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クリエイター必読! 著作権トラブルを防ぐために知っておくべきこと|弁護士・木村剛大先生インタビュー【後編】

 著作権に関するトラブルや問題がたびたび取り上げられるようになった昨今。意図せず他人の権利を侵害する可能性があることに、危機感を感じているクリエイターも多いのではないでしょうか。
フリーランス協会の調査では、「著作権を侵害されている不安を感じたことがある」と答えた人は48.8%、「著作権侵害している不安を感じたことがある」と回答した人はそれを上回る56.2%に上っています。
著作権侵害は、プロのクリエイターとしての信用にも関わります。自身の権利と同様に、他人の権利を尊重しながら創作活動を続けるために必要なことを、弁護士の木村剛大先生に伺います。

木村剛大(キムラ・コウダイ)さん
弁護士(日本・ニューヨーク州・ワシントンDC)、小林・弓削田法律事務所パートナー。文化庁「文化芸術活動に関する法律相談窓口担当弁護士」(2022年度~現在)。 ライフワークとしてアート・ロー(Art Law)に取り組み、アーティスト、アートギャラリー、アート系スタートアップ、美術館、パブリックアート・コンサルタント会社、アートメディア、アートプロジェクトに関わる各種企業にアドバイスを提供している。 ウェブ版美術手帖シリーズ「アートと法の基礎知識」、『クリエイターのための権利の本〔改訂版〕』(ボーンデジタル、2023)(共著、法律監修)、『すごくわかる著作権と授業』(大学ICT推進協議会、2023)(法律監修)など著作権教材の制作、監修にも積極的に取り組んでいる。

前編はこちら👇

注意が必要、意外とやりがちな著作権侵害

広報資料でアーティストの作品を無断で使用して訴えられたり、フリー素材の利用条件を読まずに使用したことでトラブルになったり…。正しい知識がないと、悪気はなくても他人の権利を侵害してしまい、自身のキャリアを傷つけるトラブルに発展しかねません。

フリー素材の使用は利用規約に従って!

「『無料』と検索して見つけたイラストだから問題ない、商用利用でなければ画像を使っていい、SNSへの投稿は商用利用でないからアップロードしても大丈夫、といった誤解はまだまだあるかもしれません。
フリー素材にも著作権はあります。利用規約に従って使う分には問題ありませんが、条件の範囲外で利用すると、著作権侵害になります。また、素材の配布元がそもそも著作権者から許諾をとっていなければ当然その素材の利用は著作権侵害になってしまいます」

弁護士法人HP写真無断使用事件(東京地判平成27年4月15日(平成26(ワ)24391))は、ストックフォトサービスを提供するアマナイメージズ(原告)が「自社で管理する写真素材を許諾なくウェブサイトに使用した」として弁護士法人(被告)を訴えた事件です。

出典:弁護士法人HP写真無断使用事件別紙

「裁判所は、『仮に法律事務所のウェブサイト作成業務担当者が写真素材をフリーサイトから入手したものだとしても、識別情報や権利関係の不明な著作物の利用を控えるべきなのは著作権等を侵害する可能性がある以上当然であり、警告を受けて削除しただけで直ちに責任を免れると解すべき理由もない』として被告の主張を採用していません。
フリー素材だと誤信したという言い訳はなかなか認められないと思っておきましょう」

クリエイティブ・コモンズ・ライセンスで公開されている素材を、利用条件を守らずに使用してしまって、裁判になった事例もあります。

テレビ番組などの書き起こしは「複製権侵害」に当たる

テレビ番組などの発言を書き起こした記事も、著作権侵害に当たる可能性がある、と木村先生は指摘します。

「よくテレビ番組やラジオ、動画配信サイトの番組などを書き起こした記事を見かけますが、これも著作権侵害にあたる可能性があります。
テレビやYouTube番組の発言内容をそのままテキスト化するのは『複製権侵害』となり、著作権侵害にあたるのです。
裁判例では、YouTubeチャンネル「感動アニマルズ」で原告が配信したYouTube動画のテロップを被告が記事に書き起こしたケースについて、著作権侵害が認められています(東京地判令和5年6月12日(令和4(ワ)9090)〔YouTubeテロップ事件〕)。
ただし、自身の見解や分析が相当量入っており、カギカッコでテレビ番組の発言内容を引用しているような場合は、適法な引用として利用できることがあります」

書籍の要約投稿にも注意!

