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闘病記(23)絶え間なく。惜しみなく。

パタピシパチ、パタピシパチ…。言語聴覚士、Mさんの指が、ハープを弾くように頬の上で動き、気持ちの良い刺激を与えてくれる。あまりの心地よさに、ついうとうとしかけて目を開けると鏡の中でMさんと目があった。
「本当に申し訳ないですね。指でマッサージまでしてもらって。これじゃぁ、リハビリと言うよりエステティックサロンですね。どうもありがとうございます。」そうお礼を言うと、
「いえいえ、いいんです。赤松さんに合った方法で頑張っていきましょうね。」
と、笑顔で応えてくれた。
 言語聴覚のリハビリテーションでは、毎回ほぼ同じ内容を繰り返し継続することにより、機能を取り戻していく。言語聴覚士の方は訓練の内容に応じて様々な道具を使い分ける。まとめてみると次のような感じになる。
 
①歯磨きの磨き残しをチェック。
 脳出血を罹患すると、口下周辺の筋肉が緩んでしまう。うまく口が閉まらなくなることも        
 少なくない。食事をした際、食べ物のカスが口周りの皮膚と歯の間に挟まりやすくなってしま
 う。病気になる前と同じ歯磨きの仕方をしたのでは磨き残しがたくさんできてしまうと言うこ
 とだ。それらを全部丁寧にチェックし、磨き残しを見つけた場合は、飴玉位の大きさのスポン
 ジのようなもので丁寧に掃除をしてくれる。
 
②顔の筋肉、肌の引き締め。
 金属製のボトルの中に氷を入れ、ボトルの先端についた小さなローラーの部分から冷たい水が
 出る器具(アイスクリッカー)を肌に当て、マッサージを行いながら引き締めていく。毎日繰り返
 すことでたるんでいた口元が引き締まり、何かを飲んでも口から漏れることが無くなった。
 
③電動歯ブラシによるマッサージと顔の体操。
 電動歯ブラシによる小刻みな振動で、頬、口の周り、目の周りなどを刺激していく。それらを
 行った後、目をぎゅっとつぶって後、大きく見開いたりといったような顔の体操を行う。
 
これらのリハビリテーションの後、苦手な言葉の発音、発声の練習などを行い1時間のリハビリテーションが終了する。言語聴覚療法には、理学療法や作業療法と比較すると運動をしなければならないシーンが極端に少ない。寝たままの姿でも何とか可能なリハビリテーションも多く、実際、救命救急病棟から転院し1ヵ月半ほどリハビリらしいリハビリができなかった頃、自分は寝たままの姿で言語聴覚療法を受け続けていた。それを毎日欠かさず続けたことで、水を飲めたり、うがいができたりといった機能の回復の結果へとつながっていったのだと思う。
さて、ここまでが今回の文章のタイトル「絶え間なく。惜しみなく。」の「絶え間なく」にあたる部分だ。
残りの「惜しみなく」は、Mさんが指を使って丁寧にマッサージをしてくれることになったある出来事に関係している。 その出来事については、次回また。

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