コロナ禍のイベント控えで需要が激減したクラッカー会社を、バイヤーのプロ人材と二人三脚で支援 〜エッセンス株式会社 川嶌陽子さん
フリーランスとフリーランスを活用する企業のさらなる成長や活躍を目指し、今年も開催される「フリーランスパートナーシップアワード2022」。
本記事は、エージェント部門1次審査を通過したファイナリスト、エッセンス株式会社 川嶌陽子さんの事例をご紹介します。
パーティークラッカーを製造・販売する愛媛県の老舗メーカー株式会社フジカの販路拡大や新商品開発において、絶対に成果を出すという強い意志を持ち、時には自ら手を動かしながら真摯に伴走支援を行ってきました。
先祖の教えを守り、地域の中小企業を元気にしたいと奔走する川嶌さんにお話を伺いました。
コロナ禍でパーティーが激減、経営危機に陥ったクラッカー屋さん
—— まずはエッセンスさんの事業内容を教えてください。
「新しい仕事文化をつくる」をミッションに掲げ、雇用にこだわらない人材・知見の流動化を支援している企業です。フリーランス・副業人材の中でも、主にハイクラスのプロ人材を企業にマッチングする、「プロパートナーズ」事業を展開しています。
—— 今回エントリーいただいたフジカさんのプロジェクトは、どのようなきっかけではじまったのでしょうか?
2021年の3月頃、弊社が提携している四国銀行から、フジカさんについて相談がありました。
フジカは、昭和60年に創業し、クラッカーや投げテープ、くす玉、ブライダル演出など、パーティーグッズを扱っている企業です。特に主力事業のクラッカーは、火薬を使うため許認可が必要で、日本全国で許認可を持つメーカーの中でパーティークラッカー製造メーカーは同社を入れて2社のみ。現在、2代目の金子恭大社長が経営されているのですが、国内では、他に担い手がいない業界です。
—— クラッカーは2社でシェアを分け合う寡占市場なのですね! どんな相談が持ち込まれたのでしょうか?
もともと、パーティーグッズを使用する若年層の人口減少により、デパートなど小売り店舗での売り場縮小が進んでおり、結婚式を挙げるカップルの数も年々減っていたことで、まとまった需要が取りづらくなっていました。そこに追い討ちをかけるようにコロナ禍となり、イベント数が激減したことからクラッカーの販売数が一気に落ち込んでしまったのです。
新たな販路開拓をしようにも、これまで営業や販路開拓は金子社長と取締役のみで行ってきており、職人さんの高齢化や人材不足も表面化する中で、なかなか手が打てない状況でした。
—— それは大変でしたね。川嶌さんは、どんな提案をしたのですか?
最初に相談されたのは、新たな販路の開拓でした。新しいことを仕掛けていきたいが、そのためのノウハウや人手が社内にないということでした。
しかし、お電話やオンラインで2~3回ヒアリングしながら課題を整理していくうちに、販路開拓をしても商品力がないと売上回復にはつながらないですよねということで、販路を広げる力を持ち、粗利率も改善できる、高付加価値の新商品開発が優先だと、社長にもご納得いただきました。
そこで、新商品開発のプロフェッショナルを紹介することになったのですが、一言で商品開発といってもさまざまなアプローチがあるので、異なる強みを持つ3名を提案しました。
具体的にいうと、お一人目は、大学や研究機関とのネットワークが豊富で、産学連携の製品開発経験が豊富な、技術目線を持っている方。お二人目は、大手コンビニで約700品目の商品開発やバイヤーを経験したあと、エステ会社で外販ブランドを立ち上げ大手雑貨店等へのチャネル拡大を行ってきた、バイヤー目線を持っている方。三人目は、消費財の新商品企画からデザインマネジメントに約10年間携わり、100以上のブランドやヒット商品を生み出してきた、デザイン目線を持っている方です。
—— 川嶌さんはどういった視点でその3名を候補として選んだのでしょうか?
企業側の課題を聞いて反射的に人材を探すのではなく、本質的な課題はどこなのか、1レイヤー解像度を上げて、複数の仮説から人材要件を考えるようにしています。
今回は、クラッカーという技術を他の商品に転用することを考えられるスキルということで、技術目線、バイヤー目線、デザイン目線という3つのアプローチを検討した結果の人選でした。
—— 提示された課題を深掘りし、人材要件を整理するのは、ミスマッチを防ぐことにもなり、エージェントが介在する大きな価値ですよね。フジカさんはフリーランスの登用は初めてだったのでしょうか。外部の人材に対する不安はなかったですか?
