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「犯人しか知らない言葉」で唯一無二の表現を! 読み手のハートに響く“さとゆみ流”超文章術

広告や記事に限らず、外部に向けた文章は意外と多いもの。特に近年、広報やPR、採用などの領域でも、“伝わる文章”の価値は高まりを見せています。一方でテクノロジーの急速な発達により、「書く仕事は、近い将来AIに奪われる」という説も。実際、ChatGPTの考えたコピーを採用したり、プレスリリースのたたき台にしたりと、書く業務にAIを取り入れる動きも増えてきています。

やっぱり、書くのは人の仕事ではなくなるの…⁉ という不安に「そんなことはありません!」と話すのは、フリーランスライターでコラムニストの佐藤友美さん。美容系媒体のカジュアルな記事からビジネス系のブックライティング、さらにはエッセイと幅広く執筆活動を続ける佐藤さんは、まさに文章表現の達人! わかりやすさはさることながら、独自の視点と言葉のチョイスで、読む人にしっかりと爪痕を残す文章にファンが続出。”さとゆみ”の愛称で知られ、主宰するライティングゼミは募集をかけるや否やすぐに満員御礼になる人気の講座です。

そのさとゆみさんが、今回特別に「伝える力をつけたい!」と渇望するフリーランスに向けて奥義の一部を公開。AIには真似できない、人の心をがっちりつかむ執筆術を教えてくださいました。

※この記事は、フリーランス協会「Independent Power Fes 2023」内のセッション「ChatGPTにはできない!心を仕留める書き方」の内容をもとに作成しました。

講師プロフィール
佐藤 友美(さとゆみ)さん
1976年北海道生まれ。テレビ制作会社勤務、出版社でヘアカタログやヘアケア雑誌の編集を経て、文筆業に転向。以降、ヘアライター、書籍ライターとして幅広く活躍。また独自の切り口で、様々な媒体にエッセイやコラムを執筆している。
受講生と書くことを共に考える、「さとゆみビジネスライティングゼミ」主宰。卒ゼミ生によるメディア『CORECOLER』編集長。
著書に『女の運命は髪で変わる』(サンマーク出版)、『書く仕事がしたい』(CCCメディアハウス)、『ママはキミと一緒にオトナになる』(小学館)など。

専門家に聞いてわかった! AIが書けないのはいち個人の“生っぽい”話

まず、さとゆみさんが指摘するのは、私たちの間にある「日本語を話す者同士なら伝わるはずだ」という思い込み。確かに会話にしろチャットでのやり取りにしろ、日ごろは表現のことを深く考えなくても、私たちは互いに言葉を交わしています。

「けれども日本語って、そのままでは意味が通じにくかったり、伝えたいことが半分も伝わらなかったり、勘違いや誤解を招いたりと、たくさんのトラブルの種を抱える言葉なんです。

そうした“伝わらない”を、“伝わる”にするのがライターの仕事。いわば、日本語から日本語の翻訳者といえます。言いたいことが正しく伝わる言葉に翻訳されることで、集客や求人に受注、そして信頼やブランディングにつながっていきます。IRでは決算書の表現ひとつで、株価も変わるんですよ」

そして世に出すあらゆる文章のゴールは、誰かの思考や行動を変えること。いわば読み手に向けたラブレターであり、「書き手は、誰に向け、何のために書くのかを明確にすべき」と、さとゆみさんは話します。でなければ、伝えたい“相手”を説得させることなどできないからです。

佐藤友美(さとゆみ)さん。「日本では義務教育を終えると、文章について体系立てて学ぶ機会がほどんとない。意外とみなさん感覚で書いている。だから誤解も生まれやすいんです」

そしてもうひとつ外せないのが、“Rawな表現”なのだそう。

「以前、AI専門家のブックライティングをお手伝いしたときに、彼女が語った言葉です。AIは統計学的なアプローチは得意だけど、いち個人の体験や感覚、その人しか知らないこと、要は生っぽさのある表現は難しいと。でもその“生っぽさ”こそ、人の気持ちを動かすんですよね」

ということは、Rawな表現をマスターすることが、人ならではの価値ある表現につながるはずです。でもどうやって、盛り込んでいけばいいのでしょうか。

さとゆみさんはRawな表現を考える例として、「推しを友達に勧めるシーン」を取り上げます。たとえばシャンプー。次の2つなら、どちらがつい試してみたくなるでしょう?

