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闘病記(32) 轟左箸男塾

前回のテキストの終盤で、「ここにきて、自分でもちょっと信じられないような根性を見せることになる。」と書いた。いや、書いてしまった。反省。振り返れば自分の根性の大きさはひいき目に見てミジンコレベル。勢い余ってしまいました。
 代わりにと言うわけではないが、今回のテキストのタイトルは根性が入った(ように見える)タイトルをつけてみた。読み方は人それぞれと言うことで。
 さて、自分が左手での箸使い上達のために行ったトレーニングについて述べる前に、「自主訓練」について説明しておきたい思う。ちなみに左手で箸を扱うトレーニングは、この「自主訓練」にあたる。
 回復期病棟の入院患者は、1日に3時間のリハビリテーションを受ける。(理学療法、作業療法、言語療法) 時間帯の違いはあるものの、一日3時間の集中は体力的にも、精神的にもかなりこたえる。
 入院患者にとっては、リハビリと1日3回の食事、2日に1回の入浴を除いた時間は自由時間となる。食堂で大画面テレビを楽しむ人、将棋やオセロをする人、パズルに取り組んでいる人、おしゃべりを楽しむ人など様々だが、この時間に廊下で手すりにつかまって歩く練習をしたり、車いすのまま机に向かい手の動きの練習をするなど、各人が自分の課題に向けて取り組む訓練のことを「自主訓練」と言う。とは言え誰もが気力、体力をリハビリで消耗し疲れていたのだろう。「自主訓練」を行っている人は、ほとんどいなかった。
 そんな中、自分は自由時間のほとんどを右手の動きを改善するための自主訓練にあてた。用具等は特に用意されていないので自分で工夫をした。百均ストアで茶碗やプラスチックのお椀を購入し、それらを机の上に裏返しておき、そこに右手を使ってお手玉を置いていく練習をした。慣れてきたらスピードをどんどん速くしたり、プラスチックのカップで高い場所を作りそこにお手玉を置いたり、素早く回収したりする練習をした。最初はプラスチックの食器に手をぶつけるだけだったのが、少しずつ狙いが定まるようになってうれしかった。
 病院スタッフの中には、自分がずらりと並べるプラスチック製の食器を「赤松タワー」と名づけ、自主訓練を応援してくれる人たちもいて本当にありがたかった。
 他にも、タオルをたたむ、両手で紐を結ぶ、絡まった紐を両手で解く、折り紙を折るなど、思いつく事は何でもやったと思う。
 箸のトレーニングも自分なりに工夫をした。
 まず、百均ショップで様々な色の小麦粘土を大量に買い込んでもらった。続いてそれらを様々な大きさにちぎったり、丸めたり、四角くしたり、薄くしたりなど、いろいろな食材を想定して形を作った。
 問題だったのは「ご飯(お米)」。どうやってあの小粒な感じを作り出すか。そこで参考にしたのが、「獲ったどー!」のセリフで有名なテレビバラエティー番組だった。
登場する2人が、小麦粉はあるが米がないような場合に小麦粉を小さく小さくお米の形にしていく。(これを「ちねる」と彼らは呼ぶ。)自分も、小麦粘土をひたすら「ちねった」。
 こうして、食材が揃うと後はひたすらそれらを箸でつかむ練習をした。これまた百均の皿などを準備し、実際の食事さながらに盛り付けて、お椀や、茶碗に取る練習をした。苦労して作ったお米も食べないまでも実際に口元近くまで運んでみてうまくいくかどうか確かめた。
 小麦粘土は、蓋ができる容器や密封した袋の中に入れておくとちょうど良い硬さのまま保存ができるのでよかった。
 こうして毎日練習するうちに、少しずつ、少しずつ箸使いが上手になっていった。
 以上が自分が、「根性を見せた。」と口走ってしまった内容になる。テキストのタイトルと含め、少しは根性を認めてもらえると良いのだが。(笑)
 
 
 

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