もちろん、不安がないわけではなかったと思います。特に、費用の面でいえば、皆さん素晴らしい経験と実績をお持ちのプロ人材でしたので、2~3時間の打合せを毎週もしくは隔週で行うのに、月額25~40万円ほどかかります。どのくらいのスピード感で開拓先のキーマンと会えるのか、どのくらいの売上が見込めるのかなど、費用対効果は気になるところですので、打ち合わせの際に丁寧に説明しました。
今回提案したプロ人材は、過去にも複数のマッチング実績がある方だったので、この時はどういった体制を組み、何カ月後に商品を棚に置くことができたという具体的な事例を話しました。また、フジカさんと長いお付き合いのある四国銀行さんが、当社と別のプロジェクトでご一緒させていただいた実績をお話しくださったこともあり、信頼を重ねていきました。
—— これだけ経験ある人材が助っ人になってくれるのだから、雇うことに比べたら格段にリーズナブルなはずですが、確かに人材の目利きは難しいので、エージェントや地銀さんからの実績面の情報は信頼して任せる後押しになりますね。
そうなんです。そうして検討していただいた結果、バイヤー目線を持っている方が良さそうだということで、二人目に提案した渡辺広明さんに決まりました。
マッチングが成立した後も、フジカさんと渡辺さんとの信頼関係をしっかり構築していただくため、本契約の前にトライアル契約を挟むという提案をしました。
まず最初に、1時間のオンライン面談で経験値や相性を見て頂いた後、日当をいただく形の契約で、関東在住の渡辺さんに愛媛のフジカの工場を泊まりがけで見に来ていただき、社長と対面セッションを行い、提案書を提出してもらいました。
その過程で、渡辺さんがバイヤーとして現在もコンビニエンスストアと直にやりとりしているため、商品開発だけでなく、販路開拓もお任せできるのではないかという評価と信頼を得ることができました。
プロ人材とプロボノ人材の役割分担で、クラッカーの新たな需要を模索
—— その後、新商品開発プロジェクトはどのように進んだのでしょうか?
2021年3月に最初の相談を受け、課題の整理、人材提案、トライアル契約を経て、6月から渡辺さんとの本契約がスタートしました。
渡辺さんから、まずはいろいろな業界に対して、クラッカーの活用可能性をヒアリングしてみようという提案がありました。業界ごとのニーズに合わせて、新商品を開発するという考え方です。
そこで、協業できそうな業界のアイディア出しに取り組み、飲食業界、フードデリバリー業界、スポーツ業界などの新しいアイディアが出ました。各業界のニーズを模索しながら半年ほどかけて商品開発を行い、約10社にアプローチできました。
一通り営業先に当たりきったタイミングで、今度はじっくり顧客育成しながら販路開拓しようとフェーズが変わっていきました。
そのため、2022年2月からは、渡辺さんには引き続き販路開拓に集中していただきながら、新たにプロボノ人材の支援で商品開発のアイディア出しをしていくことを提案しました。
—— プロ人材だけではなく、プロボノ人材の紹介もされているんですね。
そうなんです。クラッカーを世の中に広めるには、パーティーを純粋に楽しみたい層の方のアイディアが重要ではないかと思い、20代~40代の幅広い世代のプロボノ人材6名をマッチングしました。
40日間で3つの商品企画を立案するというプロジェクトで、フジカさんが悩んでいることのインプットからはじまり、具体的なアイディア出し、絞り込んだアイディアの具体化といった具合に、平日夜と土日を使って、1回2時間程度のミーティングを計6回程実施しました。
—— それはプロボノ人材にとっても、楽しそうなプロジェクトですね。どんなアイディアが出てきたんでしょうか?