A:保湿成分は従来に比べて20%アップ。なめらかな指通りでサラサラに。これまでダメージに悩んでいた人にも
B:美容院に通ってない2ヶ月で、美容師さんから「髪質が変わった」と言われたくらいよくなったシャンプーがこちらでございます

「実をいうと、Bは私のFacebookにアップした投稿文。メーカーのサイトでしか売っていない、しかもトリートメントとセットで1万円もするのに、たった2時間で20セット売れました。シャンプーの成分よりも、髪のプロである美容師さんに『髪質が変わった!』と褒められたRawな出来事が、『自分の髪もよくなるかも!』という期待感につながったのでしょう」

シャンプーを通じたさとゆみさんの体験は、まさに超個人的なエピソード。褒められた、泣けた、笑った、助かったなどの経験や、見た、触った、匂ったなどの五感で感じたことが、人の心を動かし行動を変えるポイントなのです。

このような当事者しかわからないことを、さとゆみさんは「犯人しか知らない言葉」と表現します。元は、かつて漫才で一世を風靡した島田紳助さんが、ネタにリアリティーをもたらす術として用いた言葉だそう。しゃべりの天才が伝える極意は、“書く”にも応用できると、さとゆみさんは説明します。

「犯人しか知らない言葉」を導く6つのケース

うまく使えば読み手の共感を誘う文章になるけれど、実際に書くにはなかなか手強そう。でもご安心を。ビジネスシーンでもすぐに活用できるように、さとゆみさんが6つのケースに分けて教えてくれました。

【ケース1】数字を使う

犯人(当事者)の体験の数を伝える方法。さとゆみさんはライティングゼミの受講生と、ある海外のドキュメンタリー映画の上映支援に携わったとき、次のコメントコピーを考えました。

人生で一番感動したドキュメンタリーです。1週間で3回観ました。

「ドキュメンタリー映画って感動するとわかっていても、観るとなるとエネルギーが要りますよね。それを、まあまあ仕事も忙しいであろう佐藤が、1週間で3回も観たとなれば、ちょっと興味も湧きませんか? このコピーで知り合いのマスコミ関係者を上映会に招待したところ、一晩で定員に達しました」

【ケース2】五感を使って得た情報を伝える

現場で見たこと、聞いたこと、それから味に香り、手触りも、文章にリアリティーをもたらします。たとえば出席した会見や説明会について上司に報告するとき、「満席でした」じゃちょっと味気ない。でも次のように伝えたらどうでしょう。

「質疑応答で20人ぐらい手が挙がっていました!」
「ドッカンドッカン笑いが起こっていました!」
「今まで参加のなかったA社が来ていました」

「例に共通するのは、視覚や聴覚で得た情報です。人の動きや会場のようすが伝わって来て、上司も部下を参加させた甲斐があったと感じることでしょう。できたら『こんな匂いがしていた』『こんな手触りだった』といった、視覚、聴覚以外の感覚を用いてみましょう。報告書などに現場にいた人しか体験できない感覚を添えると、一味違ったものに仕上がるはずです」

講演中も時に呼びかけるなどして、参加者の心をわしづかみにしていた。

【ケース3】オンリーを効果的に使う

“○○だけ”、“○○しか”、“初めて”、“たった”といった、オンリー(Only)な表現は、「犯人しか知らない言葉」の代表的な例といえます。さとゆみさんのライティングゼミの受講生が考えたふりかけのキャッチコピーは、常にではない、貴重な反応ゆえに食べてみたく思えてきます。

何を食べても反応しない夫が、唯一「これどこのふりかけ?」と聞いてきたのがこちらです。

「オンリーは自分事だけに限りません。この例のようにパートナーや、クライアントにとってのオンリーでも構いません。推しを際立たせるのに効果的な表現です」

ただし使い方を誤ると、他をディスる表現になりがちなので注意が必要です。

「もし『アイドルには興味ないけど、○○だけは別格』と言われたら、別のアイドルを推す人にとっていい気はしませんよね。オンリーのために、他を下げる必要はありません」

【ケース4】「AなのにB」

「AだからB」と「AなのにB」は、ファッションやグルメの媒体で、ポジティブな言い回しで使われる構文。「犯人しか知らない言葉」になるのは、圧倒的に後者だそう。その例を示したのが次の文です。

犬が人間を噛んでもニュースにはならないが、人間が犬を噛んだらニュースになる。

「“人間が犬を噛んだ”となれば、『人間なのに!?』とビックリしますよね。その場にいた人しか知り得ないですし、意外性に富んだ表現です。ちなみに企画を立てるときにも役立ちます。書籍で通る企画は、『貯金をしないのにお金が貯まる!』みたいな、『AなのにB』のケースがほとんどです」

