闘病記(49) くるみ問題
リハビリ病棟の中央で存在感を放つトレッドミル(愛称:くるみ)。それを使って約15分間できるだけリズミカルに、スムーズに足を動かした後でロフスト杖を支えにして歩く。これら1連のトレーニングで、リハビリテーションの1時間を締めくくる事は、自分に不思議なカタルシスと充実感を与えてくれた。(トレッドミルの愛称が、なぜ「くるみ」なのかと言うことが気になる方は、ぜひこの1つ前の話(48 話)を読んでみてください。
多くの人がエアロバイクを使ったリハビリで汗を流していたある日の朝。トレッドミルの「くるみ」は、あまり人気がないのかなあ、と思っていると理学療法士のTさんから、
「赤松さん、いまから「くるみ」を使いたいと言う人がいてね、できれば訓練の最初に使いたいって。だから、空きが出るまでしっかり別のトレーニングをしようね。」
との話。了解です、ということで、リハビリテーション前半の時間はマット運動や筋力トレーニングをやりながら、「くるみ」を使う順番を待った。ところが、時間が来てもなかなかトレッドミルを降りてくれる気配がない。Tさんが、
「おかしいなぁ。もう時間なんだけど。」
と、少しだけ焦った様子を見せた。
「あの人たちの後に行って、深くため息をついたり、腕組みをして、イライラと貧乏ゆすりをしたりするというのはどう?」
「それは、、、名案かもしれないけどやめておこうよ。いろんな意味で私が仕事をしづらくなる(笑)」Tさんがおかしそうに言った。結局、自分たちは、「くるみ」の近くで、歩行器につかまってスクワットをしたり、足運びを確認したりして交代を待った。
前の順番の人たちは、体につけるハーネスの外し方や、トレッドミルからの降り方などで惑っているようだった。「くるみ」を使い始めた頃の自分を思い出した。誰にでも始まりと言うものはあるのだ。
やがて、順番交代の時が来た。前の人と入れ替わった自分はそれほど苦労することもなく「くるみ」の上に乗り、Tさんも最初の頃に自分のせいであたふたしていたのが嘘のようにスムーズにハーネスをつけてくれた。
それからしばらくの間、トレッドミル「くるみ」に乗る他の人たちが増え続けた時期があった。その間はどうしてもトレッドミルでのリハビリができる時間が少なくなったので、個人的には少々困っていたりもして、心の中で「くるみ問題」と名付けていた。しかし、実際にやってみると想像していたよりもしんどかったのか、ハーネスに体重を預けている独特の感覚が少し怖かったのか、日に日に人数は減っていき、気がつけばトレッドミル「くるみ」でトレーニングをするのは、ほぼ自分たちだけという以前の状態に戻っていた。
この時期が、自分のリハビリテーションの中で最も伸びた期間であったと思う。
そして次の課題が見えてきた。「2つのことを同時に行う」ということ。例えば「おしゃべりをしながら歩く」といった事だ。怖くてとてもできることではなかった。
しかしTさんはそれについても対策を考えていてくれたのだった。
そのことについてはまた、次回以降で。
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