製品リリース前なので詳細は紹介できませんが、ブライダル向け商品を一般消費者向けに再開発しなおすアイディアや、スポーツ観戦で盛り上がるグッズ、サプライズギフトとして使えるクラッカー、SNS映えするクラッカーなど、幅広い提案が出てきました。現在、大手チェーンの雑貨店やブライダル業者への卸売の話も進んでいます。
—— まさにアイディアが実現するフェーズにあるのですね。
そうなんです。もともとのお題だった新商品開発が進んだだけでなく、金子社長からは「渡辺さんと仕事をできていることに、大きな価値を感じる」という言葉をいただけたのもうれしかったです。
フジカさんは長らく受注生産のスタイルでやってきたので、渡辺さんと一緒にプロジェクトを動かしていく中で、自ら能動的に提案書を出す姿勢や、この場面ではこういう考え方をするんだということに学びがあったようです。
また、従業員の皆さんにとっても、普段は関わることのない首都圏の人たちが楽しんでアイデアを出してくれたことで、仕事へのモチベーションがアップしたと言っていただいています。
「三方良し」の精神で、成果に本気でコミット
—— 社外の人が関わったことで、組織の士気向上にも繋がったのですね。プロジェクトを成功させるため、川嶌さんが意識して介入していたことはありますか?
エージェントとしての業務領域を超えることになっても、成果を出すためにできることは何でもしようというスタンスで向き合ってきました。例えば、渡辺さんとのディスカッションやアドバイスに沿って、フジカさんの社内で会社案内や提案資料を作成することになったのですが、多忙が理由でなかなか進められないことがあり、私が資料の一部を作成させていただきました。また、渡辺さんの壁打ち相手として一緒に新商品の企画を考えて、利用シーンのプレゼン資料作成のお手伝いをすることもあります。
また、プロボノ人材のプロジェクトは、複数人がオンラインで協業したので、最初は私がファシリテーションで入りつつ、その後リーダーを参加者から出してもらい、その方とコミュニケーションをとりながら「次はこうしていきましょうか」といった相談をして進めていきました。
—— そこまで本気で成果にコミットし、前のめりで手を動かしてくれる人材エージェントは頼もしいですね。 川嶌さんはどのような理由でエッセンスに入社したのですか?
私は新卒で都内の信用金庫に入社し、法人と個人向けの営業を2年半経験しました。中小企業を応援して、地域を元気にしたいという想いで就職活動をして、「地域の人と同じ目線に立てる仕事とは何だろう」と考えて、選んだ仕事でした。
しかし、お客様である企業の経営者の方々の話を聞いていると、変化が激しい時代に新たな挑戦をしたいと思った時に、必要なのはお金よりも人材だという相談になることが多くて…。でも、信用金庫としてはお金を貸すことがメインのビジネスモデルであって、人材に関する支援は外部機関と提携しているのですが、これから強化していく状況の為、人にフォーカスした支援をしたいと感じていた時に、エッセンスのサービスを知りました。さまざまな領域のプロがパートナーになってくれたら、地域の経営者が一歩踏み出せるのではないかと思ったため、転職しました。
—— そうだったんですね。川嶌さんが仕事をする上でのポリシーがあれば教えてください。
実は、私の家系のルーツは滋賀県の近江商人でして、「三方良し」をいつも掲げています。お客様やフリーランス人材に喜んでもらうのはもちろん、喜んでもらった先に社会的にインパクトがあってほしいし、双方が喜んでくれたから私も成長できるといった関係性を一番大事にしています。
エッセンスの営業としては、お客様から契約をいただくことが本来の役割なのかもしれませんが、お客様やプロ人材にとっては契約してからがスタート。例えば今回のプロジェクトでも、お客様企業の売上が上がってほしいし、プロ人材やプロボノ人材の方たちにもこの案件を通じて達成感を得て、「クラッカーメーカーを支援して、こんな商品ができたんだよ」と自慢してもらいたい。だからこそ、契約後のサポートも重視し、「三方良し」を実現できるように行動しています。
—— 素敵な考え方ですね。川嶌さんが支援先の企業やフリーランスの皆さんに心から寄り添い、プロジェクトを推進していらっしゃる理由がよく分かりました。本日は素敵なお話をありがとうございました。
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▽活用企業部門 ファイナリスト一覧
・Social Bridge株式会社
https://note.com/frepara/n/n9c47cd01a460
・太美工芸株式会社
https://note.com/frepara/n/n1bed014e19ff
・株式会社林田産業
https://note.com/frepara/n/ne512d669c7d7
▽エージェント部門(個人) ファイナリスト一覧
・鈴木太陽さん(株式会社サーキュレーション)
https://note.com/frepara/n/n50e57417fb98
・南部 晶洋さん(株式会社コーナー)
https://note.com/frepara/n/nd4d586fc965b