また、Instagramなどでよく見かける本の要約投稿も、著作権侵害のグレーゾーンだといいます。内容を詳細にスライドなどでまとめた場合、著作権のうち、翻案権の侵害に抵触することもあるそう! 
クリエイターに限らず、趣味で読んだ本やおもしろかったテレビ番組などの紹介投稿をしている人にとっても、意図せずとも著作権侵害行為をしていないか、注意をする必要がありそうです。

「知財について正しい知識を持つことも、クリエイターとしてのスキルのうちだと思います。著作権についてわかりやすく解説した本もたくさんあります。自分に関連しそうなところを拾い読みする程度でもよいので、最低限の知識を身につけてもらえたらと思います」

もしも盗用や著作権侵害を疑われたら

最近は、インターネットやSNS上で、「盗作ではないか」「著作権を侵害していないか」と指摘が入り、炎上につながることもあります。ある日突然、そんな指摘が入った場合、どのように対応するのが良いのでしょうか。

似ている=著作権侵害ではない

「そもそも著作権侵害と判断される範囲は非常に狭いです。
イラストのタッチ、文章の文体、写真の構図などが似ていると指摘される場合でも、創作性が認められる具体的な表現が共通しなければ著作権侵害にはなりません。パッと見た印象が似ているからといって、著作権の侵害にあたるわけではないのです」

例えば、実際に裁判になった以下のイラスト(実際には多数のイラストが問題になっています)は、雰囲気に加えて細かな描写も似ていると感じるかもしれませんが、裁判所は著作権侵害を否定しました(大阪地判平成21年3月26日(平成19(ワ)7877)〔マンション読本事件〕)。
つまり、裁判所は、著作権法の評価としては両イラストが似ていないと判断したわけです。

出典:マンション読本事件別紙

著作権法は、著作者を保護する一方で、表現の自由や創作活動の発展を支えるために、アイデアの利用を許容しています。そのため、侵害に当たるかどうかには、厳密な判断が求められるのです。

著作権侵害を訴えているのは誰か?

「また、その批判や指摘を権利者本人が言っているのかどうかも大切なポイントです。権利者でもない関係のない第三者の批判に対して、対応する必要はありません」
 
とはいえ、SNSが炎上したり、誹謗中傷が寄せられたりした場合には、何も弁解しないままではいられない、というのも実際のところでしょう。
説明のためには、作品の創作過程の記録を残しておくことも役立つことがあります。参照した資料があればまとめておいたり、創作日や進捗状況を記録しておいたりすることで説明の材料になるでしょう。
 
「著作権侵害にあたるかは、専門家に相談して対応するのが一番です。例えば、私も窓口担当弁護士としてサポートをしている『文化芸術活動に関する法律相談窓口』に相談するのもよいでしょう。文化庁が2022年に開設した無料相談窓口で、著作権問題に限らず、文化芸術活動に伴い生じる問題やトラブルの相談に窓口担当弁護士が対応しています」

文化芸術活動に関する法律相談窓口
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunka_gyosei/kibankyoka/madoguchi/index.html

類似しているかの判断はとても難しい

SNSでは作品を並べて「盗用ではないか」「似ている」と話題になるケースがたびたび起こります。著作権侵害かどうかの判断はどのようにされるのでしょうか。

「実は、類似しているかの判断はとても難しく、問題になっている作品同士だけを並べて『似ている、似てない』と判断するわけではありません。私は、『縦軸』と『横軸』の両方の視点が必要と解説することがあります。
横軸は、問題になっている作品同士を比較するということです。
他方で、縦軸は、過去にどんな作品があり、既存の作品と比べて対象となる作品、つまり権利者である原告作品にはどこに個性が表れているのか(創作性があるのか)という視点です。
問題になっている作品同士の比較だけではなく、過去の作品との比較もした上で、著作権侵害にあたるかどうかの判断をするのです。
 
