな視点に気づけるような設計も目指しています。この前の調査でも「回答するなかで、新しい気づきがあった」と言ってくださる方がいて、すごく嬉しかったです。もちろん課題や不安も聞かなければいけませんが、未来に目を向けられるような設問も1問は入れるよう、心がけています。
──それは回答者にとっても嬉しいですね。この記事を見て「答えてみようかな?」と思う方もいらっしゃるかも。
後藤:ぜひぜひ。ちょうど今、フリーランス白書2024のアンケートを実施中です。今年は、インボイス、フリーランス新法のテーマがメインです。インボイスについては、これまで免税事業者だった人が不利益を被ることなく、しっかり価格転嫁していけるように、施行後の実態を可視化して課題を炙り出したいです。フリーランス新法は来年の施行に向けての認知や期待、また新法の付帯決議ですべてのフリーランスが労災保険に入れるようにしようという話があったので、業務起因の事故や病気の経験も聞いています。
政策提言にあたっては「そのデータはどの程度代表性があるか?」を問われるので、何人の方が回答しているか、がとても重要です。私たちが責任をもって然るべき先に届けますので、フリーランスにとってよりよい環境を整備するためにも、一人でも多くの方に答えていただきたいですね!
基準は「自分の大事な友人に心からおすすめしたいか」
──渉外では、どのような業務を行っているのでしょう?
後藤:協会のミッションである「誰もが自律的なキャリアを築ける世の中へ」を果たすには、多様なステークホルダーとの協力関係がとても大切です。そこで、企業から非営利団体まで、さまざまな法人会員との連携を担当する窓口を担当しています。
気をつけているのは、協会の「ビジョンへの共感度」と「ミッションへの貢献度」を重視して、しっかりアライアンス先を見極めること。有難いことに毎月複数の新規法人入会のお問合せを頂くのですが、自分も1人のフリーランスとして「自分や、自分の大事な友人に自信をもっておすすめできるか」という視点を大切に、入会や協業のお話を進めさせていただくようにしています。
──会員さんからの反響が大きい取り組みにはどんなものがありますか?
後藤:たとえばIBMさんが社会貢献プログラムとして提供してくださっているオンライン学習プラットフォーム「IBM SkillsBuild 」はそのひとつです。
もともと協会では2020年からすべての会員の方々に「IBM SkillsBuild」と「Udemy for IBM SkillsBuild」を無料提供していたのですが、ここで会員の方々が予想をはるかに超える勢いでアクティブに学習してくださっているのをIBMさんの方で見ていてくださり、「運営パートナーになりませんか」と協会にお声がけくださったんです。
そこで2022年11月からは運営パートナーとして協働させていただくことになり、会員の方々からも喜びの声を寄せていただいています。フリーランスの方々は、本当に学びに熱心。協会経由で非常にたくさんの方々にご登録いただいており、アクティブ率も水準よりも高く、IBMさんも驚かれています。私としては、そんな会員の皆さんがひたすらに誇らしいです!
また、今年の6月から一般会員向けに提供開始したフリーランス協会限定のZoomライセンスも大好評です。おかげさまで当初の予想を超えて多くのお申込みをいただき、その反響の大きさにzoomの日本法人であるZVC JAPANさんも大変喜んでくださって、ご厚意で10月からはプランを更にアップグレードしてご提供してくださるようになりました。
「やり方を変えたらできるんじゃない?」で、キャリアを拓く
──潤子さんにとって、協会で働き続ける魅力とは?
後藤:協会の事務局メンバーには、「社会が変わったらいいなあ」ではなく、「社会を変えるためにはこれが必要だから、こんな準備をしよう」とアクションしている人がたくさんいます。そこに触れられるのが何よりうれしいです。
しかも皆さん、他の事業やプライベートに忙しいなかで、「その状況でやるにはどうしたらいいか」を考えて、方法を工夫している方ばかり。私が一度は「無理」と感じた塾の経営にチャレンジしようと思えたのも、「やり方を変えたらできるんじゃない?」という姿勢を学べたからだと思います。
たとえ何か失敗しても、「このやり方はだめだった、じゃあ次は違うやり方を試そう!」と思えるようになったことは、一番の収穫です。
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聞き手の意図を汲み、わかりやすくお話を聞かせてくださった潤子さん。マーケター、5児の母、学習塾経営、地域活動と3〜4人分の役をお一人で回すなんて、いったいどんな魔法?と思っていたのですが、お話を伺ってわかったのは「そこにあったのは魔法ではなく、飽くなき探究心と、冷静な課題分析、解決のための仮説立案、検証の繰り返しだった」ということでした。
すべてを自力でどうにかしようとするのではなく、手放せることは手放し、思考の空きスペースをつくることで、新たな挑戦もできるようにする。一匹狼になりがちなフリーランス勢だからこそ、大切な考え方だと思いました!
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