【ケース5】気持ちではなく、起こったことを書く

たとえば講演会で登壇者と名刺交換をした翌日、お礼のメールを送ることに。次のAとBでは、相手の気持ちがより高まるのはどちらでしょう。

A:感動しました。
B:ノートがメモだらけになりました。

「気持ちだけでも嬉しいですが、相手の印象に残るのはやはりBの表現。『あのお話のところは、ノートが真っ黒になりました』と特に印象的だった箇所を伝えると、講師も時間をつくって話した甲斐があったと喜ぶはずです」

【ケース6】その後の変化、結果を伝える

ケース5の進化形。教えを試してみての具体的な変容や効果を伝えると、より印象的になります。

先生の教えを実行したら、○○さんの態度が目に見えて変わりました。

「ここで紹介した『犯人しか知らない言葉」は、まだほんの一部。ライターはこれらのテクニックをインタビューでも駆使しながら、話を深掘りしています。そしてライティングにも生かすことで、話し手の伝えたいことを正しい表現で、かつパワフルに拡張しているのです」

徹子とタモリの使い分けで“聞く”のマスターに

文章に“生っぽさ”を与える「犯人しか知らない言葉」。けれども読み手の思考や行動を変えるだけの要素を盛り込むには、やはり素材自体が大事になってきます。

「素材集めの王道は、やはり『聞く』こと。ライターの仕事のうち、9割は“聞く”だといっても過言ではありません」

ユーモアを交えたわかりやすい事例が次々と。軽妙な語りも相まって、聞く人を飽きせない。

ではどうすれば、相手からビビッドな話を聞き出せるのか。さとゆみさんが紹介してくれたのは、「徹子で触ってタモリで脱がせる」という、なんとも淫靡な匂いのするセオリー! その真意とは?

「黒柳徹子さんとタモリさんのお二人といえば、長年テレビでトークショーを繰り広げてきましたが、ゲストの懐に入り込むアプローチはまるで違う。黒柳さんが下調べしたメモを手元に、時系列順に広く浅くリズムよく聞くのに対し、タモリさんはゲストの話に『いつやったの?』、『それで?』、『へー、すごいね!』と合いの手を入れながら、気になったことを掘り下げる。実に対照的なんです」

さとゆみさん曰く、“徹子”と“タモリ”の2つを使い分けながら、初出しエピソードを引き出すのが、ライターとしての腕の見せ所なのだそう。ポイントは、徹子からタモリへスイッチするタイミングで、3つのサインを見逃すなとさとゆみさんは話します。

「ひとつは、相手が言葉につまったとき。インタビュー慣れした相手でも『考えたこともなかった』と虚を突かれ、初めて話すことにつながりやすいです。2つ目は、声のトーンが高くなったとき。特に女性に多いです。『よく聞いてくれた!』と、楽しいこと、嬉しいことを思い出したときなどに見られます。そして3つ目は、“僕(私)”が“オレ”になったとき。一人称が変わるのは、『この人、オレのことわかってる…!』と、心を開いてくれた証です」

「取材者視点を持つと、世の中がグッとビビッドに映るように。人生変わります!」とさとゆみさん。好奇心に蓋をしない姿勢は、ライターに限らず大切にしたい。

「いい文章、伝わる文章を書くとなると、常にあちこちにアンテナを張って、注意深く観察するようになります。取材者の目線で生きると、世の中に対する解像度が上がるんですよね」

そして人は、知ろうとする対象に、愛着を持つものだと、さとゆみさん。

「初めは苦手意識のある取材相手でも、ちゃん知ろうと質問を重ねていくと、どんどんわかってきて距離が縮まってくる。いつの間にか、好きになっちゃうんですよね。

だから少し苦手な人がいたとしても、相手にいろんな質問を繰り出してみてください。こんな考えでビジネスをしているのか、こんな細かい工夫をしていたのかと意外な一面を知って、好感をおぼえるようになるかもしれませんよ」

最後にさとゆみさんは、「ちょっと深く聞いてみる質問を重ねる、そして解像度高く周りを観ることを習慣にして、豊かな人生を紡いでいってください」とまとめました。

取材・文/安倍川モチ子
鳥取県出身で東京在住のフリーライター。2011年よりライター(たまに編集者)として活動しはじめ、現在はWebメディアを中心に、 グルメ、 エンタメ、 歴史、 ライフスタイルなどの幅広い分野で執筆している。
X(旧Twitter):@mochico_abekawa
撮影/鈴木江実子

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