うるせぇトリ事件では、原告作品「Mr.BEAK」と被告作品「うるせぇトリ」の類似性が争点となりました。被告からは、様々な既存のキャラクターに関する証拠が提出されて、裁判所もそれらも踏まえて原告作品の創作性について判断し、被告作品との類似性を否定しています」

各キャラクター画像の出典:東京地判令和2年10月14日(令和元(ワ)26106)〔うるせぇトリ事件〕別紙

「もともと類似の範囲はそんなに広いわけではなく、一見似ていると思われる2つの作品があったとしても、判断は簡単ではありません。裁判所でも類似性に関して第一審と控訴審とで反対の結論になるケースもあります。
 
著作者の権利保護と著作物の利用、後発者の表現の自由とのバランスを考慮して、著作物の類似の判断がされることになります」

ただ、著作権の侵害には当たらないとしても、別の作品に酷似していると指摘されること自体が、クリエイターにとってマイナスな評価につながることもあるでしょう。
 
「過去にも実際には著作権侵害ではないと思われるにもかかわらず、世論の批判が出て掲載を取りやめるといった事例が報道されることが度々ありました。厳密な著作権侵害の有無より、世間一般に対する印象やイメージを重視した対応もあります」
 
著作権侵害でないにしても、明らかに先行作品に影響を受けたと思われる作品を発表した場合には、『オリジナリティがない』といった批判を受ける可能性はあります。
 
「オマージュなのか、パクリなのかの線引きは難しいものの、ほかの先行する作品を軽視する態度や作者へのリスペクトがないと受け取られる姿勢は、自身の評価を下げる可能性があることを意識しておきたいですね。当然のことかもしれませんが、先行作品に対するリスペクトの姿勢も持っておくべきだと思います」

契約書では損害賠償の上限を決めておこう

著作権を侵害してしまった場合、フリーランスとして気がかりなのは損害賠償金です。
 
「どのような契約を結んでいたかによって、負担する損害賠償額は大きく変わります。私はクリエイターからの依頼で契約書を見る際、損害賠償の上限を設けることを推奨しています。
 
例えば、意図していないにせよ、著作権を侵害していることが判明し、クライアントが製品の回収をすることになったとしましょう。場合によっては、報酬額の何倍もの損害賠償請求がクリエイターに来る可能性があります。『損害賠償金額は報酬額を上限とする』といった条項を入れておけば、こうしたリスクを軽減することができます」
 
万が一のときも、ダメージが最小限になるように備えるのは、フリーランスとして活動する際の鉄則とも言えるもの。
著作権の帰属と合わせて、損害賠償の条項は必ずチェックすべきポイントといえるでしょう。
 
「先方から提示された契約書に損害賠償の条項が入っていないこともあります。記載がないから安心というわけではなくて、当事者の合意がなければ民法のルールに従うことになります。民法のルールでは損害賠償の金額に上限はありません。また、損害賠償条項があっても上限金額の記載がない場合も、民法のルールに従って判断されます。上限金額を入れたい場合には契約書で文言を追加する必要があります」
 
受け取った契約書に不明瞭な点があるときには、専門家に相談して、適切な修正を依頼しましょう。「この条項の理解は、これで合っていますか?」と、直接クライアントに確認するのも一案です。

トラブルが生じて、損害賠償の請求を受けた場合などは、専門家に相談を。2024年9月15日からは、フリーランス協会の一般会員であれば、弁護士費用保険『フリーガル』も利用可能です。『フリーガル』はこれまで報酬トラブル専用の弁護士費用保険として提供されてきましたが、今後は著作権、商標権、特許権などの知的財産権の被侵害トラブルにも利用できるようになります。
詳しくはこちらをご覧ください。

取材・文/鈴木ゆう子
総合雑誌編集部、住宅編集部などを経て、フリーランスのライターに。犬、住宅、インタビューなどを中心に取材・執筆をしている。
https://x.com/SuzookiYuko

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